京阪に異常はありません

大阪に暮らしてから4月で丸5年になり、職場は京都に変わった。それまでは東京で5年暮らしていたので、東京に5年、大阪に5年住んだ初の人間ということになる。


大阪市の南から通っているため勤務地まで1時間20分ほどかかる。京阪電車を利用しているのだが、勉学に励む大学生さえ居なければ座れるものの既に座席は占領されてしまっており、股ぐらにビジネスバッグを挟んで片手につり革を握り、面白くもないYahoo!ニュースをスマホで読みながら通勤している。特急・枚方市駅で「降りろ!!」と眼を見開き目の前で寝入っているサラリーマンを操ろうとするものの大概は魔力が足りずに最後まで運命を共にする羽目になる。誰がどの駅で降りるのかが頭上に表示される腕輪が欲しい。


大阪では、堺市に3年、大阪市内南部に2年住んだけれども、取り立てて人情めいた出来事もない。近所に立ち飲み屋があり、月に1、2回程度の割合で通っているが、別段店主と会話も交わしていないし、先日は店に入るなり「生で。」と頼んだところ「はい?」と耳をそばだてて聞き返された。サラリーマンが立ち飲み屋でのっけから「ファジーネーブル。薄めで」とはなかなか頼まないだろうし、「お坊さん」と言ったわけでもない。確かに、暖簾をくぐった一言目が「お坊さん」なら「はい?」となるには違いないが。「生で。」は7割以上の来客が初めに発するフレーズだろうから、それを聞き返されるなんてよっぽどだ。社会に出てそこそこ経ったが、地位が上の人間で声の通らない者は存在しない。


他の常連たちとの会話に忙しくオーダーが通っていない経験もままある。こちらとしては最後のホルモン串一本と飲む用で計算してライムチューハイを追加しているわけだが、それが届かないとなると裸でライムチューハイを飲んでいる要領の悪い男と捉えられてしまう。いや、別段こちらに誰かが注意を払っているとは到底思われないのだけれども。無理矢理に流し込み会計し、スーパーで1本、本絞りを追加で買って帰った。初めからそうすればよかったのに。


土着の人が多い地域はどこもそうだと思うが、特段こちらから能動的に関わり合いを持たない限りは向こうから招き入れられるケースは少ない。私は致命的にその能力に欠けている為に余り人脈が広がったとも言えないが、それでも数人はよくしてくれているお陰でなんとかやっていけている次第だ。


先日桜の終わる頃に、会社が早く終わったので鴨川沿いから三条河原町の辺りまで歩いた。京都は洗練されているけれども田舎者には落ち着かない。アディダスのジョガーパンツからアキレス腱を露出させ、左足に「DOLCE」右足に「GABBANA」と書かれたスニーカーを履いた270cmほどある成人男性が三条大橋を歩いていた。あんな外国人の名前が書かれた足で蹴られたらひとたまりもない。


寺町商店街にあるお店はどれも時代の最先端を露出して真っ赤になっている。めがねのJINSですら「JINS」と屋号の書かれた提灯を軒先にぶら下げ、コンクリート打ちっぱなしの店内にめがねが整然と並べられ、ライトアップされている。地元のイオンモールに入っているめがねのJINSと同じ商材を扱っているとは信じられない。


ラーメンの天下一品もおしゃれで、ロゴがネオンで点灯しており、だからなんなんだよ、年一で食べたら美味しいだけだろ、お世話になっておりますという様相を呈している。アパレルブランドの直営店も多いし、最近はLINEのオフィスやAppleショップまでできた。錦市場は休日歩くのもやっとなぐらい人出があるけれども、漬物やお菓子を配っている人がたくさんいる。こじきは2往復ぐらいすればお腹が満たされる。

軒並みこの辺りは昔ながらの店以外は代謝が激しくて、首が長く彫りの深い男がイタリア料理を振る舞うなどする真新しい施設なども増えている。いずれにしても男が一人で頭を掻きながら入ってもよさそうな構えの店は少ない。家にいればごちゃごちゃと考える必要もなくなるから、暑くなるこれからは冷房の効いた部屋でアイスコーヒーを飲みながら高校野球でも観るのがいいだろう。大阪と京都については以上です。

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