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ご当地アイドル

洗濯物が日にさらされるルーフバルコニーで還暦も近い父のハート柄パンツを確認すると突如実家が要塞のように思えたので、平衡感覚のないキャリーバッグを抱え、何柄かも知れないパンツを履いた父にお寿司を食べさせてもらい、今は海鮮臭い指先で改札にチケットを通し終えている。示し合わせたように外は曇っているが、これは車より少し速い乗り物だからカーレースが望める。競争する時の身体は大きい。肥大した舌は早く乾くので巨人は間髪入れない水分補給を要していて戦力にならない。

これから忙しい。スケジュールが予感を強めているだけで、まだ忙しくない。最高速度でそこに駆けつける、そのために私と乗客達は同じ動きをして、季節柄の焼け野原を過ぎなければならない。春の色も少し台頭してはいるが、さもしい冬のレンズでそれは撮影されている。回数券を持っていない。カメラには回数制限があるからこういう回路になる。枯れ木は封じ込められた巨人に似ている。古い洋館にそろりと不法侵入して回転扉を裏返すと、ありえない位置に鳥居が現れた。だから何回も回す。

経験上、案山子の山がもうすぐ見える。見えた。見えた後に全て記述している。こうして経験の歌を歌う。それはズルとも呼ばれていて、物心がついてから二度とやめられない。思いがけなく溶岩に触れてしまった日から水分補給がやめられない。鍵の番号が変わったら私の仕業だと疑って欲しい。誰にも収穫されなかった翌年から野菜はようやく野菜になる。ならば、私の次の行動はもう決まっている。

潮の匂いのする朝だった。私は朝に起きていない。ハート柄のパンツがすでに確かに乾いている。

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