見出し画像

日常にある呪いの言葉

私は体のバランスが悪いのか、ぼぅーっとしていることが多いのか、過去になんどか派手に転んだ。

ぐずった娘をやっとなだめたドーナッツの袋を左手に持って右手で娘と手をつなぎ、
急いでバスに乗ろうとしたとき娘の小さな足が私の足の間に入り、もつれてもんどり打って地面に。   
倒れていく瞬間、娘のクッションにならなきゃ、でもドーナッツだけはつぶしたくないと思った。
何しろ幼稚園のお迎え時から、スーパーご機嫌斜めの娘を何とかするため費やした時間と、買い食いで何とか機嫌を直すという
母としてはちょっと工夫の足りない手段を使ってしまう悔しい気持ちでいっぱいなのに
手に入れたアイテムがぷふぁーと消えてしまったらかなわないと思ったからだ。
左手のドーナッツと右手の娘を守ったら、
視界に入ったのは不揃いにデコボコしてやけにつやつやしているアスファルトだった。
私の頬骨がまず地面をとらえた。顔も肘も膝も熱かった。
娘は手を擦りむき、口に砂をつけて泣きだす寸前だった。
もう少し落ち着いてから乗ればよかったのかもしれなかったけど、一刻も早くおうちに連れて帰ってあげたくて思わずバスに乗ってしまった。
震えている娘の手を引き、心配そうに見ている人の間を通り、バスの通路を進むと一人の女性が話しかけてきた。と言うより思わず声に出てしまったのだろう。
どこでもちょっと刺激的なことがあった時黙っていられない人がいる。
彼女は私の傷ついている箇所を実況中継のように私に報告し始めた。
興奮しているのでかなり大きな声だ。
「あなた!ほっぺたから血が出てるわよ!目の下も血が出てるわよ!唇も血が出てるわよ!それからそれから.....明日もっと痛くなるわよ!」
怖かったのをなんとか泣かずに堪えていた娘の三角になっている目が涙でいっぱいになってきた。
まだ黙りそうもなかったので、                   「子どもが怖がるからやめてください」と小さな声で伝えた。
本当は「黙れ!」と怒鳴りたかったけどそんなことしたら娘がもっと怖がるからね。
「血が出てる」と言われるだけでも怖いのに
「明日もっと痛くなる」と言う何の根拠もない呪いをかけられ大変腑に落ちない気持ちで座席に座り、やっと娘の砂を落としてあげられ、ママは絶対ドーナッツはつぶさないように頑張ったと言ったら笑ってくれた。

それからずいぶん経ってまた派手に転んだ。
朝会社に行く時、段差はあったけど2センチくらい?いつも通っている道でつまずいたことはなかったのに足先がつかえて、前に出なくてそのままバッタンと前に倒れた。
もちろん手を出したけど支えきれず顎を地面に打った。なぜか膝は打たなかった。
この朝は、その週に会社で上司とご飯を食べいくことのが二人きりだということが直前に判明して、どうやって切り抜けるのか悩んでいた。会社に行くのが憂鬱でいたからよく見えなかったのか
無意識に打開策がこれだと体が反応したのか結果痛い思いはしたけれど、
口を切ってしまったのでごはん食べれませんということで角を立てることなく食事を断ることができたからよかった。
でも会社で同僚に顔はマスクをしていたのでばれなかったけど、手のひらが結構派手に擦りむいていたので転んだことを話すことになってしまった。
「かわいそうに。言ってくれれば掃除代わってあげたのに。膝打たなくてよかったわね。大したこと無さそうでよかった。でも明日はもっと痛くなるわよ。」

この同僚は会社で男性社員が階段から滑り落ちてしまった時も
「すごい大きな音でびっくりしたわ!大丈夫?」
「大丈夫です。」
「大きな音だったわよ!大丈夫なわけない。大丈夫?」
「頭打たなかったので。大丈夫です。」
「大丈夫?ならよかった。でも明日はもっと痛くなるわよ!そういうもの!」

かけられた呪いは受け取らなければよいって誰かが言ってた。
最初のおばさんの呪いは受け取ってしまったのだろう。しばらく落ち込んだ。
この時は受け取らないでいられた。
受け取らないことにするとかけた人の本心が透けて見えてくる気がする。

その後の呪いも受け取らないようにしていたら、この同僚は突然辞めてしまった。
辞める日に社長や専務に酷い暴言を吐いていったそうだ。私のこともいろいろ言っていったようだけど、何にも受け取らないことにしたら
彼女がいなくなって2週間で会社の空気感がさわやかで明るく変わった。
淀んで漂っていた呪いがどこかにいったのかな。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?