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激突 愛国者学園物語41

 ある秋の日、それが火を噴いた。


 その有様を記録した映像や証言は山ほどある。事件の当事者たちは日本語とフランス語を使い、動画撮影機材もルイーズたちのカメラと、学園が学園生たちに支給した数多くのiPhone、それに付近の監視カメラなど様々な媒体が混在していた。また、ネットを通して事件の一部始終を見ていた目撃者たちも、フランス本土の者、日本各地の人々、その他、全世界に散っていた。

 それらの様々な特性や所属を克明に書くと、二郎ラーメンのように文が膨らむので、どうでもいいような細部は省略しよう。

 その発端はルイーズが学園の前に来て、動画を撮影したことがそのきっかけだった。ルイーズは、日本人の友人に持たせたカメラで撮影し、それをネットで生中継するという一昔前のマスコミまがいのことをしていた。ルイーズたちが中継を始めたのは金曜日の14時ごろ、フランス時間の朝7時だった。

 フランス人視聴者のひとりは、のちにこう語った。最初、ルイーズは愛国者学園に関する一般的な事柄を話していたが、次第に表情が厳しくなり、それに連れて話にも棘が増えた。


 「ここが悪名高い、極右少年を育成する学校です。神道だけを信じ、天皇制への絶対忠誠と、祖国防衛のために自己犠牲を厭わない愛国心を教えています。現代社会に、ヒトラーユーゲントまがいの学校があるなんて信じられない。それも、平和国家を自認する日本で、ですよ?」

 彼女はその後、第二次世界大戦のころ、子供たちに愛国心を教えて兵士などに仕立てるシステムがいかに危険だったか。また、現代の世界に約二十五万人いるとされる少年兵を例に挙げて、ここは少年兵の製造工場ではないでしょうか。子供に愛国心を強制し、敵を攻撃するような態度を教え込むことは異常です、などと語った。視聴者の一人は、彼女は興奮状態にあり、目が少し潤んでいたことが印象的だったと、のちにフランスのメディアに語った。

 愛国者学園の学園生からすれば、それは全く異なって見えた。彼らは本当ならその日の15時から帰宅できるはずだった。だが、カリキュラムの都合で1時間早引けすることが可能になり、学園生たちの多くが家に帰ることにしたのだ。いつも学業や必修クラブに励む彼らからすれば、1時間の余裕は珍しかった。そしてそれが、この不幸な事件に火を注いだ。


 傲慢なルイーズでも、自分が非難する子供たちと鉢合わせすることは避けるべき、は想像出来た。ところが、それが現実になってしまったから、ルイーズは収録をやめてすぐにその場を立ち去るべきであった。

 しかし、そうはならなかった。不幸の連鎖はまだあった。学園の警備員たちも所用で席を外していたからだ。もし彼らがいたら、あるいはルイーズと学園生たちの対決に介入できたかもしれなかった。

 学園生たちは見た。肌の黒いアフリカ人風の女性が興奮した口調で、自分たちの学園校舎を指差し何かを盛んに話している。そして、それを日本人らしき女性がカメラで撮影しているのだ。

 動画には、ルイーズの話し声とともに、「ねえ、何をしてるの?」と言う男の子の声が混ざっていた。ルイーズが感情を爆発させる数分前のことだった。加えて、その直後、日本人女性の「しっ、静かに」という少し怒りのこもった声が録音されていた。

続く 

大川光夫です。スキを押してくださった方々、フォロワーになってくれたみなさん、感謝します。もちろん、読んでくださる皆さんにも。