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陸上短距離の走り方が”走りの基本”ではない理由。

陸上の短距離走の走りは、多くの場合"走りの基礎であり基本"だと捉えられてきた。
それゆえ他の競技で走りの基礎として陸上スプリントの走り方トレーニングなどが導入されるケースも多い。
しかし、身体操作の観点からみると決してそうとは言い切れない。
特に100m走など直線を駆け抜ける形式は、サッカーやラグビーなどの走り方とは根本的に異なる。
陸上短距離走の『走り方』トレーニングをしても、サッカーやラグビー、野球などのパフォーマンスの向上につながらないことも十分に考えられる。
今回はその理由について考察する。



■陸上短距離走とサッカーの走り方は”全然違う”

結論からいうと、陸上短距離走における走り方はかなり異なる。
それは腕の振り方、目の使い方、ステップ幅、意識状態など多岐にわたる。
以下に、サッカーを例にとり両者の相違点を提示する。*ボール操作は省略

上記で示す通り、両者には大枠でみても多くの大きな違いがある。
両方が直線走をしている状況下で、両者の視点からみた他方との走り方の違いを分類する。


▶︎サッカーからみた”陸上スプリント”
誰にも直接邪魔されることは絶対にない
周囲の状況をクリアに把握しなくても良い
相手になるべく察知されないように動かないといけない
スタートだけに集中できる
急加速はスタートの時だけで良い
絶対に直線だけを走れば良い
急に減速しなくて良い
▶︎陸上からみた”サッカースプリント”
相手にいつどこから邪魔されるかわからない
周囲の状況を常に把握していなければならない
スタートはいつでも切れる状態を保持しなければならない
急加速は何度でも行う必要がある
いつでも方向転換できる状態で走らなければならない
いつでも急減速できる状態で走らなければならない
持久力を考える必要がある


サッカーなど球技・チーム・対人競技ではここにさらにボールや戦術ファクターなどが加わる。同じように直線を走っている状況においても、両者は少なくともこれだけの相違がある。

少しややこしくなったので、これらを少し抽象度を上げてまとめて表現する。


▶︎陸上スプリント
直線を走ることに”特化した”走り方である

▶︎サッカー
走りながら急に何かをできる状態を保持しながらの走り方
走りながら同時に他の要因を実行できる走り方


どちらが難易度が高いということではなく、これらは競技特性による走りの構造の違いでありそれらは走る上での、走る能力を高めていく上での前提条件の違いとなる。
これらの前提条件の違いは、走る技術の違いを生み出した。
ということは当然トレーニング方法の違いとして現れるべきである。



■まっすぐ走るだけに特化した走法といつでも曲がれる走法

出典:https://news.goo.ne.jp/picture/sports/pg-20141015-01.html


例えば両者の走り方の違いは、動きとしてはどのように現れるのか。
違いはステップ幅や目の使い方など多数あるが、一例として腕振りを取り上げる。
まず、サッカーから。

彼らの腕はスパイラル状に振られる。現象としては肩甲骨が前後に大きく動き、手首の向きは身体の前に引きつける時と後ろに振る時とでは向きが変わる。

方向転換の際、トップ選手たちは肩甲骨・肩の動きをその”エンジン”かつ舵取りとして利用するため、この動きが”選択”されている。
参照:https://ameblo.jp/bodysync/entry-12297803094.html?frm=theme
*日本人選手はまだこの点が不十分なので欧州のトップ選手たちを参照のこと。

スプリント中にいつでも方向転換をするためには、いつでも肩が動かせる必要があり、そのためには走りながら肩が動いている方が都合が良いのである。

当然のことだが、いくら肩がたくさん動いても頭がブレては話にならない。
同時に、頭をぶらさないようにしすぎて肩が動かないのも同様である。


陸上のスプリントではまっすぐ走るための技術が凝縮されている。
また、後半に減速しないように速度を維持するためにも腕振りの技術は特化される。
腕振りで特徴的なのは直線的に振ることだ。
*スタートダッシュで体幹前傾が強く出ている際は、スパイラルも出現
その時は手の指をまっすぐ伸ばし、手首の向きは変わらない。
横方向への力の発生を抑制し、力を全て前方に集約しつつ減速要素を防ぐために役立っている。
当然、こちらも頭はブレないことが重要である。


▶︎サッカースプリント
肩は前後に速く大きく動く
手首の向きが変わる
手の指は曲げる
頭はブレない
▶︎陸上スプリント
肩は(サッカーに比べると)あまり動かない
手首の向きはあまり変わらない
手の指は伸ばす
頭はブレない


このような観点から考えると、方向転換や加速減速なくまっすぐのみ走るというシチュエーションは自然界ではむしろ特殊であり、その様式に特化した技術体系である陸上の走りは、非常にテクニカルである。
実はあらゆる走りの基礎ではなくむしろ走る技術の中では上位に属するものと言える。
それゆえ、陸上スプリントには”走り方の練習”は多数存在する。


出典:https://www.jiji.com/jc/d4?p=ken101-jpp019207644&d=d4_aaa



■多様性の観点から

私はスポーツを分析する上で多様性という観点を持っている。
いかに多くの種類の運動とその組み合わせを要求されるかという観点である。
例えば野球のピッチングの動きは多様性が低く、バッティングやフィールディングはそれに比べて多様性が高い。


多様性が低いということは、再現性がパフォーマンスの決定要因として大きなものであるということだ。
多様性が高いということは、運動としては複雑な選択を要求されることを意味し、ハイパフォーマンスを発揮するためには常に選択肢が多い状況を保持しなければならないということである。

この観点からみると陸上スプリントは多様性が低く、サッカーは多様性が高い。
陸上スプリントでは再現性が重要であり(毎回フォームがバラバラでは困る)、サッカースプリントでは多様な動きができる状態を保持したままでの走り方が重要である。

この多様性という観点から考えたとき、より限定された(種類の少ない)運動である陸上スプリントは、高度に多様性が要求されるサッカースプリントの基礎となり得るだろうか。
もっというと、陸上スプリント的なトレーニングは、サッカースプリントでいう選択肢を保持し瞬時に選択・実行できるためのトレーニングとして有効かどうかということである。


***


身体操作の観点からみると、今回ここで分類した両者の違いは非常に大きいが、もちろん全てが異なるという意味ではない。
走り方のトレーニングを用いてパフォーマンスアップを図る場合、これらの前提条件を踏まえ、相同点・相違点を見極めた上でトレーニングを行うことが重要である。


全てはパフォーマンスアップのために。



中野 崇 @nakanobodysync

株式会社JARTA international 代表取締役
イタリアAPFトレーナー協会講師
イタリアプロラグビーFiammeOroコーチ
ブラインドサッカー日本代表フィジカルコーチ|2017-
プロアスリートを中心に多種目のトレーニング指導を担う。
Instagram:https://www.instagram.com/tak.nakano/
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中野 崇

1980年生まれ / フィジカルコーチ/ スポーツトレーナー/ JARTA代表 / イタリアAPFトレーナー協会講師 / イタリアプロラグビーFiammeOroコーチ / ブラインドサッカー日本代表フィジカルコーチ / HP:http://jarta.jp
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