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お父ちゃん

通りを抜ける風を温かく感じたり、ミモザがふわふわしているのを見かけると父とご飯を食べに出かける夜を思い出す。

4月が命日だからかしら。あの時のことはなかなかその時の気持ちを消化できないでいるけど、父との思い出の大半は大笑いすることだった。親として偉大な人だったとは言い難いけど、おもしろかった。

私は4歳のとき川崎病で入院した。
当時はまだ病名も原因も治療法もよくわからない新しい病気だった。
父も医者だけど外科医なので友人の小児科医に聞きまくったようだった。
そして私は大きな小児病院に入院した。

症状が落ち着くまで面会はできないことになっていた。
父は面会できないと知ってひそかに自分の白衣を着て、聴診器を首にかけその小児病院の先生のふりをして堂々と正面から入り、私に会いに来た。
熱で朦朧としていたのでぼんやりとしか覚えていないけど、いつものように黒ぶちの眼鏡の中の大きな目をさらに見開いて私の手をちょいっと触ったところで看護師さんに見つかった。
怒られてる。恥ずかしいと思った。

ガラス越しにちょっとだけいてもいい事にしてもらった父は泣いていた気がする。本当の記憶かわからない。
元気になってから耳にタコができるほどこの武勇伝を聞かされたから。回を重ねるごとに尾ひれが付いてね。
父の話の中では私がすごい泣いてたと言っていたような気がするけど、父がルールを破って大人なのに大人から叱られていてすごく恥ずかしかった記憶があるから、泣いてたとしてもそのときではないと思うのだが。

チャップリンの映画の大ファンの父は登場人物はドラマチックに喜怒哀楽を出しているはずなんだろう。たしかにこの日の出来事をサイレントムービーで脳内再生するととてもおもしろい。

また、父ちゃんのおもしろ話をいくつか書いていってみよう。

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