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ビートたけし『アナログ』

ここ最近、「ビートたけし」をひしひしと感じている。子供の頃から「世界まる見え!テレビ特捜部」や「奇跡体験!アンビリバボー」等のテレビ番組を見て、ビートたけしという面白いおじいさんが出ているなあという認識はあった。2000年に『バトル・ロワイアル』が公開した当時は小学生だったから、「私語してんじゃねえ!」と教師役のたけしが生徒の眉間にナイフを投げつけるシーンで、ピコピコハンマーを振り回してる普段のおじいさんたけしとのギャップにかなり恐れ慄いたのを覚えている。Amazonプライムにバトル・ロワイアルが入っていて最近そのシーンだけを繰り返し観た。グレーのジャージ姿がSuchmosみたいで格好良かった。Amazonプライムはこういう、映画のワンシーンだけどうしても気になる時なんかに重宝する。贅沢な時代になったものだと思う。

学生になり、借りてきた映画を観る習慣が出来て今度はたけし映画に進んだ。「血まみれになるまで人をビンタする」「さっきまで元気だった人が急に頭を撃ち抜く」など、不条理な暴力や威圧、笑ってはならない張り詰めた雰囲気を作り上げるそのことこそがイコール面白さになっていて、予定調和を一気に覆す。私は『家族ゲーム』の松田優作が食卓を滅茶苦茶に荒らすシーンや、『ディープ・ブルー』で説教を垂れている最中のサミュエルL・ジャクソンが後ろからサメに食われるシーンなど、「えっなんで?」が無性にツボなのだが、たけし映画の張り詰めた空気、からの緩和もかなり面白く思った。

ビートたけしの「小説」は初めて読んだ。『アナログ』。主人公が意中の女性とデートをし、後日友人2人に報告するシーン。

"「クラシックのコンサートに行ってきたんだよ」

「クラシックか?あ!古いやつだな。東海林太郎とか、菅原都々子」

「あのね、それは古い歌手じゃないか!」"

舞台は2010年代の東京で、主人公も友人も30代である。会話で「現時点のおじいさんが思いつく、もっとおじいさんやおばあさんの有名人」を喩えに出すわけがない。

女性も女性で、「古今亭志ん生の落語は画家で言えばピカソで、桂文楽はマチスだ」などと言う。北野演芸館でオードリーの出番後に「あんちゃんたちの漫才はよ、あれだな。キュビズムだな」と評したたけしそのまんまである。終盤の展開はドラマチックが過度だ。などと、細かくそんなわけないだろというシーンはあるのだけれども、それさえも踏まえて「そんなわけないだろ」という突っ込みありきで、頭を差し出しているように思う。この小説は、「ビートたけしがずっと喋っている」というふうに読んだほうがいい。

バレバレのカツラを被っている上司やブスのデリヘル嬢も登場し、たけしって一生カツラとブスの風俗嬢というアイテムがツボなんだなと微笑ましくなる。帯の文句に「狂暴までにピュア」とあるけれども、70歳を迎えても尚ヅラとブスがツボなことが私はツボである。云わばマンネリであり生涯を費した予定調和。そう考えると、映画における突発のバイオレンスとも相反する位置にある笑いの取り方だ。やっぱりビートたけしはすごい。第一、「"ビートたけし"と呼ばれている古希で金髪のおじいさん」なんか地球で一番面白い。


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次は「華氏」という文章を書く予定です。

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