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ホライズンは叫ぶ 愛国者学園物語22

 ここで話は、ある皇族がお亡くなりになった後に戻る。愛国者学園の関係者は、日々、何らかの形で皇族のことを賛美し敬愛することを行なっていた。それらの「下地」があるから、学園生たちがある皇族の死を悲しむのも無理はなかったのかもしれない。しかし、国際社会には学園生たちを厳しい目で見る者たちがいた。

 愛国者学園を非難したのは、第二次世界大戦とその前の時代に日本に支配された、東アジアや東南アジアの国々だけではなかった。欧米も、だ。


 当時のファシズム社会に懲りていた欧米は、特に、愛国者学園を危険視した。彼らは、ナチスドイツが少年たちを危険な愛国者に育て、ユダヤ人などの迫害に投入していたことを覚えていた。精神的に未熟な子供に武器を持たせ、祖国への忠誠心をテストし、外国人狩りをさせる。

 その結果、危険な人間を多数、社会に送り出してしまった愚行を彼らは忘れていなかった。だから、奇妙な言い方をすれば、日本人よりも外国人の方が、愛国者学園のことを考えていたのかもしれない。

 しかし、日本では、愛国者学園を賞賛するか、関心がないか、毛嫌いして無視するという視点しかなく、その問題点を考える者は少なかった。

 愛国者学園が日本古来の神道を大切にし、皇族方に敬意を払い、愛国心を叫ぶのだから、そのどこが悪いのかと言う強い論理が、彼らを守っていたからだ。どこの国でも、宗教や王族、それに愛国心を大切にするのは当たり前だ。日本の場合、それを完璧に守っているのが愛国者学園なのだ、と言う話になり、その問題点は充分に考察されたとは言い難い。

 アメリカの有名な国際ニュース雑誌「ホライズン」は「ストレンジラブ」と称する、この件に関する特集を公表した。

 そして、社説で、愛国者学園の子供たちは何かに取り憑かれている。そのエネルギーが内に向かえば、皇族の死を過度な態度で悲しむが、それが外に向かえば、やがて、皇族に関心を持たない人々を糾弾するような危険な行動を起こすだろう、と伝えた。


 日本人の子供たちが、祖父母を愛するように高齢の皇族に親近感を抱くことは、私たち外国人にも充分理解出来ることだ。だが、某皇族の死去に際し、愛国者学園の子供たちが見せた悲嘆ぶりは、彼らの心を疑いたくなるようなわざとらしいものだった。

まるで、民族の最高指導者の死を悲しんで泣き叫ぶ、北朝鮮の大人たちではないか。愛国者学園の子供たちは、本当にあれほどの悲しみを感じているのだろうか。まるで洗脳された人間のようだ。あるいは、誰かに命令されて、そうしているのではないか。これが社説の要旨である。


 その記事に、日本人至上主義者たちは激怒した。皇族関係の記事に彼らは黙っていられないからだ。それに記事の「ストレンジラブ」という題名が、ある映画をパロディにしたらしい、という噂もあった。

 その映画は、「2001年宇宙の旅」やベトナム戦争映画「フルメタル・ジャケット」で有名な、スタンリー・キューブリック監督が、1963年に製作したものだ。この映画、正式な題名は

「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」という。


冷戦期の米ソの核戦争を題材に、精神的におかしくなった米軍の将軍が爆撃機部隊をソ連に発信させ、核攻撃を命令するというもので、登場人物の多くがどこか「おかしな」精神構造の持ち主として描写されている。「ストレンジラブ」とは、物語で重要な役割を果たす科学者の名前で、元はナチス・ドイツの下で働いていたが、米政府との取引でアメリカに渡り軍拡に協力した博士だ。

 日本人至上主義者たちは怪しげな情報に激怒した。あのホライズンは、核戦争を皮肉ったブラックコメディ映画「博士の異常な愛情」を題材に、愛国者学園の学園生と「あの方」を侮辱しているのではないか?


続く 

( この話はフィクションです。登場する雑誌名は架空のものです。映画は実在します。)

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