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チェルノブイリの土着信仰

「その土地で生まれたなら、その土地で死ぬべきだ」

2014年7月、チェルノブイリ市から東に約20kmにあるパリィシフ村のイワンさんから教えてもらったウクライナの諺(ことわざ)だ。

この言葉はかなり衝撃的だった。

日本人と同じ「土着信仰」的な感覚が東ヨーロッッパの人里離れたこの地にもあるんだなぁと。代々その土地に住み続けてきた故の、土地への愛着、土着信仰ともいうべき切っても切れない繋がり。

2011年の東日本大震災、そして福島第一原発事故で苦しむ人たちの多くが抱えているのはまさにこの「土地との繋がり」だと思う。古くから荒神様など土地神信仰は各地で根強い日本において、その土地に歴史を築いてきた家系であればあるほど、簡単には切れない土地への強い想いがある。土地神様として祀ってきたのにはそれだけ意味がある。そんな想いを仮に「執着」と言ってしまうこともできるが、それは酷な話だ。

パリィシフ村のイワンさんはこうも言っていた。

「チェルノブイリの事故のあと、私の知り合いもたくさん亡くなったけど、原因は避難したことによるストレスだと思う」

イワンさんは原発事故からすぐに、周辺の人と同様に避難させられた。しかし、しばらくして「このままここにいると自分がダメになる気がした。一刻も早く帰らなきゃいけないと思った」と感じたそうだ。そして一年もしないうちに村へ戻った。

愛する村へ帰還して、ゾーンの中で仕事をしながら、庭の畑で野菜を作って、暇な時は川で釣りをして、、、実際にイワンさんの家に行くと本当にのどかな暮らしをしている。そしてもう住み続けて40年近くにはなるというのに、とてもお元気。「皆が死んだのはストレスが原因だ」という言葉には妙に説得力がある。ウォッカを飲みながら「見てみろ!オレはこんなに元気だぞ!」と笑いかける。「このままここに居候しするのもいいかもな」そんな悪魔のささやきすら聴こえるほどイワンは幸せそうに見える。


福島では震災関連死が直接死を上回った

先月、福島県が「2月28日までに震災関連死が2000人を超えた」と発表した。(ちなみに福島県では2014年の2月19日の時点で直接死1607人を関連死1656人が上回っている)これはイワンさんも言うようにストレスの影響を表していると言える数字だろう。

環境の変化によるストレスというのは大きい。転勤族なら慣れているのかもしれないが、それでもその地に慣れるまでには多少は体調を崩したりということもあるはず。気候や習慣はもとより、土地によって磁場など目には見えないものも含めて私たちが日々受け取っている環境条件は多々ある。もともと移動を苦にしない性格・体質でない限り、引っ越しによる環境の変化が与える影響は大きいはずだ。


都内避難者の中にも地元へ戻る人や「戻りたい」人もいるし、「もう戻らない」という人もいる。どちらも正解だと私は思う。それは人それぞれに最適な条件・選択肢が異なる。それぞれの道が早く見つかって欲しいと6年目を目前に切に想う。


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