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陳謝

弾丸になって名古屋へ行った。エピソードを話すときの四肢は、自室の四隅を同時に突いている。

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おすすめされた映画に飽きる。おすすめされていない映画に飽きる。歯ブラシが歯茎を傷つける。思い返せばベッドはダブルだったが、なんとかこぎつけて添い寝には成功した。長い夜だったような気がする。いくつもの夢に送り出された。身体がいつもより一つ分自由だったから、畑に着いて仲睦まじく農作業をした。別の区画を手伝いたかった。

朝食会場に侵入し、追い出される。間違えて領収書を貰う。チェックアウトはあっさり終わった。朝の駅前の空気、その布、崩れてくれてありがとう。ここから挽回の願いを込めて紛いなりの観光もしたが、旅は孤独なうちが花のようで、二日目以降はお腹だけが膨れていった。知らない都市にまた行きたい。本心ではだんだん大きくなることを望んでいるが、そういうわけにもいかない。

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