見出し画像

【ショートショート】 ボーナス

「普通」と書かれた方向幕。

ターミナル駅から揺られて30分で駅についた。
階段を登り、降り口の改札を抜けてしばらくしても乗ってきた電車はホームで時間調整のためにまだ停車している。


出勤時は駅に吸い込まれるように人の流れが波のように続いているけれど、この時間は駅前のロータリーも商店街もゆったりとした時間を過ごしている。


駅周辺には帰宅前の一杯を引っ掛ける人たちがたむろしている。
サラリーマンは幹事とおぼしき人について行き、もくもくと煙を出す焼き鳥屋に。
「わー。」「きゃー。」と他愛もない会話に騒ぐ大学生くらいの男女のグループは「全品399円」の居酒屋に入っていく。


世代ごとに明るく盛り上がる自宅までの道程、沢山の人が往来する駅前の信号を渡るとアーケード商店街。
その中を歩いて帰る。

アーケードの出口あたりで夕飯をいつも買うコンビニが見えたが「今日はこっちにしよう。」と通り過ぎ、向かいの酒屋に入った。


自動扉が開くと、効きすぎのエアコンの冷気を一気に感じる。
中央の棚には地域の地酒が蔵毎に並べられていて、店主の手書きのPOPで「夏酒入荷しました」とだいぶ達筆な文字が壁掛けカレンダーの裏紙に書かれている。


店舗の奥の棚に目当てのものを見つけレジに置く。


「ご贈答用ですか?」と聞かれた。


自宅用である旨を伝えると、店主は包装紙を取り出す手を止めてフックに掛かったビニール袋に商品を入れた。
会計を済ませて店を出る。



今日はボーナス。



袋にはおまけで貰ったビールのグラスと15年もののスコッチが入っている。

最後まで読んでいただきありがとうございます。 他の記事も是非どうぞ。 スキやSNSでシェア、サポートしていただけたらとても嬉しいです!