さよならは黒が終わる前に

このまま夜が明けるまで待って
朝になったら何も言わずに出ていこう
きみの好きなロイヤルミルクティーを作っておくよ
ハンガーにかけられた黒いチェスターコートが
二人の間に境界線を作るように
エアコンの風で揺れている

黒はお別れの色
悲しみさえも隠してくれる
黒は秘密を守る

忘れ物はない?
眠っているきみの瞳が言った気がした

そのまま目を覚まさないで
気持ちが変わってしまうかもしれないから

ぼくたちは細くて長い吊り橋の上で
目隠しをしながら踊るピエロのように
いつか終わるとわかっている恋をした
結末は知っていたはずなのに
物語の終わらせ方がわからない
そんな二人を見かねた神様が
冷たい雨を振らせてくれた

ぼくたちが敷き詰めた千の言葉は
雨の音によってかき消され

映画のエンドロールを見ているように
明かりのない部屋にサヨナラが響いた

ねえ覚えてる?
月が地球から少しずつ離れていくのは
月が地球に追いかけてほしいからなんだよと
ぼくの作り話にきみは真剣な顔で
きっとあなたは追いかけてきてくれないね
そう言ったあの夜のことを


アッサムティーとミルクの芳醇な香りがキッチン包んで
夜の闇がオレンジ色に変わろうとしている
黒が終わる前に
ここを出ていこう

きみがいない青へ歩きだそう
























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