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秋田の再生へ①大手集成材メーカーが国産材シフト

日本を代表する林業県・秋田。だが、その秋田が今、苦境に喘いでいる。名門・老舗企業の倒産が相次ぎ、新生産システム(林野庁補助事業)を利用した大型製材工場の整備も思うように進まない。何とか衰退傾向に歯止めをかけることはできないか。関係者の悩みは深い。そこで、遠藤日雄・鹿児島大学教授が秋田県に入った。欧州からラミナを輸入している大手集成材メーカーが、国産材利用に転換し始めたという情報がもたらされたからだ。外材工場の国産材シフトが現実のものならば、沈滞する業界に新たな刺激を与えることになる。林業県復活に向け、曙光は見えるのか――。今回から秋田シリーズを3回連続でお届けする。

宮盛がスギ集成材を試験販売、輸入ラミナから転換

遠藤教授がまず訪れたのは、(株)宮盛(南秋田郡五城目町、宮田正・代表取締役社長)。同社は、長短合わせて月に約18万本の構造用集成材(集成管柱)と約1000㎥の集成平角などを製造・販売している。原料となるラミナは、フィンランドやスウェーデンから調達しており、月当たり消費量は約7000㎥に達する。

昭和63年に集成材工場を設置して以降、国産材率はゼロだったが、今年の春からスギとカラマツの利用を検討し始め、すでにJAS(日本農林規格)工場の認定を取得したという。

遠藤教授を出迎えた同社の伊藤信悦・代表取締役専務は、「10月にスギ集成材を試験的に販売した」と切り出した。

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伊藤信悦・宮盛代表取締役専務

遠藤教授
北欧産ラミナに依存してきた大手集成材工場がスギを使い出したとは驚きだ。しかも、もう販売を始めたのか。

伊藤専務
まだ試験販売の段階だが、とりあえずスギの集成管柱を150㎥ほど出荷した。マーケットの評価はまずまずだ。当面は集成管柱を生産していくが、スギ集成平角の生産も検討している。

遠藤
輸入ラミナだけに頼っていたのでは、経営的に難しくなってきたということか。

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スギ集成平角のサンプル

伊藤
そうだ。新設住宅着工戸数の落ち込みもあって、世界の中での日本市場の魅力はなくなってきている。とくに、ヨーロッパからみると、日本に売るよりは中東や新興国を相手にした方がメリットがある。また、当社のように輸入する側にとっては、為替リスクがあまりにも大きい。一方で、大手ハウスメーカーの国産材シフトが顕著になっており、仕入れソースの見直しが不可避になってきた。

遠藤
これから国産材はどのくらい使っていくのか。

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宮盛の構造用集成材は「パワーウッド」の商品名で知られている

伊藤
当面、原料の2割をスギにしたい。カラマツも付加価値のあるものから増やしていく。だが、現実に国産材を集めようとしたら、簡単にいかないことがわかってきた。

秋田スギを使いたいが集まらない、システムがない

伊藤専務は遠藤教授を工場内に案内した。広大な敷地内には、ホワイトウッドとレッドウッドの集成材の中に、わずかではあるがスギとカラマツの集成材があった。

遠藤
スギのラミナは秋田県内で調達する方針か。

伊藤
そうしたいのだが、なかなか難しい。

遠藤
何がネックなのか。

伊藤
スギを安定供給するシステムが県内にできていない。川上と川下が連携して、マーケットニーズに合った製品をつくる仕組みがない。

とりわけ問題なのは、大型の乾燥施設がないことだ。製材工場はいっぱいあるのだが、一定量の乾燥ラミナをコンスタントに出せるところがない。

遠藤
スギ集成材のサンプル品はどうやってつくったのか。

伊藤
ようやく県内で協力していただける工場を見つけた。だが、まだまだ量が足りない。3カ月後、半年後の生産計画に基づいて乾燥ラミナを安定的に調達できるモデルをつくりたい。ポイントは、どうやってマーケットに合わせていけるかだ。素材生産段階からどういう丸太を出せばうまくいくかを考えなければならない。製品をつくってから売り先を考えるような時代ではない。また、この不況下で、1社で大型投資をする余裕もない。既存の施設をうまくつなぎ合わせていくのが得策だろう。

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工場内にはスギのラミナが入ってきている

遠藤
スギ集成材へのニーズをどうみているか。

伊藤
スギには根強い需要がある。強度を別にすればヨーロッパ材と遜色ない。表面を1枚板にして、現しで使えるような商品開発も必要だろう。

菱秋木材は北海道産カラマツを採用、来年から生産へ

続いて遠藤教授が向かったのは、宮盛と同様、大手集成材メーカーとして知られる菱秋木材(株)(能代市、秋元秀樹・代表取締役社長)。同社は、集成管柱を月に10万本、集成平角を3500㎥製造・販売している。原料のラミナは、北欧、セントラルヨーロッパ、ロシアのほか、チェコやルーマニアなど東欧諸国からも輸入している。

秋田スギの銘木製材業者としてスタートした同社は、ベイマツ・ベイツガといった北米材製材業者に転換した後、造作用集成材→構造用集成材へと主力事業を切り替えてきた。

平成6年に自動化された集成管柱製造ラインを導入した際は、社運を賭けた決断と周囲に評されたが、これが住宅様式の変化にマッチして生産量が急増。ダイナミックな事業転換が経営の安定化に結びついている。同社は、低コストで品質の高いラミナを求めて海外の仕入れ先を積極的に開拓しており、現在の国産材利用率はゼロ。だが、遠藤教授が訪ねると、秋元社長は、ちょうど北海道から帰ってきたばかりだと話し出した。

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秋元秀樹・菱秋木材社長

遠藤
北海道に行ってきた目的は?

秋元社長
カラマツの買い付けだ。来年から、国産カラマツを原料にした集成材生産を始めることを計画している。JAS認定工場の申請もしている。

遠藤
どのくらいの生産規模を考えているのか。

秋元
月当たりのラミナ消費量で3000㎥が目標だ。まずは1000㎥程度でスタートし、ステップ・バイ・ステップで増やしていく。将来的には、輸入ラミナを7割、国産ラミナを3割にしたい。

遠藤
やはり輸入ラミナに100%依存するビジネスは難しくなってきたということか。

秋元
そのとおり。日本の「買う力」は本当に弱くなった。ラミナの調達ソースを多様化していかないと、経営が安定しない。国産材に対する大手ハウスメーカーからのニーズもある。

遠藤
国産材はカラマツだけを使うのか。地元材のスギは使わないのか。

秋元
いや、考えていない。秋田スギは、性能・品質面で問題があるからだ。

遠藤
えぇ!
優良材の代名詞と言える秋田スギにどのような問題があるというのか。

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菱秋木材の工場壁面には、構造用集成材のブランド名「ちからもち」が掲げられている

(次号につづく)

(『林政ニュース』第377号(2009(平成21)年11月18日発行)より)

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