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浮遊してやまない(50句)

近作50句。並び方や表記は意図をもってしています。

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 浮遊してやまない   丸田洋渡


このままでいようと思います かしこ


霜 広い川にまつわる日記より

滝という川の倒れているところ

西鶴忌ひといきに見る短距離走

蜩と海との対話そのあひだ

五月雨の終はりのやうに紅葉かな

金柑や何度回って今ここに


秋の日の窓辺に立たぬやうになる


吾亦紅万年筆の漏れかかる

蔦そこまでではないなんて心外

橡の実やそれはもう難しいこと

芒原祈りの届くところまで

水澄みて水の冠の妹

じつくりと海に伝はる秋の雨

蛾のやうに羽を垂らせて象の耳

水晶化君はちひさき草の図鑑

さんざんかけた紫苑へ還りくるすべて


木犀を中心に浮遊が始まる


芒原叫びあう鳥を見る会

同速度の鳥はその場所ではためく

出発の汽笛のやうに威銃

秋曇こんこんと湧出する火

月夜ありあまる東京に出口の数

傘折れてしんみりとして秋海棠

どんぐりや話して終わる昼休み

凩を友だちの家改まる

日記には良いことを書く蓼の花

心臓と心象の塔秋の象

体を降りる階段かけめぐる雷

海を飼い小さい場所に鶸のくる

口述の歌に漸近する葦火

ひらかれる本の苦しみ榠樝の実


短日や花を究めてゆけば咲く


夕焼に終わった機械良い姿勢

逆算は海に到れり十一月

十一月銃はいきおい火はおそい

冬立ちて未完の胸を飛びたつ詩

梯子より足を離して冷たき屋根

幽天や谷両腕に山を持ち

水引や回転扉ぐつと押す

頬ずりの暗くなりけり雪催

咲ききれば咲かれるごとく菊の花

霜月の四手のための楽譜かな


栞紐みだらにまはり蜜柑山


じゃがいもにじゃがいもの乗る良い料理

冬の水あるいは昔あるいは星

公園にいちにちの城冬夕焼

音楽のすべてより鴨の出てくる

林を想いうつろになる雪洞


遠くからくる日のように愛せたら






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