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大和川の夜

キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン
緑風が心地良い校舎裏の駐輪場で

「待って…待ってよー」

「あほやろ、遅いねん…早よ乗れって
 てかさぁ…また太ったやろ!」


「いちいちうるさいなぁ…しゃあないやん
 育ち盛りなんやから…それにあんたが
 いっつもケーキ食べさせるからやん」

「ちゃんとつかまれよ」

そう言うと優しく、そして不器用に
彼が私の手をぎゅっと握りしめた

彼との出会いは高校の部活…とは言っても
彼は私の1年後輩…しかも部活も違う…
ただ同じグランドを使っていただけだった
気付いたらそんな彼と、お互い部活をサボって
自転車でアテのない旅に出掛ける約束をしていた

自分は時間もお金もない高校1年生、部活サボんの初めてやけど、バレたら怒られるよなぁ泣
でも行くって決めたし、よし!

そしてひょんな事から始まった2人の冒険に
ルールはたったひとつだけ…それは右曲がり

「曲がり角来たら右曲がりね」

「わかった」

お気づきだろうか?右曲がり…2人乗りで
正門を出発し、角が来たら右曲がりそして又、
角が来たら右曲がり…よく考えれば当たり前だが右曲がり、右曲がり、右曲がり、右曲がり…
見慣れた校舎の周りを、いつも走っている学校の外周を自転車の2人乗りでぐるりと回って
再び正門に辿り着いた…

「あたしらあほすぎる…当たり前やん、
 正門に戻るんわかりきってるやん🤣🤣🤣」

「あかんあかん、今度は曲がり角3つ目を
 左曲がりにしよう、学校から離れよう」

「ほんまや、早よ行こう、早よ行かなマズイ
 誰かに見つかったらあかんから早く早く」

サボってるのバレたらあかんやつやった…
けど誰かに見られたい気もちょっとすんねんなぁ
けどやっぱヤバいよな…自分なんでこんな
ドキドキしてるんやろう…

この日の為に取り付けられたステップにまたがり改めて自転車の旅が始まった
あの頃は2人乗り用のステップなる物が売っていた時代だった

そこからは順調に左曲がりの旅は進んで行った
そして、サッカー部の未来のキャプテンの脚力は気付けば近くの大和川からまだ先を走っていた…

「なぁなぁ、ここどこ?」

「どこやろなぁ…こんなとこ知らん」笑

そう言いながら、キョロキョロと辺りを見回し
看板の一級河川石川の文字が目に飛び込んだと
同時に後ろから…

「なぁ看板に石川って書いてるけど
 石川ってどこなん?初めて見かけたぁ笑」
「けどさぁあこれってまぁまぁ遠いんじゃない?
 ちゃんと帰れるんか心配になって来た🥺」

「せやな…だいぶ来たしもう帰ろうか?先輩
 門限あるし遅なって怒られたらあかんしな」

「じゃあ左曲がりで来たから右曲がりで帰ったら
 ちゃんと帰れる?😆」

こいつほんまに可愛過ぎるやろ笑真剣に
聞いてくるやん笑ほんま笑うわ

「とりあえず行けるとこまで行こうか」

「うんわかった、ほな帰りはあたし前変わる?」

俺を乗せて走る気か?まぁ普段ソフトボール
してるし大丈夫そうやけどな…けど女の子やろ?
ほんまおもろい奴やなぁ笑

「ええよ笑、大丈夫やし」

そして帰路へと出発すると、空はすっかり
夕暮れへと色づき始めていた

「せっかくやし夕日見てたいからこのまま
 川沿い走るか」

「まかせた!しゅっぱーつ!」笑

明るく楽しそうに笑うその声を聞きながら
夕日に向かって自転車を走らせた
そしていつしか気付けば辺りは薄暮の景色…

「なぁ?これヤバないん?ちゃんと着くん?」

不安そうに聞いたその声のせいか、ペダルを踏み込む脚に自然と力が入るのを感じた

「あかんってこのまま夜になったらヤバいって」

「大丈夫、大丈夫、イケるイケる」

内心は早くなる心臓の鼓動が先輩に聞こえて
しまうんじゃないかと思うくらい焦っていた

「ここどこやろ泣?まだ石川なんかなぁ…」

今にも泣き出しそうな先輩の声を聞いて
さらに強く、心臓が脈打つのを感じたその時
目の前に

「なんか看板書いてる…大和川」
「大和川やって大和川!」

後ろから力強くバシバシと肩を叩かれて、
ホッと胸を撫で下ろす自分に少し驚いた…

「けどもうすっかり夜やねんけど…夜って
 まぁまぁヤバない?門限間に合うかなぁ」

「大和川の夜かぁ」

「いや、それを言うなら夜の大和川やろ?」

「ほんまやな…夜の大和川もたしかにある意味
 ヤバいけどな…」

「いやいや…大和川で夜の方がヤバいしマジで
 怒られる…泣」

【はいはい…(ため息)もうええわ…何回その話
 するん⤵︎⤵︎一体何十年前の話よ?それに
 誰が親の恋愛話、興味あんねんやで?全く…
 そんで家帰って、ばばちゃんに怒られて
 晩御飯抜きになったんやろ?(呆れ顔)】

【おとんも、もうちょっと早くおかんを家に
 帰しといたら、こんなにネタにならんかった
 のにな笑いつまで擦られるんやろな、おつ】

「そんなん言うけどそんな事があったから
 あなた達が産まれたんですけどね〜笑」

『ほらもう、そんなんどうでもええから
 冷めるから早よご飯食べや』

【ほんまやぁ〜晩御飯抜きって言われる前に
 食べよっと…いただきまーす🙏】




「主人公 女の子」
「主人公 男の子」
 主人公 女の子心の声・ナレーション
 主人公 男の子心の声
【娘ちゃん】
【息子ちゃん】
『ばばちゃん』





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