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日本社会が危険な理由        愛国者学園物語30

 ジェフとマイケル、それにその友人たちは日本を愛するグループとして仲がとても良かった。彼らの付き合いは今でも続いているが、それぞれが出世したので、以前のように、集まって馬鹿話は出来なくなったのが残念だった。

 彼らは日本人や日本文化に深い関心を持つものとして、それらの話題を、寿司から歌舞伎、通勤地獄にアニメや日本のアダルトビデオに至るまで、ありとあらゆることを話し、ときには激しく意見をぶつけ合った。

それら喧々囂々(けんけんごうごう)の議論のような、馬鹿話のような会話では、ときに日本人の弱点も話題にしたが、彼らは避けることなくそれを俎上(そじょう)に上げた。


 2011年のある晩の話は今でも「真夏の愛の夢」として、彼らは語り継いでいた。彼らがそんな前のことを覚えているのは、それが印象的だったことと、東日本大震災が発生する1週間前の出来事だったからからだ。

 

ジェフたちは、ため息をついた。
ふと話題が、日本人は主張も議論もあまりしないのはなぜだ? になったからだ。日本人と日本社会には乗り越えるのが困難な、そういう壁があることは、この飲み会の参加者みんなが知っていた。

 日本では昔から、特に男が言い訳するのは良くないとか、沈黙は金、それに世の中の非難に動じるのは良くない、などと言う考えから、自分の意見を主張しないことをよしとする風潮が根強くあった。


 さらには、自分の意見を言うと、周囲の人々との調和を乱すという過度の配慮により、会議や集会などでも、自分の意見を言わず、他の人の意見に同調する人は少なくないことは、ジェフたちのような外国人の目から見ても事実だった。


 ジェフたちは思った。
「日本人には意見を言わない。沈黙が金だと思っているのか」
「会社員たちは、いつも上司と同じことを言う。どうして、彼らはああまでして上の人物に服従するのだろう」
「グループの中で、誰が意思決定者なのかわからないことが多い」
「みんな同じ意見を言う」


「日本人と議論するだけ時間の無駄じゃないか」
「一人一人は悪い人じゃない。みんな意見を持っている。しかしそれが表に出ない。議論をしてもみんな黙っている。日本人には議論して話題を深めるということをほとんどしないのか」
「日本には、言論の自由はないの? 日本社会で、自由に意見を言うことは罪なのかしら?」

「目上の人の意見を大切にしましょう。他の人との調和を大切にしましょう。意見を言うときは控えめに。それが日本社会のルールだ。一見、それは周囲との調和を大切にしているように思えるが、実はそういう行動には、目上や多数派の意見に無条件に従うという危険が潜んでいる。それは言うまでもない、ファシズムを社会に蔓延させる危険な要素になるんだよ」
「本当なの? あなたは結論を急ぎすぎじゃない?」

「いいや違う、日本的な和の精神は、社会に危険な思想が生まれるのを見逃したり、それを無条件に人々が受け入れてしまう土台になりかねないんだ」
「危険なものを危険だと言えない社会か?」
「そういうことだ」

これは酔っ払いどもの馬鹿話だった。しかし、どこか的に当たっていることも事実だった。


 ジェフはジャーナリストとして、マイケルは日米軍人の交流事業に関わる人物として、仲間たちも教師やビジネスマンとして日本人に接していたのだ。だから、彼らの言う日本人の姿は空想の産物ではなく、その印象は彼らが実体験で得たものだった。そういう日本人たちと接する毎日の中で、彼らは日本社会の壁にぶち当たることはよくあった。例えば、「上司と部下の意見の相違」だ。

続く 


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