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住宅着工80万戸割れ、住友林業の新戦略を探る・下

前回からつづく)新設住宅着工戸数の増加が見込めない中、大手住宅メーカーは、自社商品の魅力度アップに懸命に取り組んでいる。その際の有力な選択肢の1つとして、国産材の利用がクローズアップされてきた。大手メーカー=外材使用という、これまでの図式は過去のものになりつつある。この変化を、国産材利用で業界の先頭を走ってきた住友林業(株)(東京都千代田区、矢野龍社長)の坂直・住宅事業本部資材物流部長はどう捉えているのか。遠藤日雄・鹿児島大学が、現場第一線の声を聞く。

構造材の国産材率は7割強、年間約17万m3を調達

遠藤教授
大手住宅メーカーが積極的に国産材を使うようになってきた。なぜ、ここにきて外材から国産材に切り替え始めたのか。品質・コストなどで国産材の競争力が高まってきたとみていいか。

坂部長
やはり、住宅メーカーとしてのイメージ戦略、差別化商品として国産材を採用し始めたという側面が大きい。環境への配慮や地産地消などを意識する消費者が増えてきていることが背景にある。もちろん、国内の森林資源が成長し、スギやヒノキがリーズナブルな価格になってきたこともある。ただし、大手メーカーが本格的に国産材を使おうとすると、安定して調達できる供給先はまだ限られているのが実情だ。

遠藤
そうした中で、住友林業はいち早く住宅部材の「国産材化」に取り組んできた。現状はどうなっているのか。

「住友林業の家」の1棟当たり主要構造材国産材使用量
土台1.0m3/管柱2.7m3/偏平柱0.5m3/地束0.5m3 ヒノキ集成材 4.6m3
大引0.5m3/母屋0.5m3 スギ集成材 1.0m3
きづれパネルスギまたはカラマツ 1.8m3
床合板スギ+ヒノキまたはカラマツ 3.3m3
計10.7m3

坂部長
1棟当たりの国産材使用量は、表のとおり約10m3に達している。主要構造材に占める国産材率は70・7%だ。

弊社は、平成14年に業界で初めてヒノキ集成材を主要構造材に採用し、18年に発売した「MyForest」ではすべての管柱をヒノキ集成材に統一するなど、国産材の使用量を一貫して増やしてきている。

遠藤
年間の国産材使用量はどれくらいになっているのか。


年間8400棟を建築するとして、製品ベースで16万8000m3の国産材を使用している。内訳は、ヒノキが5万9000m3、スギが9万7000m3、カラマツが1万m3、アカマツが2000m3だ。

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国産材の使用状況について説明する坂直・住友林業(株)住宅事業本部資材物流部長

羽柄材、合板にも地域材、ブランド材育成にも挑戦

遠藤
年間17万m3近い国産材をどうやって調達しているのか。


関連会社の住友林業フォレストサービス(株)(第61回参照)が窓口となって、「広く・浅く」をモットーに全国各地から調達している。

遠藤
調達量の多いところはどこか。


宮崎県からは年間1万~1万5000m3を購入している。このほか、和歌山、鹿児島、熊本、愛媛、山口などからの調達量が多い。

遠藤
「地産地消」を目的に地域材を使った住宅に対して助成をする自治体が増えてきた。どう対応しているのか。


北海道では、昨年9月から、構造材+羽柄材+合板のすべてを道産材にした。部材の多くは、弊社の社有林もある紋別地域から調達している。この地域は、SGEC(『緑の循環』認証会議)森林認証の取得が進んでいるので、弊社の札幌支店が販売する住宅の管柱はすべてSGEC認証材(カラマツ集成材)となっている。

また、愛媛県では昨年11月から、土台、管柱、間柱、大引など主な構造材・羽柄材の50%以上を愛媛県産材にした。これで同県が実施している「県産材利用住宅」の基準をクリアでき、地元金融機関から建築資金を借りる際の利子補給対象になった。

山口県では、地元産の「徳地檜」と「徳地杉」というブランドを立ち上げる試みも行っている。同県では、弊社のオリジナル商品である「きづれパネル」(スギの小幅板を格子状に張り合わせた耐力面材)も山口県産材にしている。

中国輸出はヒノキが有望、森林整備に外国の人材を

遠藤
国内の住宅市場が縮小する中では、海外市場の開拓が急がれる。成長著しい中国が最も注目されているが、国産材輸出の可能性はあるか。


弊社では、上海を中心にマーケティングを進めている。当面、内装材で国産材を使ってもらえるようにしたい。とくに、沿海部の高所得者層は、ヒノキ志向が強い。ヒノキの耐久性や木目のよさ、香りなどが好まれている。スギについては、軟らかさや死節の問題などを、現地の消費者にどう理解してもらうかが課題だ。

遠藤
“ヒノキ信仰”は国内でも根強い。海外市場も含めて安定供給が課題になる。


実は8年ほど前に、ヒノキの原木が枯渇して市場で手当てできなくなり、4寸柱をわざわざ割って、3・5寸角のラミナにしたことがあった。その反省を踏まえて、今は愛媛・奈良・秋田の3カ所でヒノキを備蓄している。多いときは、3000m3のストック量がある。

遠藤
住友林業でも国産材原木、とりわけヒノキの調達では苦心しているということか。安定供給体制づくりが依然として懸案であることを改めて感じる。その上で、聞きたい。住宅メーカーの「国産材シフト」という追い風を林業再生につなげるには何が必要か。


全国を回ってみて痛感するのは、林業従事者の減少と高齢化が激しいことだ。危機的状況といっていい。弊社社長の矢野も提案していることだが、海外の人材を一時的にでも受け入れることを考えるべきではないか。現場で森林整備に汗を流す人をいかに育てていくかに、日本林業の将来がかかっている。待ったなしの課題だ。

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遠藤日雄・鹿児島大学教授

(『林政ニュース』第383号(2010(平成22)年2月24日発行)より


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