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ファクトチェック講座6:動画の検証 InVIDとYouTube検索

近年、特に増えているのが動画での偽情報/誤情報です。動画プラットフォームのYouTubeやTikTokを中心に、他のソーシャルメディアへも拡散していきます。画像と同じく、改変や文脈を変えてミスリードする事例が目立ちます。オリジナルを探すという対策も共通です。見ていきましょう(記事の最後にオンラインセミナーの案内を添付したので、そちらも是非ご参加を)。

その要約や翻訳は正しいのか

動画の誤情報/偽情報というと、最近話題のAIによるフェイク動画を想像する人が多いでしょう。しかし、多くは高度な技術など使われず、オリジナル動画の一部を切り抜き、違う文脈で使ってミスリードする単純なものです。

今回も日本ファクトチェックセンター(JFC)の記事を例に、解説していきます。これはファイザー社長「私は健康だから(ワクチンを)絶対に打たない」と発言したというのは不正確というJFCのファクトチェック記事です。

米製薬大手ファイザーのアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)がワクチンに関するインタビューに答えた動画の一部を切り出して編集し、内容を捻じ曲げて翻訳したものです。まるで本人が「私は健康だからぜったい打たない」と言ったかのように読めます。

しかし、動画の音声を確認し、さらに元のインタビュー動画で前後の文脈も確認すると、この動画が撮影されたのは、ワクチンがまだ多くの人には行き渡っていない2020年12月のもので「できるだけ早く打ちたいが、健康で(医療などの)最前線で働いているわけではない私が割り込みはできない」と話していることがわかります。

これは動画そのものを改変したというよりは、編集と意図的な翻訳で内容を不正確(ミスリード)にしたもので、言語の壁がある日本で非常に多いタイプの動画を用いた誤情報/偽情報です。

こういった意図的な編集や翻訳・要約に気づくためにも有効なのが、オリジナル動画との比較です。そのための手法を解説します。

InVIDを利用する

これはJFCのファクトチェック記事で、内容は「遺体が動いてる」という動画は気候変動デモの映像に、ウクライナ侵攻のテロップを被せたもので誤り

「ロシアによるウクライナ侵攻という報道はでっち上げだ」という陰謀論を主張する人たちの間で世界的に拡散したもので、ウクライナ侵攻のニュースを模したテロップがついた動画です。外国語で話す記者の後ろで、カバーがかけられた「遺体」が動いている、という内容で、ロシアが侵攻しているという報道はでっち上げである証拠だという主張に用いられました。

ファクトチェッカーがまず調べるのは、オリジナル動画の存在です。最も簡単な手法が講座5:画像の検証でも紹介した「InVID-WeVerify toolkit(以下、InVID)」を利用すること。Chromeブラウザの拡張機能で、ここからインストールできます。

インストールしたら、検索窓の右に並んだ拡張機能のアイコンをクリックして→「OPEN TOOLBOX」をクリックしましょう。

次に、「Video analysis」をクリックして、分析したい動画のURLを検索窓にコピペ(動画のURLはYouTubeのURLや、TwitterやFacebookなら動画上で右クリックすればコピーできます)。

分析結果のページには様々な情報が並びます。オリジナル動画を探すのに特に役立つのは「Replies that contain links」と「Thumbnails」です。前者から見ていきます。

オリジナル動画を指摘してくれるリプライを探す

TwitterやFacebookなど、多くのユーザーが集うプラットフォームでは、すでに誰かがオリジナル動画を見つけてくれていることがあります。

「Replies that contain links(リンクを含んだリプライ)」の項目をクリックすると、リンク付きのリプライが一覧で出てきます。その中にオリジナル動画のURLを紹介しているツイートがありました。

これはロシアのウクライナ侵攻が始まる約2週間前の2022年2月にオーストリア・ウィーンで撮影されたもので、気候変動に対する抗議のパフォーマンスを報じる動画でした。全く関係ない動画にウクライナ侵攻に関するテロップをくっつけた偽情報です。

サムネイル画像から探す

「Thumbnails(サムネイル)」からも探すことができます。動画から自動的に切り出された画像です。

画像の下に「Google」「Yandex」「TinEye」という3つの画像検索ツールが出てくるので、このどれかを使って探していきます。今回はYandexを使ってみましょう。

Yandexをクリックしてみると、以下のように類似画像が出てきます。右側に出てきたいくつかの画像の中から、鮮明でより広い画角で全体像が見えるものを選んでみます。

その画像の元URLを探していけば関連記事やオリジナル動画が見つかります。では、この2つの手法でも見つからないときには、どうしたらいいか。

あらゆるヒントを組み合わせる

これは「ワクチン接種で子どもを殺された」動画は誤り、というJFCのファクトチェック記事です。

拡散したのは、ワクチンに関するドキュメンタリー映像のような動画とともに、新型コロナウイルスのワクチン接種によって、フィリピンで子供が大量に死亡したと示唆する情報でした。添付されていた動画は、音声の英語と日本語訳があっておらず、また、構成が不自然でオリジナル動画をぶつ切りにしてつなげていることがうかがえました。

これもInVIDを使ってオリジナル動画を探してみましたが、リンク付きリプライでも、サムネイルでもすぐに元動画が見つかりませんでした。こういうときにどうするか。ヒントになったのは、リンク付きリプライで紹介されていた記事です。

オリジナル動画ではありませんが、関連する記事へのリンクが有りました。この記事を読むと、この動画はもともと、新型コロナワクチンに関するものではなく、フィリピンのデング熱ワクチン(Dengvaxia)に関するものであるらしいことがわかります。

ドキュメンタリーやニュース映像であれば、オリジナル動画がYouTubeで公開されているケースがあります。YouTubeで「Dengvaxia Philippines」で検索してみると、Al Jazeera Englishが2021年2月5日にアップした「Philippines Vaccine Scandal | 101 East」が見つかります。

蚊がウイルスを媒介する感染症「デング熱」のワクチンDengvaxiaを2016年に導入した際、「ワクチンで子どもが死んだ」と訴える親たちと支援団体の訴えで世論の反発が広がり、ワクチンプログラムが中止に。ワクチンへの信頼が落ちて他の病気への対策も遅れ、犠牲が広がったことを紹介する内容でした。新型コロナウイルスに関するものでもなければ、ワクチンで子供が大量死したと糾弾する内容でもありませんでした。

YouTubeはオリジナル動画を探すのに役立つプラットフォームです。検索のコツについて解説します。

YouTube検索を使いこなす

動画をYouTubeで検索したいとき、どんな検索ワードを使いますか?

出演している著名人の名前、見たい格闘技の競技名、知りたいレシピの料理名など、様々でしょう。共通するのは全てが文字情報ということです。

動画は必ず文字情報を含んでいます。タイトルだったり、説明文の中にある登場人物や地名、テーマ名だったり。なので、動画を探すときには、どの動画はどんな文字情報を含んでいるかを想像しながら検索していきます。先程、「Dengvaxia Philippines」で見つけたのも、これと同じ手法です。

これはビル・ゲイツが予防接種は間違いと認めたという動画は誤りというJFCのファクトチェック記事です。

拡散したツイートに添付されている動画を見ると、「予防接種は間違い」とはっきりとは言っていないものの、それほど肯定的ではないようにも聞こえます。これも元動画の一部を切り抜いて、不正確の翻訳と要約をつけたパターンに見えます。元動画を探してみます。

ツイートに添付された切り出し動画は、ビル・ゲイツ氏がどこかで取材に応じているように見えます。本物であれば、著名な人物ですから、オリジナル動画はYouTubeなどで公開されている可能性が高いはず。そこで検索ワードを考えてみます。

私が使ったのは「92Y Bill Gates」という検索ワードです。本人の名前は当然ですが、「92Y」はどこから来たのか。答えは、本人の後ろに映っているボードです。会場の壁にこれほど目立つ形で書かれているので、恐らくイベント名か主催者名か何かでしょう。

実はこれがYouTubeのアカウント名でもありました。ニューヨーク 92ndストリートYです。そこで公開されていたのが「Bill Gates with Fareed Zakaria: How to Prevent the Next Pandemic」という動画です。全体を見ると、彼がワクチンを高く評価していることがわかります。

このように、人物やトピック、背景から類推できるキーワードなどを組み合わせて検索することで、オリジナル動画を探すことも可能です。

外国語には翻訳ツールで対応を

外国語に本来とは異なる翻訳や要約をつけるタイプの偽情報/誤情報が大量に拡散する中で、オリジナル動画を見つけたとしても「外国語が苦手で原文の意味がわからない」という人もいるでしょう。

そういう人には、翻訳ツールの活用をお勧めします。Google翻訳DeepLなどの翻訳ツールの性能は急速に向上しています。YouTubeなどの自動文字起こし機能も発達しているため、テキストをコピペして、翻訳ツールで確認することが可能です。それでも、翻訳や要約が正しいという確信が持てないのであれば、拡散するのは避けたほうが良いでしょう。

次回は現在、最も話題となっているAIコンテンツの検証です。現状では、驚くほど地道な検証に頼っています。


オンラインセミナー申し込み受付中

5月25日に、この講座の内容をオンラインセミナーで解説します。詳細やお申し込みはこちら


講座目次

  1. 意見や推測ではなく事実を検証する

  2. 検証は効果あり 検索やAIにも反映される

  3. 検証の4ステップ 「横読み」で効率的に

  4. 実践的な検索技術 効率的にソースを探す

  5. 画像の検証 GoogleレンズとTinEye

  6. 動画の検証 InVIDとYouTube検索

  7. AIコンテンツの検証 細部を見る

  8. 公開情報こそ重要 OSINT技術を使いこなす

  9. 国際的な標準ルール 透明性を確保する


筆者略歴

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