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スポーツパフォーマンスの向上には言葉の定義と文化の影響への考察が不可欠である理由。


スポーツのパフォーマンスを高めていくために必要なものは数限りなくある。
その中でも私が重要視しているのは”言葉の定義””文化の影響”だ。
もちろん解剖学・生理学・神経学・バイオメカニクス・物理学などの基礎知識は当然のこととして。
なぜ重視しているのかというと、シンプルにパフォーマンスの向上に不可欠だと考えるからである。
そしてこれらはフィジカルの立場からみて不十分な現状があると感じている。

フィジカルコーチ・スポーツトレーナーというトレーニングやエクササイズを指導する立場からしてみればやや奇妙に感じるかもしれないが、私にとってこれらはパフォーマンスを向上させるファクターを分析・実現する上で欠かすことはできないものだ。


なぜなら全ての”指導”言葉を介して行うものであり、全ての言葉は文化の影響を受けるからである。


今回は言葉の定義について掘り下げていくが、本題に入っていく前に、言葉を定義するという点から確認したいと思う。


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■定義という言葉の意味

定義を使いこなすためには、まずこの「”定義”という言葉」を理解しておく必要がある。

”定義という言葉”の定義:物事の意味・内容を他と区別できるように、言葉で明確に限定すること。

例えば「今日は参加者の人数が多い」と聞いたら何人ぐらいだとイメージするだろうか。
20人と思った人もいるだろうし、100人と思った人もいるかもしれない。
大きな集会をイメージした人は、1万人ぐらいだと思った人もいるかもしれない。


これはよくある例えだが、つまり「多い」という言葉に含まれる情報は人によって異なる。
それを”確認”しないまま、言葉のやり取りを進めたらまずくないだろうか。
この「確認作業」が言葉の定義という作業である。


「多い」に限らず、互いに使う言葉に含まれる情報が異なったままで物事を進めることは大きな損失を生み出す要因でありながら、「同じ言語を使う関係」であるが故に多くの場合その重要性に気づかれないまま蔑ろにされる。


言葉を定義する上で最も重要なことは「限定する」こと。
その空間で言葉を有効に使いこなすためには範囲・量・解釈を限定する必要があるのだ。

言葉の定義例:この場での”多い”は100名以上であることとする。


■言葉の解釈がパフォーマンスに与える影響|スピード

言葉は、人や場面、立場や時代、文化によって解釈が変わる。
解釈が変わるということは、同じ言葉でもその解釈の差異によって引き起こされる(想起)行動が変わることを意味する。

これは特に抽象的な言葉で顕著になるが、具体的だと誰もが考えているような言葉にも落とし穴があることに注意すべきだろう。
パフォーマンスを高めるというベクトルにおいてこの部分を私がどのように考えるのかを述べる。

スポーツパフォーマンスにおける「スピードの向上」という言葉であれば、「スピード」・「向上」のそれぞれの解釈が影響する。
パフォーマンスにおけるスピードという概念は競技によって異なる。

サッカーのスピードと、陸上短距離で要求されるスピードは明らかに異なるものであり、必要な下部構造(ファクター)も異なる。


また、”サッカーのスピード”という範囲でも更にカテゴライズが必要だ。

サッカーにおけるスピードには、構え・準備動作・動き出し・初動・加速・方向転換・減速というファクターが存在する。

*これらにポジショニングやボール操作・予測などのファクターが同時進行的に上乗せされるが、話をシンプルにするために省略する。


これらのカテゴライズが意味することは、”スピードが遅い”原因は複数あるということである。
それを分析すなわち”限定”せずに『スピード向上ためのトレーニング』を行うことは、トレーニングと成果の関係性を保証しないことを意味する。


そればかりか、場合によっては(トレーニングの方法次第では)、パフォーマンスを下げる要因にもなってしまうのがトレーニングという代物の性質である。


多くの選手が課題に挙げるスピードという言葉だが、解釈次第でトレーニング方法とその成果は大きく変わる。


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■言葉の解釈がパフォーマンスに与える影響|向上

次に(スピードの)「向上」の部分。
向上とは、すなわちどういう現象を意味するのか。
こちらも同様に解釈次第で方法論に差異が生まれる。


『スピードが向上した状態』とはどういう状態なのか。こちらも”サッカーの”という前提をつけることでその方法論(トレーニング)が変わる。


とにかく速ければいいのか、それとも減速を前提としての速さが必要なのか。
直線だけなのか、それとも方向転換を前提とする必要があるのか。
誰にも妨害(コンタクト)を受けないのか、受けるのか。


サッカーにおいて『スピードを向上させる』対象は試合の場であって、タイムではない。
すなわち誰にも邪魔されない・方向転換や減速が決してない・直線でのタイムがいくら上がっても、サッカーのスピードという前提に立てばそれだけでは『スピードが上がった』とは言えないのである。

サッカーにおける(スピードの)向上:方向転換・減速・コンタクトに常に対応できる状態で発揮できる状態になること*これを下部構造としてボール操作やポジショニングも付加される

サッカーを例にとったが、これはあらゆる競技で同様に当てはまる構造である。



■言葉を定義・解釈するために必要な2つの視点

限定、つまり定義するためには大きく分けて次の2つの視点が必要である。
引き続き「サッカーにおけるスピード向上」を例に。
*より根本的な方から提示するため、上記とは順序を入れ替える。


1)前提条件による限定
その言葉(スピードの向上)に含まれる情報の前提条件。
例)サッカーにおいてスピードを発揮するための前提条件。
他の競技との違いに着目すると見えやすい。
試しに陸上短距離と比較してみる。

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これらは、同じように直線を走っているように見えても、”状態”は異なることを意味し、同じタイムでもその質を問うべきことを提示している。
当然、トレーニング方法も大きく異なる。
『スピードを向上させるためのトレーニング』を行う上で決して欠かしてはならない視点である。


2)カテゴライズによる限定
サッカーにおけるスピードには、構え・準備動作・動き出し・初動・加速・方向転換・減速というファクターが存在する。
これらはボール操作やポジショニング、戦術遂行などの下部構造に位置する。

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”スピードに課題がある”選手に対して、これらのカテゴリーのうちどのファクターに問題があるのかを限定することができなければ適切なトレーニング方法は選択できるとは言えない。


適切な方法が選択できないままでのトレーニングは、課題に対するタスクとしてはかなり不十分である。


上手くなるためにやっている指導のはずが、言葉の曖昧さによって努力と成果の間にロスが生じるのは本当にもったいない。



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全てはパフォーマンスアップのために。



中野 崇 @nakanobodysync


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1980年生まれ
フィジカルコーチ・スポーツトレーナー・理学療法士
JARTA 代表
株式会社JARTA international 代表取締役
イタリアAPFトレーナー協会講師
イタリアプロラグビーFiammeOroコーチ
ブラインドサッカー日本代表フィジカルコーチ|2017-
プロアスリートを中心に多種目のトレーニング指導を担う。
Instagram:https://www.instagram.com/tak.nakano/
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