BRUTUSとケトル、両編集長の情報摂取はここまですごい。「企画したけりゃ、情報をコスパで選んじゃダメ!」

「神保町編集交差点」(主催:BLOGOS、企画:株式会社ツドイ)は、現場で奮闘する若き編集者の方々に、一線級の「編集術」を届けることを目的とした、月に一度の連続トークイベントです。このnoteでは、そのレポートを掲載させていただきます。

第4回のテーマは、「情報の『捨て方』」。『BRUTUS』編集長・西田善太さんと、『ケトル』編集長・嶋浩一郎さんにご登壇いただきました。

『BRUTUS』『ケトル』は、いずれも毎号ひとつの「特集」を掲げて編集される雑誌です。

『BRUTUS』最新号の特集は「危険な読書」。

『ケトル』最新号の特集は「新日本プロレスが大好き!」。

縦横無尽の切り口と情報の深さで、初心者はもちろん、その道のマニアをもうならせている両誌。

魅力的な特集を組むうえで、欠かせないのが情報収集です。本、新聞、テレビ、インターネット……情報過多なこの時代に、どのように情報を取捨選択しているのか、おふたりに伺いました。《司会・今井雄紀(編集者、株式会社ツドイ代表)》

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西田 嶋のこのアー写、これ、レバニラ T シャツですから。 

今井 おー! これ、どういう意味なのか気になっていました。

西田 僕が見つけたんです。

 またそうやって、すぐマウント取るんですから! 会って6秒以内にマウントをとる。

西田 ハハハ。

 これね、秋田に有名なシルクスクリーンの「6JUMBOPINS(シックス・ジャンボピンズ)」っていう店があってですね、そこの人が作ってるんですよ。LVNRって描いてあるからなんて意味ですか? って聞いたら「レバニラです」とレバニラ好きのために作ってるTシャツなんです。

今井 へえ。

 実はこのお店を尋ねる前に、僕と西田さんは友達たちと秋田を訪ねていて偶然レバニラ炒めを食べてたんです。秋田の「盛(サカリ)」っていう昼しか開けていないお店。(客席を向いて)みなさんここ、是非行ってください。

西田 並びましたね。40分くらい。

 もうね、ごま油の香りが並んでる駐車場にただよってきて尋常じゃないんですよ。

西田 ハハハ。

 でもレバニラはじつはメニューに書いてないんですよね。

西田 書いてなくても絶対頼むんだよ。

 みんな頼むんですよね。僕らも頼んで、すっごい美味しかったんですよ。で、翌日「6JUMBOPINS」に行って。

西田 「秋田にいいTシャツ屋がある」って岡本仁さん(元「relax」編集長)が雑誌に書いていたのを見つけてて、「ここ行ってみようよ、寄んない?」って言って行ったら、嶋がこれを気に入ったんだよ(笑)。

 そうでしたね。しかも岡本仁さんとは、その前の日の朝に会ったんですよね。たまたま秋田にいらっしゃって。

西田 あ、来てたんだっけ。

 来てたんですよ。

今井 まあ、ご覧の通りたいへん仲良しなおふたりをお迎えしてお送りします。

会場 (笑)。

みんなが見ているものは、必ず耳に入ってくる。

今井 今回の事前取材で、西田さんがこんなことをおっしゃっていたんですね。「BRUTUSも、94年に『さよなら情報』っていう特集をやったんだよ」と。これ、僕ちょっと調べてきたんです。

西田 調べたの!? 公開処刑だよ……。

今井 読んでみると、「99パーセントは捨てろ、1パーセントを生かせ!」という話が書かれていました。24年前にもう、本イベントと似たテーマで特集を組んでらっしゃったんですね。

西田 僕ね、元々博報堂でコピーライターをやっていたんですが、どうしても雑誌がやりたかったんです。その転職活動をしているときにバイブルとして読んでいたのが、リチャード・ソール・ワーマンの『情報選択の時代』だったんですよね。その人のインタビューを中心に作ったのがこの特集でした。

彼の主張をすごく簡単に言いますね。ロンドンタイムズの日曜版、結構分厚いのね。ニューヨークタイムズもそうですけど。アートとかいろんな別冊が入っているので。そのタブロイドの情報量は、19世紀の知的ロンドン人が一生で読む活字よりも多いんだと。つまりそれだけ情報の量が増えてしまうとひとりの人間にはさばききれないから、これからは情報を「選びやすくガイドする」という行為こそが「編集」だっていう本だったんです。

今井 はい。

西田 自分の容量から溢れだしてしまう情報に気を使う必要はないっていうのを、90年代前半の著書でやっているんですよ。僕はこの本を手にたくさんの出版社の採用試験を受けました。心から尊敬している方です。

 この特集のほかにも『BRUTUS』は情報特集をやっていて、僕が博報堂に入社して2年目のときにそれを読んで、これをつくった人に会いたい! と思ったんですよね。まず『BRUTUS』編集部に電話をかけて、03 3545 7050……

西田 「7170」ね。

 でした。7050は「アンアン」編集部。かつてPRマンは、すべての編集部の電話番号をそらで言えないといけなかったのですが(笑)。で、電話して、「すみません、博報堂の者ですが、 コンピューターの特集を読みました。これをつくった人にお会いしたいです」って会いに行ったのが、西田善太さんでした。

西田 僕が博報堂を辞めてまだ3年だったから、博報堂の人に対して結構きついあたりをしていたんですよね。「俺、お前らのこと知ってるぜ」みたいな、本当に嫌なヤツでね(笑)。嶋は、それを乗り越えてきたんですよ。

今井 今日おふたりには、普段どんなメディアに触れていらっしゃるのか、そして何に触れていないのかを「テレビ」「新聞」「ウェブメディア」「ラジオ」「書籍」と、ジャンル別で聞いていきたいと思います。

まずテレビは、西田さんは「基本見ない」、そして嶋さんは「24時間付けっぱなし」だと。

 博報堂ケトルという会社を2006年に設立したんです。そのときに、テレビは全局つけっぱなし、新聞は過去3日分の見出しが見える、雑誌は今売っているものが全部あるっていう空間をオフィスの中につくったんですね。

テレビは24時間ついているとおもしろいです。朝のワイドショーを観ると、今どのタレントがなにをやっているのかが分かり、夕方のニュースが流れれば、同じ話題でもそれぞれ伝え方に違いがあるのが分かる。みんなが好きなもののバロメーターを体に刷り込ませるためにやっています。

今井 世の中の好き嫌いに敏感に反応するため、ということですか?

 あざといのかもしれないけど、そういう感覚ですね。この20年間、ケトルの前からずっとこの環境に身を置いています。西田さんは、なぜ観ないんですか?

西田 いや、観ないと言っても、家で流れているものはあります。最近の若い人がそうなのかは分からないけど、うちの家族はクローズドキャプションを出して観ているんですよ、ドラマとか。

今井 ああ、字幕を。そっちの方が観やすいと言う人もいますよね。「ながら」でも観れますし。

西田 妻はあんたがうるさいから聞こえないので! と言うんだけど(笑)。まあそのおかげで、僕もヘッドホンでラジオを聴いていても、ドラマの内容はうっすら分かるんですが、その程度しか観ていないです。会社でも基本はつけていません。観なくても大丈夫ってどっかで思っちゃってるんですよ。みんなが観ているものに追いつかなくても、今って必ず耳に入ってくるから。

 たしかに、そうですね。

西田 インターネットで名のある人も、みんなテレビで観たことについて話してる。だから自分は観なくてもいいし、その分の頭の容量、スペースは空けておこうって、これはかっこつけじゃなくてそう思っています。あ、でも、『ガキの使いやあらへんで!』だけは半年撮りだめて、一気に観ます。それはダウンタウンのことが好きだからですね。

毎日1時間、新聞を読む

今井 続いて、新聞ですね。西田さんは「朝日新聞」を読まれている、嶋さんは「数紙読んで、メインで読む新聞を毎日変えている」と。

 新聞は、自分が情報源にしているものの中では、小ネタも含めて、かなり上位だと思います。リアルで会った人から聞いたことが一番上ですが、メディアの中から選ぶとすれば。要は朝日の天声人語とか読むと 「上空の雲がこっちに動いて低空の雲がこっちに動いている状況のことを問答雲っていう風にいう」みたいな文学的な表現とか、 「アメリカの共和党議員が最高裁に保守派の判事をどう送り込んでいるか」みたいなのとか、情報のレイヤーが多層に渡ったものを大量に読めるっていうのがむちゃくちゃよくて。

毎朝1時間かけて、5紙くらいざっと読んでいます。最初の1紙だけしっかり読んで、2紙目以降は1紙目に載っていなかった情報があれば追っていく。各新聞の論調の違いや、ここのネタはここが押さえてるんだな、というその差分を見ます。読み始める新聞は今日は朝日から、今日は読売からみたいに毎日ローテーションして。情報オタクとして新聞にはすごく感謝しています。

西田 僕は、小さい頃から読んできたのもあって、メインで読むのは朝日新聞ですね。ちょっとエッセイを連載していたこともあって、恩義もあるから。

吉本隆明さんという、団塊の世代を引っ張った思想家がいたんですが、亡くなられる一年前にインタビューしたとき、「新聞を読むだけで、世の中のことは完璧に分かります」とおっしゃっていました。吉本さんは人から情報を得たり、インターネットを見たりしなかったんです。芸能スキャンダルが好きなので、ワイドショーだけは観るとおっしゃってましたが(笑)。僕がそれを聞いて腑に落ちたのは、受け手側がその情報をフィルターにかけられる思想さえ持っていれば、獲得する情報はもう新聞だけで十分だ、ということです。

インターネットのニュースメディアの多くは、芸能ニュース・他愛のないニュース・政治のニュース、の順番に並ぶ。つまり、人気順であって、みんながみんなの気になるニュースを確認し合っているだけだと思うんですね。

一方新聞には、1面なのか3面なのかといった違いがありますよね。トップに何を置いておくか、トップの大きさはどうするか、見出しの大きさはどうするか、それは整理部っていう一番感度の高い人たちがやっているんだけど、ひと目見ただけでどのニュースが大きくてどのニュースが小さいかがわかるっていうのは、新聞の優れた点ですね。

 ビジネスだけで考えちゃうと、どうしてもエンタメやスポーツの方がPVが取れるんですよね。Yahoo!ニュースも本当はそれだけにした方がPV増えるんだろうけど、それをやらないのは、新聞社出身の人が多いからなんだろうと思います。そのへんは矜持を持ってやられているんだろうなと。政治や環境問題など、知っておくべきことは、PVがとれなくてもちゃんとトップに出している。

たとえば、グノシーやスマートニュースは、“見たいものが見たい”人にとって便利なアルゴリズムになっています。好きなニュースだけを読みたい、という気持ちも分かるんですよ。限られた時間の中で、AKB48が好きな人はAKB48のニュースを追っていたいだろうし、ラーメンが好きな人はラーメンの記事を読んでいたいかもしれません。

グノシーやスマニューが提供している仕組みはすごくいいと思うんだけど、でもニュースアプリで自分の好きなニュースだけ見てる人が「俺、ニュース見てるから」とかいうわけです。 正直それを聞いて、大丈夫ですか? という風に思うところはあります。そういう意味で言うと、新聞はまだ総合的に世の中を伝えることにおいては優れているメディアだと思います。

情報を「役に立つか」で選ぶ編集者は大成しない

今井 インターネットの話が出ましたが、おふたりともインターネットのニュースメディアもたくさん見ていらっしゃると聞きました。

西田 新聞を推しておきながら、結局ネットも見てるっていうね(笑)。もちろんYahoo!ニュースは、朝晩に一応ひと通り見ます。スマートニュースも時々。その他、僕は大統領選フリークなのでニューズウィークとNHKのアメリカ中間選挙ルポサイト。そしてニューヨーク・タイムズ、クオーツ。ビジネスインサイダーは、ビジネスだけでなく、ビジネスマンが気になる食べものやトレーニングメソッドなんかについても読めるのがすごく楽しくて、英語版をメインにチェックしてますね。このあたりは好きだから見ているという感じです。

 僕はLINEです。LINEでニュースアカウントをフォローしているんです。全国の地方紙を含めて、約70媒体ほど。こうしておけば、メディア側が1日2回、人力で8つのニュースを選んで送ってくれます。そうすると、琉球新報はこのニュースを今日は一番大事だと思ったんだなとか、岐阜新聞はこれが大事だったんだな、というのが分かるわけです。

なぜこんなことをしているかというと、さっき西田さんが言った新聞の紙面の話に近いんですけど、Yahoo!ニュースやグノシーなど複数のメディアが読めるプラットフォームでは、その媒体の文脈が分からないんですよ。たとえば雑誌でも、ひと記事だけを切り取って読んでも情報としての価値はありますが、一冊のパッケージの中になぜその情報が含まれているのか、という文脈の方が大切だと思うんです。このメディアはこんな主張をしたいんだっていうのが。

西田 まあ、ひとつのパッケージとして作り手が見せたい順番に読んでくれっていうのも、今はすごくナイーブな話なんですけどね。でも嶋のやっているこの方法はすごくいいね。知らなかった。これだけでもう今日は元が取れたと思いますよ。

今井 これ僕、嶋さんから聞いて、1週間試してみたんです。でもすごくストレスになって……。

 ええ!! 情報とかあまり知りたくないタイプ?

今井 いえ、そうではないんですけど、「あとで読もう」と思ってストックしておくとどんどん溜まってきてしまって。もともと積ん読(つんどく)が多いタイプなのにも関わらず、そこからさらにスマホで読むものが増えてしまった……と。

 たしかに結構厳しいんです、1日100通以上は届くのを読み解くって。でも、毎日いろんなニュースを読んでいると、「大分県は今スズメバチが増えて大変なんだなあ」とかいうのが日常的な感覚になるんですよ。偶然、大分県から来た人に会ったときにそういうネタがあれば、「そんなこと知ってるんですか!?」って。

西田 別に、そのためにやってるんじゃないでしょう?

 まあ(笑)。僕、情報摂取の効率はとても悪いんですよ。情報を得ることで対価を得ようと思わない体質なんです。だからその、「ストレスでした……」って言ってる時点で、おいおい情報をカネに変えようと思ってないか? って。

今井 いやいや(笑)。

 思ってるでしょ! このイベントもそのためなんでしょ!?

今井 違います!

西田 でもさ、電車の中でずっと無表情にゲームをしている人たちを見ると、僕もゲームは好きなんだけど、その時間を使って一度こういう情報に触れてみたらって思いますよね。僕は電車の中ではラジオを聴くか本を読むようにしてるんです。同じように本を読んでいる人がいたら、迷わず抱きしめたいと思うくらいです。

今井 あはは(笑)。

西田 だけどいまだに逮捕されないのは、そんな人ほとんどいないからなんですよ。暇つぶしに価値を求めちゃいけないと思うかもしれないけど、「ものを知っていた方が世の中がおもしろくなる」っていう基本的な考えがみんな無いように感じます。

 速効性のない情報には見向きもしない人が多いですよね。それは本当に悲しいことだと思うんです。いいじゃないですか、豪華なパナマ船籍が秋田に寄港する、ある日の地方紙は、それがこの日一番のニュースだったんです。Yahoo!ニュースにはきっと載らないけど。そういうのを知っていると、毎日がちょっと楽しくなるんですよ。情報をコスパで選ぶんじゃないよ今井くん!

今井 はい!

西田 わはは。山陰に暮らす予定もなければ繋がりもない人が、山陰に住んでいるかのように出来事を知れるって、良い人生ですよね。別の人生を1日2回、8つの記事を見れば少しでも体験できるのならやってもいいかもしれない。

『BRUTUS』でインターネットの特集を90年代にしたとき、ヨーロッパのある街が「今日の観光客数」っていうのを毎日ネットにあげていたんですよ。観光客数の数字だけ、淡々と。

今井 ああ、街のサイトにですね。はい。

西田 その頃のインターネットって、通信速度が遅いので、みなさんが思っているような動画やコンテンツがあまりあげられない時代で。だからただ観光客数だけが更新されていくんですが、それを眺めていると、「あ、夏はたくさん観光客がくるんだな」とか「秋は祭りがあるから人が増えているな」って分かる。行ったことない場所なのに、そこで流れている空気感、場の感覚のようなものが分かったような気分になれる。それこそが毎日更新されるネットのおもしろさだったと思うんですよね。

 わかります。『秋田魁新報』では佐々木希さんが「秋田の魅力発信」編集長に就任されて、なまはげを見て「すごい!」って言ったことが記事になっているわけですよ。そういうことを知ってるってことがすごく大事なんだよね!

西田 まあそれはそんなに大事じゃないと思うよ。

会場 (笑)。

西田 あのね、みなさん、嶋ゼミって知ってますか? 嶋がやってるPR パーソンの養成講座で結構高いんですけど。

今井 数万(円)するのに、数十人の枠が毎年数分で売り切れる超人気講座ですね。

西田 僕も講師に呼んでもらうんですけど、そこで嶋は、例えばこの週刊誌は木曜日発売だと月曜に会議をしてるとか、金曜の午後に記者発表をやると月曜に発表されることが多いみたいなノウハウを表にしてみんなに見せてるんですよ。そういう、体を張って調べてきたことをバンバン教えているのを見て「みなさん、こんな残酷な講座はないよ」っていつも言ってるんです。

今井 どういうことですか?

西田 その情報を渡しても嶋は絶対に負けないと思ってるわけですよこの人は。本当に変な人なので。前からよく言っているんですが、嶋は真似できないです。だって朝日新聞社内の喫茶店「アラスカ」に行って、「天声人語』の打ち合わせをしている横のテーブルで話を盗み聞きして、それをPRネタにしていたりしたんですよ? って、嶋も情報をカネにしてるじゃん!

 そんなことないです(笑)。2001年くらいの話ですよ。

西田 睡眠時間を削って、朝、東京中の公園を歩いて、動物を模した公園遊具の分布図をつくって喜んで持ってきたりするようなヤツなんですよ。「やっぱり海のそばの公園はイルカが多いです」とかわけわかんないことを言いながら。

今井 ははは!(笑)

西田 「アライグマがこの公園にいました!」って、そんなこと聞いたってどうでもいいじゃない(笑)。なんの役に立つのかって思うでしょう?

でもね、一緒にラジオ番組に出演したときに、嶋がその話をしたら、いまだに「あの回はおもしろかったですね!」って言う人がいるんですよ。ちくしょう、嶋に全部持ってかれた! って。彼はそのために遊具を調べてたわけじゃないと思うけど、無駄だと思っていたことがこんな風に生きることがあるんだよね。まあ本当にこれは真似できないんだけど。

イノベーションは辺境からしか生まれない

今井 おふたりは、「ラジオ」もよく聴いていらっしゃると聞きました。西田さんが毎週聴いているラジオリストを見せてもらったんですけど、これが恐ろしいんです。これ全部聴けますか? 10時間くらいありますよね。

西田 僕は1日に15000歩ぐらい歩くので、歩きながらradikoで聴いてます。

ラジオって早送りができないんですよね。もちろん物理的にはできるんですが、最初から聴かないとおもしろさが分からない。そういう意味では、時代からはぐれているメディアなんです。気軽に触れられないから。だけどその分、聴いていたら良いことがたくさんあります。嶋も地方ラジオをよく聴いているよね。

 はい。岐阜ラジオを聴いたら、今日、各務原のイオンモールではこんなイベントをやっています! みたいな、こっちで生活しているとなかなか知れない情報を知れます。そういうのってうれしいじゃないですか。

西田 でた(笑)。うれしいかどうかは人それぞれだと思うけど(笑)。

 いや、だって朝起きてラジオをつけると「おはようございます。道上洋三です」って、最高ですよ。ABCの有名なアナウンサーです。今日の尼崎ではこんなことがあるなんていう話を、東京で聴いていると本当にうれしくなります。あ! 今井くんがそんなの何の得になるんだって顔してる!

今井 いや、してないです(笑)。

 変な人って思われるかもしれないけど、イノベーションは辺境からしか生まれないんですよ。

西田 ああ、それはその通り。

 なにか企画しようと思ったときに、みんなGoogleで検索するので。それはみんなが見れるもので、同じような文言にしかならない。新しいアイデアはもっと辺境から、明後日の方向からやってくると僕は思っていて。

「回転寿司」は、人手不足に悩んでいた寿司屋の社長が、たまたま友人と見学に行ったビール工場のベルトコンベアーからヒントを得て生まれた、という話とか。「新幹線の騒音」が問題になっていたときは、俊敏に動くのに音がしないフクロウからアイデアをもらい、フクロウの羽の形を真似たギザギザの装置をつけたら解決したとか。そのJR社員の趣味がバードウォッチングじゃなかったら、この発想は生まれなかったわけです。

西田 もし担当者が騒音のことばかり考えて関連のある情報ばかり集めていたら、莫大な費用をかけて防音壁を作り、「未来のために音は我慢しましょう」みたいなPR戦略を打っていたかもしれないよね。

 情報をコスパ感覚で選んでいる人は、フクロウの生態を知ることに対して、たぶんほとんどポジティブじゃないでしょう。何が言いたいかというと、関係なさそうな知識をいっぱい持っている人間の方がイノベーションを起こしやすいっていうことです。だから地方のイオンモールで今日どんなイベントをやっているかなんて一見、企画には関係ないように見えるけど……

西田 関係ないんだよ。

今井 ふふふ(笑)。

 その通りなんですよ(笑)。大抵関係ないんです。そこが難しいところです。さっき「情報摂取の効率が悪い」って言ったのはそういうことで。

好奇心を人まかせにしない

西田 まあ自分が楽しんでいることへの言い訳ってことでいいんじゃないかな。「いつか役に立つかもしれない」っていうことが。

「1冊の素晴らしい本に出会うために、100冊の本を読みなさい」って、スーパーエディターと呼ばれた安原顯さんはおっしゃっていました。生涯の1本に出会うために、100本の無駄な映画を観なさいって。この言葉、僕は本物だと思います。どんな“クソ映画”を観ても無駄だとは思わないもん。この間ね、すっごくつまんない映画を観たんですよ。アメリカでは相当にヒットした映画なんだけど、怒り心頭なくらい本当に色々設定がありえないの(笑)。

 ここで宣伝したらみんな観に行ってくれるんじゃないですか。

西田 いや、これは行かなくてもいいかな……(笑)。でも、それも無駄だとは思わなかった。僕だったら脚本をこうするのに! とか思えるだけでOK。こうやって今日みたいな日に話のネタにできたりとか。だから本当の意味で無駄なものは全然ないんだと思います。

僕自身、出版社に入ったとき、編集者の数だけ“クソ”と言われてしまいそうな本が生まれることを知りましたし、心から人に勧めたいと思える本に出会う難しさは、みなさんもご存知でしょう。だけど勧めたいくらい価値のある本を見つけることも、才能なんだろうね。良い魚屋は魚の目利きが上手なように、僕もそこは磨いていかなければいけないと思っています。

 たくさんの“クソ”に触れた方が、選球眼が高まるっていうことですね。あと、さっきのフクロウの話のように、いつかどこかで役立つかもしれないっていう。

僕は本屋も経営しているんですが、最近は「アイデアが出る本をください」「泣ける本をください」と本に効果・効能を求める人が増えてきました。トルストイやドストエフスキーの分厚い本を読んだって、なんの役に立つのかと。

以前、博報堂の新入社員研修をしたときも、僕の好きなお店にみんなを連れていこうとしたら「そのお店、食べログだと評価3.0なんですけど大丈夫ですか?」って新入社員の男の子に言われたことがありました。

西田 ああダメだよ、それはもう……。

 きっと本屋のお客さんも、新入社員の男の子も、「損したくない」っていう気持ちが強いんだと思います。インターネットで集合知が簡単に得られるようになって、できるだけ早く、できるだけ無駄なく、という感覚をみんなが持っている。

ものさしはいっぱいあっていいんですよ。食べログが悪いと言っているわけではなくて。店を選ぶために、食べログを見てもいいし、ミシュランガイドや東京ウォーカーを参考にしてもいい。グルメ好きな友達に聞いてもいいかもしれない。だけどそこにすべてを託していいのか、という話です。西田さんも「好奇心を人まかせにしない」とよく言いますよね。

西田 うん、人から教えてもらった通りに動くほど退屈なことはないと思います。「人と違う個性を大事に! 人より夢中になれることを見つけよう!」と教えられてきた今の若い世代が、なぜみんなが決めた通りにして、自分の可能性を狭めてしまうのか。

僕が言いたいのは、選ぶ能力を自分で身につけよう、というシンプルな話です。人気トップ10のニュースばかり読んでいる人は、ニュースを選ぶ力がなくなりますよね。「編集」というのは、世の中にある事象を、自分の嗅覚を頼りにピックアップして組み合わせて、形にすることです。その最初のピックアップする作業が下手になってどうするの、って。

“コミュニケーション”は中島みゆきに学べ!

西田 あ、ごめんもう一つラジオで言いたいことがあった。

 ラジオの話で今日終わるんじゃないですか(笑)。

西田 すみません、もうちょっと語らせて(笑)。僕がなぜラジオが好きかって話なんですけど。

ラジオっていうのは一対一のメディアなんですよね。テレビのニュース番組で人気のキャスターが、ラジオ番組に初めて出演したとき、第一声が「ラジオの前の“みなさん”〜」で、それを聴いたリスナーたちはがっかりした、という話があって。

 テレビは二人称を複数形のみなさんで呼びかけた方が気持ちいいし、ラジオは単数形のあなたで呼びかけた方が気持ちいい。同じ電波でも言葉の使い方がちがうんですよね。

西田 ラジオのすごさはそこなんですよ。「俺しかこのパーソナリティのことを分かってない」、という感情が生まれる。そのギリギリのコミュニケーションをしているんですよね。

 映画監督もよく言いますよね、「俺だけが分かる」っていうシーンを絶対に入れておくと。銀座のママも、お客さんたちに「きっとママは俺のことが好きなんだ」と思わせて通ってもらう。どちらも一対一のコミュニケーションです。

西田 僕はインターネットもそうだと思う。90年代半ば、黎明期の楽天の三木谷さんたちは、本当に24時間働いてたからね。ネットって“1対多”だと思っていたら大間違いで、完全に1対1なメディアなわけ。個別に来るクレームがすごいんですよ。僕のためにやってくれてるはずなのになんでダメなの? なんで配送が遅れるの? って。そのクレーム対応は人間がするしかない時代があって、今もそうかもしれないけど、ネットって実は1対1の世界だっていう概念を忘れちゃいけないんだよね。マスの対抗軸だから。

 そういう意味では、技術が発達して数をこなせることが当たり前になった今、これからまたラジオ的センスが重要になる時代がくると思います。

シンガーソングライターの中島みゆきさんに学びましょう。中島さんは僕が10代のときに深夜放送のパーソナリティをされていたんですけど、2000年代も深夜3〜5時までラジオに生出演されていた。そこで中島さんはご自身で天気予報を読まれるんです。「今日はこのあと寒くなるねぇ」なんて言うわけですよ。これがもう……。分かります? 僕の言いたいこと!

会場 (笑)。

 おなじ時間に起きている人に直接語りかけてる感じにきこえるんです。すごい体験ですよ。中島さんにみんな学びましょう。これ、結構重要な話をしています。

「編集者は、3日学んだことで10年語れるようになれ!」

今井 最後に「書籍」について伺いたいです。おふたりとも、複数の本を「併読」してらっしゃると聞きました。

西田 これもまた嶋さんは、人が読んでいないものを読んでいそうですね。

 大好物です。「大腸菌」や「冥王星」についての本、「自動販売機の歴史」本とか、とにかくそういうものが好きなんです。今日話していることは全部同じなんですけど、人が知らなそうな本を絶対に見つけてやろうっていう気持ちで。

西田 この人、飲みに行ってもそういう傾向があるんですよ(笑)。ある話題を話すと、それについて持ってる知識を全部話し始めるの。おかしな人でしょ。でもまあそのネタがおもしろくて。

嶋さんだけじゃなく、魅力的なコピーを書くコピーライターの先輩に「なに読んでるんですか」と聞くと、「牛の病気」みたいな本を読んでいたりするんです。特殊だけど、そういう「なんのために!?」って思うような本を読む人の方が、おもしろいコピーを書いていたのは確かですね。

そういうものに出会うには、やっぱり本屋に足を運ぶのが一番です。書店員さんは、絶対におもしろい本を見つけてくれているので。

 本屋で「この本は俺しか買わない」って思うようなものを見つけると、もう愛しくてつい買っちゃうんですよね。

西田 たださっきも言ったように、あんなにテレビや新聞をチェックしてLINEニュースを見てラジオを聴いてさらに本を読んで……って、嶋さんのやっているようにはなかなか、真似できないから(笑)。少し真似できそうなことをいうと、BRUTUSの特集をつくるとき、一番頼りにしているのは、人よりもまず本なんですね。

たとえば、アフリカに取材に行くと決めたら、2週間ほどかけて、アフリカのガイド本や文学などを一気に10冊以上は読みこみます。自分の中で、アフリカの歴史や空気感みたいなものを一度体系化したあとで取材に行く、と。もし、自分に少しもレセプターを持たない状態で相手の話を聞くと、その人の話していることがまるで全てのように感じてしまいますから。情報を選別するために、自分なりの知識を貯めないといけません。

今井 「レセプター」ってどういう意味ですか?

西田 「受容体」です。話を受け止めるだけの知識ベースがあれば、情報同士の繋がりに気づくことができるんですよ。あの話とこの話は結びつけられるな、とか。そしてまた次の人に会いに行く。実際現地に行くと、これまで覚えてきたことが全部ガラガラと崩れるようなケースもありますが、それでも自分にレセプターがあれば、また新たに仮説を立て直すことができます。

そのために、まずは本。テレビ局がよく編集部に「〇〇に詳しい人を紹介してください」と電話をかけてきたりしますが、それって丸投げしようとしているとしか思えない。僕は仕事をするなら何か自分に貯めないと、仕事をした気がしません。少なくとも、それについて小一時間は語れるくらいにならないと、特集でもなんでもつくる意味がないじゃない。

 西田さんは「好奇心を人任せにしない」と同じくらい、「編集者は、3日学んだことで10年語れるようになれ!」って言いますよね。

西田 それは、『POPEYE』編集長・松原がよく言ってるんですけど。編集者なんてインチキですよ、と。3日学んだことで10年語れるっていう技術を培うんですね。

僕なんてまったくそうです。「なんでそんなこと知ってるの?」って言われますが、逆に人が知っていて当然な常識的なことは抜け落ちていたりするので。よく先輩にも「お前そんなことも知らないのか!」って叱られていました。それでもみんなが知ってることはお任せして、みんなが知らないことを知っておくようにする。たくさんの根っこをはって。それが出来るのは本のおかげだと思います。

今井 そういえば、嶋さんが誰かに本や映画をオススメしているのはあまり見たことがないですね。

 僕は基本、薦めてほしい派なんです。

西田 これおもしろいよって言われたら、乗るってことですね。

 それはぜひ見たいですよね。自分じゃない好奇心に触れたものには。

みうらじゅんさんが「修行」っていうのをやってらっしゃるんですよ。自分に興味のない映画を観に行かれると。僕はその話に感化されて、自分も月一回は必ず普段観ないジャンルの映画やライブに行くことにしています。

ルールにしているのは、できるだけ一人で出かけること。そうじゃないと「修行」じゃなくてイベントになってしまうので。地下アイドルのライブやアニメ映画の応援上映にも一人で行ったし、先日も80年代アイドルの記念コンサートにチケットをとって行きました。偶然、関係者として招待されていた知人に会ってしまって、なんだか気まずい雰囲気になってしまったんですけど(笑)。こいつガチなんじゃない……? みたいな。

西田 ハハハ!

 だけど、そういうところに行って、その場なりのお作法や空気感を知ると、また学びになるんですよ。理解しきれないこともありますけど。

西田 でもそこは見上げたもんだよね。僕にはできない。「100本の無駄な映画を観る」って言ったけど、それはおもしろそうと思って観たけどつまらなかったっていうことなんですよね。最初から興味を引かれなかったものに行くことは、僕はないですから。

 自分は共感できなくても、売れているものには必ず理由があるんです。「ああ、こうやって惹きつけているのか」って、一度ファンと同じ目線になってみると気づくことがあります。

西田 そうね。でも、たくさんの人が熱狂しているものにうまく乗っかれないタイプっているんですよ。みんなが好きだというものに、一緒に手拍子できないような人間は、こうやって生きるしかないですよね。ある意味破綻していると思います、僕と嶋さんは。理由付けをして初めてその場にいられるんだからね。

昔、もう学生時代の話ですけど、海辺で女の子に声をかけたら「パンピー(一般人)」って言われたんです。「パンピーはあっちに行って」って。それが今でもすごくトラウマなんだけど(笑)。

 その話、初めて聞きます。

西田 ただ、トラウマになったと同時に、「パンピー」と言われたことがうれしい自分がいて。あ、自分のことが普通の人って言ってもらえてる! なぜかというと、それまでの人生、ずっと変な子だったんですよ。ツッパリでもなんでもないのに、人と一緒に行動するのが下手だったんです。今じゃこんなに喋るから信じられないと思うけど、修学旅行でも一人で部屋に残ってずっと本を読んでた。普通の人って言われることがうれしいと感じるくらい、たぶん僕は変わり者。嶋さんも相当な変わり者だと思う。

だけど雑誌をつくることで、社会との繋がりが生まれてきました。それまでにおもしろいと信じてきたことが報われる瞬間が必ずあります。誰とも分かり合えないけど夢中で読んでた本の話を、10年後に偶然出会った人も同じ思いで読んでいて、抱き合うくらいに意気投合する瞬間を、僕はこれまで何回も経験しているんですよね。

以前、ミラノでプラダの重役の方々と会食させてもらったとき、僕が1時間かけてプラダがいかに好きか話したあと、英語があまり喋れなかった当時の副編集長が「僕、初期に発売されたプラダのメンズのコート、今でも持ってます」と言っただけで、そこにある空気がガラっと一瞬で変わった。全部彼がかっさらってしまいました。

「あの本読みました!」「学生の時、わたしあのコンサートに行ってました!」と言える経験には、“コスパ重視”な行動をする人は絶対に敵いません。“好き”があることは才能なんです。

 今日の結論は、もうそういうことですね。無駄なものに価値を見つけられる人こそが編集者、ということです。だから、コスパで考えるなよ、今井! そういう編集者になっちゃダメだぞ、今井! って。

今井 は、はい!

西田 もう最後になりますが、雑誌というのは、「コイツ(雑誌)が喋ったら耳を傾けよう」という状態をいかにキープできるかが勝負なんです。昔、クラスでもいませんでしたか? グループセッションをしているとき、多くを語らないのに「でもさ」とその人が口を開くと、みんなが口を閉じて耳を傾けるような存在が。それが雑誌の目指すべきところです。

発言力を持つためには、不断の努力をしなければいけない。僕は子供の頃から「退屈な人間にだけはなりたくない」って思いばかりでした。だけど自分には魅力がない、だからそれを補填するために嶋さんは本を読み、僕は映画を観てきたのかもしれない。よく言うんですが、20代は暗黒ですから。

今井 そうなんですか?

西田 20代の方はいます?(多数、手をあげる)ああ、いますね。

僕らは20代のとき、なにも成し遂げられていませんよ。黙々とインプットしながら、周りにいるリーダーたちをただ憧れを込めて見ていただけです。悩んでも結果的には好きなことをやるしかなかったし、そこで自分の身を慰めるしかありませんでした。まあ今もそうかもしれないな(笑)。

だから焦らなくていいと思います。30代である程度の芽が出ると、今度は自分の好きなことを仕事にするためのコントロールが少しずつできるようになってくるはずです。

それはまた次のステップで話しましょう。そのときは授業料、10万円とりますね(笑)。

ライティング:チャン・ワタシ
撮影:飯本貴子
編集:今井雄紀株式会社ツドイ

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