見出し画像

「いいね」に「いいね」が出来たらいいね

「いいね」って何がいいねなんだろう。

なんで「いいね」してくれたんだろう。

恋愛経験値が少なくおめでたい頭の私が、Twitterの「いいね」機能に心を弄ばれている、という話をする。

今やSNSで仲を深めた人と恋に落ちるというのは、よく聞く恋愛の馴れ初めだ。

私にもTwitterのタイムラインに気になる人がいる。

その人、Yさんと知り合ったのはTwitterではなくリアルがきっかけだった。

「オフ会」と称して別のフォロワーさんから誘われたカラオケ会で出会った。その時の私は大学生で、Yさんは私より3つほど歳上に見えた。第一印象はそれだけ。なんなら少し怖そうな人に見えた。しかしそのあと、私は魔法にかかってしまう。

Yさんと映画の曲をデュエットすることになった。「ぼくこの映画が好きで…」「あー!私も好きなんです!」と話が盛り上がったのだ。
高校生の男女が学校のミュージカルを機に恋に落ちていくストーリー…ディズニーの「ハイスクールミュージカル」だ。

選曲をYさんに任せたところ、選んでくれたのは「はじまりの予感」という曲だった。映画の冒頭で歌われる曲で、年越しのカラオケパーティーで主人公の男子と女子が出会い、初めて2人でデュエットし、やがて惹かれあっていく…というシーンで使われている。

そう。

妄想大好きで、この曲をこの時に初めて男性とデュエットをした私は、思ってしまったのだ。

まるで映画の主人公たちみたいだなぁと。

その日は年越しではなかったけれども、恋人たちの日であるバレンタインデーであった。

私の大好きなドラマ「おっさんずラブ」では、部下の春田創一に恋をした瞬間を、黒澤部長はこう振り返っている。

「お前が俺をシンデレラにしたんだ」
(部長は春田から、ガラスの靴を王子様に履かせてもらったシンデレラの気持ちを味あわせてもらったため、こう表現した)

まさに同じ気持ちだ。

Yさんが私をガブリエラ(ハイスクールミュージカルのヒロインの名前)にしたんだ。

これが、私がYさんとの出会いでかかってしまった魔法である。

そしてTwitterの話に戻る。

この出会いを機に私たちは相互フォロワーになった。

私は普段からあまりフォロワーとは絡まないたちだ。

自分の趣味のことを好きなだけ呟けるのが楽しくて、たまにリプライやいいねを貰えると共感を得られた気持ちになって嬉しくなる。そんないたって普通のTLの住人だ。

しばらくして、あることに気づいた。

"あ、またYさんが「いいね」をしてくれた。"

彼は私に「いいね」を沢山してくれるのだ。

その呟きの内容のほとんどは、私の趣味の話だ。Yさんも同じものに興味があるのだろうか。あの時以来リアルで会えてないし、あれからだいぶ時間も経っていたから、彼にそんな一面があるのかよくわからない。

元々、私は趣味に生かされている人間だ。

趣味の世界を軸に仕事を決め、そこから理想の自分を描き、落ち込んだ時はいつも趣味を自分が逃げ込む場所にしてきた。

自分の好きなものを褒めてもらえることは、私自身も認めてもらえたような気がする。
心の中にポンっと花が咲くのだ。

いつしかYさんがくれる「いいね」は、私の心の中で小さな花畑を作り出した。

なんでこんなに嬉しいんだろう。

ふと、あのカラオケのことを思い出す。

もしかしたらあの時、

私と初めて会ったあの時、

彼も映画の主人公の気分を味わっていたのではないだろうか。

私たちの間にも、何かが始まったのではないだろうか。

Yさんに話を聞きたかった。

気持ちを確かめたかったし、彼の呟きを読むうちに人柄を覗いて、この人と仲良くなりたいと思うようになった。

でも、それは難しかった。

何故なら私には既に彼氏が居るからだ。

しかもあろうことか、彼とYさんも相互フォロワー同士となったため顔見知りなのだ。

Yさんは彼氏の友達になってしまった。
ますます近づけない。

彼氏がいるのに、時々あのバレンタインデーの出来事が頭をよぎる。
私はいつからこんな悪い女になったのか。

もどかしい気持ちを抱えて、Yさんと偶然ばったり会えないかなとか、またあのカラオケ屋に行けば会えないかなとか妄想を膨らませて日々を過ごした。

しかし、男同士の輪がやがて私に恩恵をもたらしてくれた。

彼氏を通じて、Yさんも参加するオフ会に混ぜてもらうことができたのだ。

彼氏には悪いけど、私は胸を躍らせていた。

ごめんなさい、今日だけはもう一度私をガブリエラにならせて。

そして迎えた当日、あの日ぶりにYさんと再会できた。初めての出会いから、もう5年ほど経ってしまった。

私はそれとなく、Yさんに私との出会いを覚えているか聞いてみた。


彼は覚えていなかった。

Yさんは、「Twitterではよく見てますけどね〜!」と明るく話を続けてくれた。

「(趣味のこと)凄いですよね‼︎すぐオタ活してお金飛ばしてて(笑)いつも面白いなと思って見てますwww」

面白い。

「面白い」だった。

私への「いいね」は、「面白いね」の「いいね」だった。

その日にやっと目が覚めた。

私が映画のヒロインを気取って盛り上がっていた淡い恋は、

彼氏への罪悪感に揺れながらも長い間消えなかったYさんへの想いは、

全て私の妄想が作った一人芝居だったのだ。

そっか、私のことを女として「いいね」してたんじゃなくて、見てて面白い金遣いが荒いオタクとして「いいね」してたんだ。

なぁーんだ…。

勝手に燃え上がってしまって彼氏にも申し訳ないし、ノーギャラで私の1人舞台に出演させてしまったYさんにも申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


大体、勘違いさせる「いいね」も悪い。

なんでハートマークで表現するのだ。

昔はお星様だったじゃないか。
「お気に入り」と称して星を飛ばし合っていた頃は、Yさんをこんな自意識過剰な目で見ていなかった。

気になる人からハートをもらったら、そりゃあときめいてしまうのが当たり前じゃないか。

「いいね」だけじゃわからない。

「いいね」をしてくれた理由がわかればいいのに。

それか「他でもないあなたがいいねしてくれたことが嬉しいです」という意味が伝わるように、「いいね」に「いいね」ができたらいいのに。

そうしたら私もピエロじゃなくてヒロインになれたのだろうか。

二度目のオフ会のあとも、Yさんは変わらずに私に時々「いいね」をくれる。

ありがとう。
でももうあなたの幸せやプライベートを無視して勝手に舞い上がりません。
今までごめんなさい。

そう思っていても、私が呟く弱音やただ独り言が言いたくて呟いた趣味以外の生活の呟きにまで、彼は「いいね」をくれる。

あ〜、そういうとこ。好きになっちゃう。

「いいね」に「いいね」ができたらいいね。

#恋愛エッセイ
#初投稿
#いいね


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?