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いちごちゃん攻撃 愛国者学園物語23

 あるグループは大きなデモ隊を組織して米大使館に押しかけ、そのホライズン誌をわざとらしく破り、焼きすてるパフォーマンスを行った。極右新聞は、愛国的な子どもたちを侮辱することは許さないと、愛国者学園を援護した。

 別の大集団は、ホライズンの、日本でのビジネスを委託された会社をデモ隊で包囲して、その不買を呼びかけた。が、アメリカの雑誌なんて大多数の日本国民にはどうでも良いことだったから、何の効果もなかった。亡くなった方の葬儀は静かに行われ、多くの日本人がお別れを悲しんだ。

 ホライズン社は、日本人至上主義者たちと戦うことに消極的だった。しかし、かつての編集長で、今はそのホランズン社を抱えるメディアグループのCEOジェフが、

「ああいう連中に容赦するな。このままでは、日本発のファシズムが世界に広まる。それを阻止するんだ」

と大号令を発して現場を励ましたので、彼らはやる気になった。


 一見弱腰でも、実は、長年の経験で過激な連中とやりあう術を身につけていたホライズン社は、敵の抗議活動を逆手に取り、記事にまとめて売りさばき、好評を得た。

 そこで、日本人ハッカーグループが、ホライズン社にサイバー攻撃を仕掛けたところ、想像を絶する力を持つ「誰か」が、ネット上でそれを邪魔したため、攻撃は失敗した。その意味を悟ったハッカーたちのリーダー「イチゴちゃん」は、グループを即時に解散させ「逃げて」という言葉を残して、ネットを閉じた。

 慌てた彼女は、バッグに札束一つとパスポート、お気に入りの下着だけを放り込み、ラグドール種の猫「ファルコン」を叩き起こして、ケージに押し込んだ。そして、深夜2時17分に姉夫婦の家を急襲した。

 寝ぼけ眼の姉は、女神の異変に泣き叫ぶファルコンの大声に驚くとともに、自慢の妹が「ごめんね」と言い残して走り去ったことに絶句した。姉はマスコミの取材に対し、妹があのように異常なそぶりを見せたことはなかった、あのときの彼女は涙目だったと答えている。


 「イチゴちゃん」はタクシーを止めて、羽田空港に向かうよう依頼した。こんな時間にですか? と嫌がる運転手に二万円差し出して彼を黙らせ、彼女は目を閉じた。

 羽田空港で夜明けを迎えた彼女は、航空会社のカウンターに飛び込んで、現金で航空券を買った。そして、アメリカ西海岸風カフェで、飛行機の出発時間を待った。


「(クレジットカードを使えば、それを使用した場所と買った物の履歴から、今後の行動がバレてしまうかもしれない。現金なら追跡は困難だけど、それも時間の問題かも……。
 海外に逃げても無駄かしら。あの攻撃を邪魔した連中が「あいつら」なら、どんなことでもできるはず。もし、ここがアメリカなら、自分は即時に射殺されるかもしれない)」


 彼女は自分が逮捕されるであろうことを予見し、胃痛に耐えていたが、やがて緊張の糸が切れ、うつらうつらしはじめた。

 彼女が現実と夢の国を行き来していると、隣の席の女性が発した「なにあれ?」という奇妙な声のせいで、少し目が開いた。
「(なんだろう)」
ぼやけて見えるガラスの向こうに、
「(サブマシンガン? MP5だ!)」


続く


大川光夫です。スキを押してくださった方々、フォロワーになってくれたみなさん、感謝します。もちろん、読んでくださる皆さんにも。