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04:北欧のリビングラボ

執筆:安岡美佳
2018年9月25日

はじめに

デンマークやオランダなど欧州北部では、70年代頃から、市民などの利害関係者を巻き込みつつコミュニティ全体で実施する「参加型デザイン」と呼ばれるイノベーション手法が独自に提唱されてきた。当初は、弱者である当事者(搾取されている労働者)を巻き込むためという政治的な色彩が強かった参加型デザイン手法であるが、近年それら北欧で実践されてきた社会的参加型手法は、複雑性、 不確実性が高まる現代社会の社会課題の解決に有効な持続性を兼ね備えたイノベーション・アプローチであるとして国内外から注目されるようになっている。
提唱されてきた多くの手法は、年月を経てコミュ ニティでの活用における最適化が図られ、知見が蓄積されてきた。数々の参加型デザインの手法の中でも、コミュニティにおけるイノベーションと持続的発展を支える枠組みとして、近年注目されているのが、「リビングラボ」である。
本稿では、 北欧におけるリビングラボを中心に調査し、本稿で述べられる「リビングラボ」や「参加型デザイン」は、北欧のものを中心とした概念として扱う。

日本での応用可能性

現代日本社会において、世界各国で妥当性が証明されてきている各種イノベーション手法の活用が期待されている。参加型デザイン、リビングラボもそのうちの主たるものである。しかしながら、現在、日本においては、各種手法の本質、詳細のプロセスなどは、実践に移せるほど理解されているとはいいがたい。たとえば、「リビングラボ」は、コミュニティを活用し、コミュニティ内の社会課題をコミュニティのメンバーを巻き込むことで主体的な解決を促し、さらにコミュニティを充足・向上させる枠組みとして注目されている。実際に日本においても対話を進める場所として構築され始めているが、その先、どのように活用するか、維持するかなどは明確に指針が示されているとはいえない。今後の「リビングラボ」促進のためには、「リビングラボ」とは何かといった本質の理解が欠かせず、その定義や役割、要素、稼働に関して、詳しく理解することが、リビングラボ実践の第一歩となる。

また、このような社会的手法は、そのコミュニティの背景となる社会文化的影響を多分に受けると言われている。そこからも、たとえ、なんらかの文
献やケーススタディが参照になりこそすれ、欧州の知見をそのまま日本で適応することは困難である。リビングラボの仕組みを、日本のコミュニティ
に導入するためには、日本とリビングラボが推進されているエリアの両エリアの社会文化的背景を理解することが不可欠であり、その知見に基づき、より実践的な事例の収集、および、欧州と日本の社会文化的特徴に配慮した手法の分析、比較考察が求められる。

欧州と日本の社会・文化的背景の違いに考慮しつつ、北欧におけるリビングラボ実践の適切な理解を通して、複雑な社会課題に直面する現代日本のコミュニティにおいて、リビングラボの知見を活用することが期待される。

なお、「リビングラボ」や「参加型デザイン」は、欧州ばかりでなく北米でも盛んに利用される用語であり、アプローチであるが、その背景や実践は大きく異なる。北米は、マーケット主体、リーダシップ・ディベートに則ったコミュニティ構築アプローチである一方で、北欧の「リビングラボ」や「参加型デザイン」は、より総体的・社会包括的な民主主義的アプローチをとり、中庸を模索するダイアローグ手法を取っている。両者を比較すると、欧州、特に北欧での「リビングラボ」や「参加型デザイン」は、顧客(市民)を主体とする視点や産官学連携などからも、日本との親和性が高い要素を兼ね備えていると考えている。例えば、産官学連携は、「根回し」「三丰よし」といった思想とも通じるものがある。そのため、本稿では、北欧におけるリビングラボを中心に調査し、本稿で述べられる「リビングラボ」や「参加型デザイン」は、北欧のものを中心とした概念として扱う。

1.リビングラボとは

リビングラボとは、当事者の日常的な生活環境の場でオープンイノベーションを起こす共創(Co-Creation)の仕組みのことで、本稿では次の様に定義する。

多様な関係者が集う(参加型)場で、社会問題の解決、最先端の知見やノウハウ・技術を参加者から導入し、オープンイノベーション・ソーシャルイノベーションを通して、長期的視点で地域経済・社会の活性化を推進していくための仕組み

北欧では、一般的に参加型デザイン、共創デザイン(Co-Design)のアプローチと捉えられる傾向にある。短・長期的なサービス・施設・機器のテストベッドとしてITに関わるイノベーションを支援する組織やその施設でのアプローチとして用いられることもあれば、地域の社会課題の解決法として、地方自治体やNPOによって実施されるケースもある。

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