「暇」こそ理想の編集術。オモコロ・デイリーポータルZの編集長が語るおもしろい「チーム」のつくり方

「神保町編集交差点」(主催:BLOGOS、企画:株式会社ツドイ)は、現場で奮闘する若き編集者の方々に、一線級の「編集術」を届けることを目的とした、月に一度の連続トークイベントです。このnoteでは、そのレポートを掲載させていただきます。

 第五回のテーマは、「おもしろい『チーム』の作り方」。林雄司さんと、原宿さんにご登壇いただきました。

 林雄司さんは、『デイリーポータルZ』の編集長。『デイリーポータルZ』は、ジャンル問わず、トレンドを追わずの、ライターたちが興奮したことだけを載せた“オルタナ系ポータルサイト”。「愉快な気分になりますが、役に立つことはありません」のキャッチコピーのもと、個性豊かな記事が毎日更新されています。

 一方の原宿さんは、『オモコロ』の編集長。“あたまゆるゆるインターネット”の名のごとく、ゆるくて笑えるコンテンツを配信する『オモコロ』は、月間1000万PVの人気サイト。有名ブロガーや漫画家など、キャラ際立つメンバーが所属しており、SNSでも話題が絶えません。

 いずれも、自身がライターとして活躍されながら、ベテラン・新人を含む多数のメンバーをそれぞれの個性を潰さずしてまとめられている、林さんと原宿さん。

 今回はそんなお二人に、たのしいチーム作りの秘訣や、“おもしろ”を生み出す編集術について、伺ってみました。《司会・今井雄紀(編集者、株式会社ツドイ代表)》

デイリーポータルZ 16年、オモコロ 13年

今井 今日は「おもしろい『チーム』の作り方」というテーマで、話を聞いていきたいと思います。

原宿 呼ばれたけど僕、この答え全然知らないんですよ。

一同 (笑)。

 今日はバーグハンバーグバーグの人は会場に来てないんですか?

原宿 来てないです。真面目に話しているところを友だちに聞かれるのって、恥ずかしいじゃないですか。良いこと言えなくなっちゃうから。

 じゃあ今日は手加減なく良いことを言ってくれるってことですね。

原宿 はい、手加減なく良いこと言います。

今井 よろしくお願いします(笑)。さっそくですが、お互いのメディアの印象について聞いてみたいなと。原宿さんは、どうですか?

原宿 そうですね。デイリーポータルZの開設は2002年ですか……?

 はい、今年で16年です。

原宿 16年。オモコロは僕が入る前の期間を含めても13年なんです。だからデイリーポータルZは、Webメディアの長老というか先駆者というか。昔から読んでいて、背中を追ってやってきたところがあります。

今井 ここは真似してる、ってこともあったりするんですか?

原宿 真似したいことがあったら、結構すぐ林さんに「パクっていいですか?」って聞いてますね。

今井 そんな関係性だったんですね!

原宿 最近いいなと思ったのは、デイリーポータルZの記事投稿フォームに「厳しく評価してほしい」ってチェック項目があるところ。ライター志望者が、編集部による評価の厳しさを事前に選べるようにしてあるんですよ。

 カレーみたいな気持ちで聞いてますね。「甘口・辛口どっちが好き?」みたいな。

原宿 厳しくしてほしいって言われたら、こっちも大手を振って厳しくできるじゃないですか。罪悪感ないし。これめっちゃいい! と思って、すぐ真似しました。

アカデミックだけど、やってることはめちゃめちゃ「バカ」

今井 そんな原宿さんに、事前に好きなデイリーポータルZの記事をみっつ選んでもらいました。『恥ずかしながら金目鯛のうまさを知りませんでした(斎藤充博)』『甘いものは塩で食べろと心の食通が言ってくる(江ノ島茂道)』『 カフカ「変身」をネット通販風に描く』。みっつ目は林さんの記事ですね。

原宿 『カフカ「変身」をネット通販風に描く』は、ちょっと読んでみないと分からないと思うんですけど、暗い小説の内容を楽天市場みたいな通販サイトのフォーマットで表現しているんですよね。オモコロもよくこういうパロディーをするんですが、みんなに認知されているフォーマットをいじるおもしろさは、この記事が最大限にやっているんじゃないかなって。ちょっと衝撃的な記事でしたね、これは。

今井 ちなみに、この記事はどれくらい時間をかけて作ったんですか?

 前日に小説を読んで、黙々と画像を作り始めてから10時間くらいかなあ。

今井 ひとりで10時間で作ったんですか? すごい……。

原宿 『恥ずかしながら金目鯛のうまさを知りませんでした』は、この記事に影響されて、実際に静岡・稲取まで金目鯛を食べに行ったら、めちゃめちゃうまかったので選びました。『甘いものは塩で食べろと心の食通が言ってくる』は僕のデイリーポータルZ最注目ライター・江ノ島くん(※)が書いたものなので選んでます。江ノ島くんはとにかくビジュアルが好きです。毛穴がない。

出典:「デイリーポータルZ」
※江ノ島さんとは……江ノ島茂道 (えのしましげみち)。1988年生まれのWebライター、会社員。執筆記事は『社会人が忘年会で締めるなら、おれは絶対に食べたい鍋で締める』『横綱になりたくて…秋』など。

 ホントに肌がつるつるなんですよね。

原宿 めっちゃ食べてるのに清潔感がすごくて。江ノ島くんの記事は、どんな記事でもにこやかに読めるんですよね。

今井 原宿さんのお気に入りの記事、実はもうひとつあります。『本を読む姿勢が良すぎると頭が悪そうに見えるのはなぜか(大北栄人)』

原宿 ついよっつ選んじゃいました。大北さんの記事は、自分の価値観を揺さぶらせてくる感じが好きです。アカデミックなんだけど、やってることはめちゃめちゃバカなんですよ。『お茶がお茶でなくなる瞬間をご覧いただこう』とかもそうなんですけど。

 (お茶を手にとって)これですよね。このお茶が、ある瞬間からオシッコに見えてくるっていう(笑)。

原宿 振って泡立てたり、紙コップに注いでみたり。文字通り、お茶がお茶に見えなくなる瞬間を研究した記事なんですよ。すごく真剣に。

 これを飲みかけで植え込みに置いておいたら……

原宿 あーもう結構オシッコですねえ。

会場 (笑)。

デイリー林「オモコロは度胸がある」

今井 一方、林さんにも事前にお気に入りの記事を伺っているのですが……その前に、オモコロの印象はいかがでしょう?

 うまくやってるなあ〜! と思います。オモコロって、記事だけじゃなくて運営自体がもうネタになってるじゃないですか。作る過程からコンテンツになっているのが魅力的で。みんながそこに混ざりたくなる、あの『トキワ荘』みたいな雰囲気はWebメディアの正解だと思います。記事のクオリティーじゃないよなあって。

原宿 「記事のクオリティーじゃない」。

 いや、クオリティーもあるんですけどね!(笑) ああいう“トキワ荘感”を出せるのは羨ましいです。あと、ARuFaくんとかダ・ヴィンチ・恐山くんとか、新しい才能をどんどん見つけてきますよね。ネットのドラフト一位みたいな存在が次々と入っていくから、いいなーと思って見てます。

今井 事前の取材で、林さんがおっしゃっていたのは、「オモコロは度胸がある」と。

 言いました。デイリーポータルZって、ちょっと役に立つ部分を残しているんですよ。でもオモコロはそれをやってないので、度胸があるなあと思って。滑ったらゼロだけど、爆発力はそのぶんすごいですよね。

原宿 ありがとうございます。お役立ち記事への憧れはありますけどね。

 僕は、若いライターが「バカな記事を書きたいです!」って言いにきたら、「少し役に立つことも書いておけば?」って言っちゃうんですよねえ。記事がつまんなかったときに「時間を無駄にした」って思われないよう、保険をかけてしまう。バカやるなら、100パーセントがいいですよ。

今井 そんな林さんが挙げた、好きなオモコロ記事ひとつ目は、原宿さんが書いた『トミー・ヒルフィガーが教えてくれた大切なこと』

原宿 あははは!

 これはね、今すぐ読んだほうがいい。読まないと分かんないです。

原宿 トミー・ヒルフィガーっていうマスクマンが現れて、「お前は消費社会に騙されている。自分の手で物を生み出しなさい」みたいなことを言うんですよ。で、トミー・ヒルフィガーに諭された人が、トミー・ヒルフィガーのロゴに似せたチャーハンを作る。……っていう記事なんですけど。

 衝撃でしたよ、「なにこれ……」と思って。全然ツイートとかシェアが伸びてないのがまた最高で。

原宿 まあまず伸びないですよね。

 これは、伸びないのがいいんです。

原宿 自由なんだってことを、僕が率先してやりたい気持ちがあるんですよ。インターネットっていうのは自由な場なんだから。オモコロで、新しいライターの子が「記事を出すのが怖い」って言うんです。Twitterで悪いこと書かれたら怖い、滑るのがいやだ、とか。でも僕がこんなんだからもうなんでもいいじゃん! って。ちょっとハードルを下げてるので。

 まあ、上げてはないですね(笑)。

原宿 (笑)。

 でも本当、本来何をやっても自由なんですよね、僕らって。それは思います。

今井 他に選んでくださったのは、『【革命】自分のケツにプロジェクションマッピングしてみた(ARuFa)』『最凶の悪人顔は誰だ? 容疑者フェイス選手権(オモコロ編集部)』

 デイリーポータルZ編集部で、「ARuFaくんの裸はちょうどいい」ってよく話題になるんですよ。太ってないし、筋肉ムキムキでもないし、すごくリアルな体で。ARuFaくんの記事はどれもおもしろいけど、裸がちょうどいいっていう理由でこの記事を選びました。

今井 これ、すごいのは、Twitterのシェアが7,994に対して、Facebookが15(2019/1/15現在)しかないことですね。

原宿 うちはFacebookが全然ウケないんですよね。実名だと、シェアにちょっと不安があるようで。

 (笑)。『容疑者フェイス選手権』は、もうオモコロっぽさというか。みんなで企画をやっていても内輪ウケにならない、ギリギリのバランス感覚がオモコロにはあるよなあって。たぶんこういうの、下手にやると身内ではしゃいでるだけになっちゃうと思うんですよ。

原宿 真面目に前提を説明して、それを真剣にやってるんだってことが伝わればなあ、とは。

 一人一人がその勘どころを抑えてるから、成り立ってるんでしょうね。最後のキショ松さんの、インテリ被疑者っぽさはすごくよかったですね。

「バランスの悪い人」はおもしろい

今井 そんな名記事をたくさん作られているわけですが。両メディアとも、ずっと書かれているベテランもいながら、新しいライターも発掘されていて、チームとしての新陳代謝がいいですよね。デイリーポータルZの場合は、さっきおっしゃったように自由投稿フォームから応募してもらうことが多いんでしょうか。

 そうですね。投稿してもらって、性格の良さそうな人を採用してます。素直っていうか、会って感じの悪いところがない人がいいですね。

原宿 人当たりの良さは大事ですねえ。

今井 採用基準としておっしゃっていたのは、「あまりデイリーっぽくない人を起用したい」と。

 “デイリーポータルZっぽい”を意識しすぎると、つまんないので。意外だと思われそうな人を選ぶようにしています。そうすると読者から反感を買うんですけど、ベテラン読者から嫌われる人はいいなあと思ってるんですよね。

今井 反感ってどんな感じでされるんですか?

 「アイツつまんねえ」みたいなのがメールで届くんです。でも半年くらいすると、だいたい読者もみんな慣れてきますね。

今井 反感買うと、やっぱり最初はシュンとしますよね。

 どうかなあ、気にしたりもするのかなあ。まあでも、全然気にしなくていいからって言いますね。ギャラを払う人間がおもしろいって言うんだから、問題ないよって。オモコロはどうですか?

原宿 基本はインターネットで見つけるんですけど、たぶん気にして見ているところがみっつくらいあって。ひとつ目は、観察力のありそうな人。僕はおもしろさって観察力だと思ってるんですよ。普段のなんでもないツイートやあげてる写真を見て、「この人の視点すごいな」と思うような。

今井 みんなが気づかないところに気づいてるとか。

原宿 それもそうですね。そういう人はやっぱりおもしろいんだろうなって思うので、観察力は気にして見てます。ふたつ目は、オリジナリティの高い表現をしている人。みっつ目は、損得勘定の基準がぶっ壊れている人。ライターって時間対効果で考えると大赤字なこともあるので、赤字への耐性が強そうな人ですかねえ。

 ははは(笑)。

原宿 オモコロも、今でこそお仕事がいただけるようになりましたけど、最初は本当に手弁当で。結局、大事なのは続けることなんですよね。だからその人が続けられそうかどうかは、すごく見ますね。

 さっきの損得の話じゃないですけど、“バランスが悪い人”はいいですよねえ。よくわかんないことで興奮して、勢いだけで記事を書いちゃうような。なにか偏愛対象がある人っていうのかな。そういう人ってネタが尽きないですもんね。

今井 ひとつのテーマについて書き続けられるっていう意味で、ネタが尽きないってことですか?

 それもそうなんですけど、何かめちゃめちゃ好きなものがある人って、他のものに対しても「あ、これいいですね!」っておもしろがる癖がついてるような気がするんですよ。なんでもおもしろがって書けるといいのかなと。

今井 そういえば、原宿さんに新人発掘について聞いたとき、「三国志のように探してます」とおっしゃっていましたが。

原宿 ええ、僕そんなこと言ってました!?

今井 「強いやつは強いやつが知ってる」っていう。

原宿 あー! そうですね。誰かおもしろい人いない? って漫画家やライターに聞くと、「記事書けるかどうか分かんないけど、こういうやつがいるよ」って紹介してもらえるんですよ。なので結構、仲間内に聞いてます。

今井 一切書いたことがない人でもいいんですか?

原宿 書いたことない人も「やってみない?」って誘うことはあります。採用するかどうかは一度書いてもらって判断しますが、おもしろい人だったらおもしろい記事を書けるのかなって。実際、オモコロ杯に応募してきてくれるのが、みんなの初めて書く記事だったりするんですよ。

今井 林さんは、それはあまりないとおっしゃっていましたね。

 そうですね。デイリーポータルZは、元々書いてた人しかいないです。でもおもしろい人がおもしろい人を知ってるっていうのは、今聞いて納得しました。

原宿 あとは、周辺をうろついているやつが入るケースもありますよ。

 周辺をうろつく?(笑)

原宿 オモコロが開催するイベントとかにちょくちょく顔を出してくれる人で、いいかもって思うと「記事書いてみたら?」って言っちゃうんですよね。実際、セブ山(※)とかもそうです。

出典:「セブ山」
※セブ山さんとは……Webライター、ラジオ配信、インターネット文化人類学者、LINEスタンプクリエイター。執筆記事は、『母親はどこまで息子のTwitterを監視しているのか?』『【Twitter実験】つぶやきだけで個人を特定できるのか?』など。

今井 へえー!

原宿 よくうろついてるから「すげーいるなー!」と思って、話してみたらおもしろかったんですよ。それで誘いました。

 ふふふ。

今井 林さん、すごくウケてらっしゃいますね。

 セブ山さんがうろうろしているのおかしいなと思って(笑)。目立つじゃないですか。

今井 体、大きいですからね。

MVPは、やる気を出して欲しい人に

今井 お二人とも、記事の反響はライター本人には伝えられるんですか? 

 デイリーポータルZは、毎日ライターにPVを公開しています。記事に関わった人もそうでない人も、全員にシェアしてますね。

原宿 毎日はすごいなあ。オモコロは月一回、PVのまとめをライターに一斉に送ってます。でもこの記事はあからさまにPVが悪いことって滅多にないんですよ。

 優秀な人には、なんか賞をあげたりしてます? ケアというか。

原宿 その月で一番読まれた記事を書いた人には、MVP賞をあげてます。

 あ、一緒です。

原宿 それももしかしたら知らないうちに僕がパクったのかな(笑)。

 でもデイリーポータルZのMVP賞は、一番読まれた人じゃなくて、やる気を出してほしい人にあげています。敢闘賞みたいな感じですかね。数字はそこそこでも、編集部のなかでおもしろかったっていうもの……たとえば木とか食っちゃってる人に。

今井 (笑)。

 ああいうのは褒めとかないと。

原宿 大北さん(※)ですよね。あれよかったなあ。木は煮ても硬くて食えないって記事なんですよ。めっちゃおもしろかったです。

出典:「デイリーポータルZ」
※大北さんとは……大北栄人 (おおきたしげと)。1980年生まれのWebライター、映像制作、コントユニット「明日のアー」の主宰。執筆記事は『女性は大変だ!とか良いこと言わずに淡々とお化粧を体験する』『CMでは牛丼が弾んでいるぞ』など。

 あんなの……だって数字は絶対いかないじゃない。

今井・原宿 ははは(笑)。

 でも、「そっちで合ってるぞー!」って。

今井 そっか、PVがうまく伸びなくても、それが編集部で褒められていれば「こっちでいいんだ」って思えますよね。MVPにはなにかプレゼントをあげるんですか?

原宿 金一封を。

 うちは会社のオンラインショップから、ソーメンとか醤油とか。

原宿 現物支給なんですねえ。それもありだなあ。

『Web』編集は、サッカーだ!

今井 ここまでライター側の話を伺ったんですが、編集部側の話も聞きたいなと。今、編集部はそれぞれ何人ですか?

原宿 会社のメンバーでいうと15人なんですが、オモコロ編集部という肩書きになっているのは、僕、永田、ARuFa、ダ・ヴィンチ・恐山の4人です。

 デイリーポータルZは、僕を含めて6人です。でも、オモコロもそうですが、全員ライターじゃないですか? あんまり編集者って感じしなくないですか?

原宿 しないですねえ。僕すら、便宜上、編集長と名乗ってますけど、編集の仕事は経験したことがないので。出版社や編集プロダクションにいたこともないですし。だから誤字なんかもし放題です。

 僕も誤字は平気で見逃します。たまに読者にTwitterで教えてもらって、「ホントだ!」と気づくみたいな。漢字のひらく・とじるも人によってバラバラだし。ザル編集ですよね。

今井 誤字を見つけたら、誤字をした人に注意したりしないんですか?

 いや、こっそり直してます。

原宿 大した問題じゃないんで別に。

今井 (笑)。

 Webの編集って、サッカーみたいに、試合始まっちゃったらどうしようもないですよね。試合前は「こうしような!」とかあれこれ言うけど、始まっちゃったら見守るしかない。野球みたいに一球一球、指示出すわけじゃないから。

今井 『紙』の編集は野球っぽいイメージですか?

 かなあ。

原宿 『紙』は形になっちゃったら取り返しがつかない感じがありますよね。僕も、出してから考えたらいいんじゃない? ってところがあります。

 だから『紙』の世界の凄腕ベテラン編集者とか入ってきたら、超怖いですよね。「なんだこの体制は!」とか言われそうで。

原宿 たしかに、めちゃくちゃ怒られそうですね。

 どうしよう、見城徹さんみたいな人がきたら……。

編集者は「暇人」であれ

今井 どちらの編集部もライターを兼業している方が集まっていますが、編集部に入るのに、「書く力」は不可欠ですか?

原宿 ああー。

 むしろ、よくないんじゃないかなって。書けると、自分で書いちゃおうって思うじゃないですか。書けば時間がかかって、その分仕事が滞るので、ある程度分担して回したほうがいいのかなーと思います。すごく普通なことを言っちゃうんですけど。

原宿 でもなんだろう、全員がプレイヤーでいないと、組織の中の求心力はちょっと弱まる感じはあるんですよねえ……。「あいつ全然おもしろいこと書かないくせに、赤字ばっかり入れやがって!」ってなると、あんまりよくないのかなあって。

 たしかに文章を直すっていう意味では、書いた経験は必要だと思うんですけど。でも、「このライターに、この企画をやらせたらおもしろいんじゃないか」って、企画を考える仕事であれば、あまり書かないほうがいいのかも。こういう取材のコーディネートしときました! みたいな、人を喜ばせるのがうまい人がいてもいいですよね。

原宿 それはそうですね。「あの人、暇そうだな」と思わせることって、編集者は結構大事だと思います。編集部内でもライターに対しても、暇そうだからなに聞いても良さそうって印象を与えたいですね。なかなかできないんですけど、理想はそうです。

今井 相談しやすい環境にしておくんですね。

原宿 結局、話すのが一番だなと。自分がどういう人間か、何をおもしろいと思っているかって、人と話さないとなかなか見えてこないと思うんですよね。それを話しながら一緒に探すのが、「編集」みたいな感覚なんです、僕は。なので常に暇でいたいです。

 「行けば必ずいる」ってのも理想的ですよね。僕ね、週一回、とあるコワーキングスペースにいることにしたんです。相談会の日として、ライターが誰でも来れるような。昨日その日だったんですけど、まったく誰も来なくて、一人でずーっとパソコン眺めてました(笑)。

原宿 信じられてないんじゃないですか? あんなこと言って、本当はいないんじゃないのって。

 めちゃめちゃいたし、ずっとチョコレート食ってましたよ。

原宿 ははは(笑)。

 だけど、ナガオカケンメイさん(※)も渋谷ヒカリエの中にデスクを構えていて、「行けばいるっていう環境は大事」と言ってましたね。オモコロも、バーグハンバーグバーグに行けばみんないますもんね。

※ナガオカケンメイさんとは……1965年生まれ、ロングライフデザイン活動家。 D&DEPARTMENT PROJECT代表。47都道府県に1か所ずつ拠点をつくり、物販・飲食・出版・観光などを通して、47の「個性」と「息の長い、その土地らしいデザイン」を見直し、全国に向けて紹介する活動を行っている。(参考:「D&DEPARTMENT PROJECT」

原宿 ノンセキュリティーです。誰でも入れちゃう。

 用がない人って、セキュリティーに弱いじゃないですか。特に用はないのに、入り口でなんか紙書いたりタブレットで人呼んだりするの嫌でしょ。だからできるだけノンセキュリティーの場にいたいですよねえ。

原宿 街角にあんどん置いてやってる「辻占い」(※)みたいに、街角に机置いて「編集」って札立てて、ってあれがいいかもしれないですね。そこに座ってる編集者に、「最近こんなおもしろいことあったんですけど、記事になりませんかねえ?」ってお客さんが話に来るみたいな。“辻編集”。

※辻占いとは……通りすがりの人が話す言葉、性別・服装・持物などから占う、占いの一種。

 インタビュー形式にして書けばいいわけですね。それ最高ですね。

原宿 開かれてるっていうのは大事かもしれないですよ、編集者の体は。書いてると、考え込んじゃって話を聞くモードになかなかなれないから。

 一切書かないで、ふらふらしておくのがいいんでしょうね。

新人にはまず「飯をおごる」そして「雑談を増やす」

今井 たとえば以前僕がいた編集部では、入社したときに「とりあえずこれは読んでください」って本を二十冊ぐらい渡されていたんですが、そんな風にクオリティを担保するために新人にしていることはありますか? 原宿さんは、とにかくご飯を奢る。

原宿 会うと一食タダになるっていうのは大事かなと。あの人と会ってもあんまりおもしろくないけど、飯は食えるな、みたいな。

今井 (笑)。

原宿 基本的に信頼されないと、おもしろさって出てこないので。その手段としてご飯を食べに行くっていうのはありますね。

今井 おもしろかった記事やコンテンツは、みんなでシェアしてます?

原宿 しています。誰も見てないかもしれないんですけど、オモコロのサイトの一番下に『気になるニュース』っていうニュース欄を設けているんですよ。

 あそこすごい好きですよ、僕。

原宿 あ、本当ですか(笑)。気になる記事にコメントつけて、それぞれ頻繁に更新しているんですよね。あとはチャットワークでみんなでおもしろいものを集めたりとか。でも逆につまんないものを見るのも大事だと思っていて、映画とか本とか、どこかの企業がPRで作るも全然バズってないサイトとかを見て、これはどうしたら良くなっただろうねと。

今井 ははは、大事ですよね(笑)。

原宿 うちがこれを作ってたらと思うと、ゾッとするね! みたいな感覚をちゃんと共有して、何がダメなのかをみんなで考えておくといいのかなと思います。具体例はまったく出せないですけど(笑)。

今井 デイリーポータルZ内では、なにか気になるものを共有するためにしていることはありますか?

 いや、なにもしてないですね。ただリモートワークが増えてきて、雑談をもっとしようって話にはなりました。いらんことを積極的に話そうって。

今井 たしかにリモートワークっていらんことすごく減りますよね。ただでさえ人に連絡するのって億劫だから。

 チャットに書くほどでもないことを発言するのは大事かなと思います。でもそれで誰からも反応をもらえないと本当にさみしいもんね……。この間それで「必ず反応すること!」って会議で決めましたけどね、僕が。

原宿 強権発動ですね。

企画会議で、集団トランス

今井 企画会議はそれぞれされるんですか?

林・原宿 してます。

 全体では月一回、編集部だけで週一回。ライター数人と担当編集者で、不定期でやっている企画会議もありますね。だから会議ばっかりやっているような気がします。

原宿 うちはほとんどチャットで済ませちゃうかもしれないですね。みんなインターネットが好きなので、チャットが一番盛り上がるんですよね。チャットの中だけ口数が多いです。

今井 たしかに、オモコロ編集部って本当に静かですよね(笑)。

原宿 そうなんですよ、みんな喋んなくて。今日は一言も喋れなかったなっていう日も、チャットの中では明石家さんまぐらい喋ってます。

今井 ははは(笑)。

原宿 だからそうですねえ、あんまり改まった定例会議みたいなのはないですね。

今井 オモコロって何をしたら一番怒られるんですか? たとえば締め切りを破っちゃったとか。

原宿 あー、締め切りは……。僕らが率先して守ってないので、破られても怒らないです。何しても怒られないですね。僕が怒られるのが嫌いだから、人にも怒らないですし。

今井 原宿さん自身、すごく真面目にお仕事されますよね。返信とかもすごく正確で丁寧にくださるし。

原宿 本当に怒られるのが嫌いなんです。ストレングス・ファインダー(※)も診断結果に「慎重さ」とでてきたぐらいで。

※ストレングス・ファインダーとは……オンライン「才能診断」テスト。自分の回答を膨大なデータベースと比較し、自分の強みを明らかにしてくれる。

 オモコロ編集長の強みが「慎重さ」ってやばいよね(笑)。

今井 林さんは怒ります?

 怒らないです。楽しさで騙してみんなに書いてもらっているところがあるので、辛かったらその魔法が解けちゃうじゃないですか。

今井 著書の中でも「会議は、ライターを素に戻さないためにする」と書かれていましたね。

 やっぱり、家で一人で記事を書いていると「いい記事を書かなきゃ」とか「バズらなきゃ」みたいな気持ちになって、どんどん役に立つようなことを書いちゃうんですよ。でもそれは長期的に見ると、サイトの色を失わせてしまうから。一人で「木を食べるぞ!」って人はあんまりいないんで、「木とか食べちゃえば?」とか言って「木を食べるのもアリなんだ」と思わせるのが大事なんですよね。

原宿 なるほど。

今井 思います?(笑)

 全員で「そうだそうだ! 木だ! 木を食うんだ!」って、そういう雰囲気にするんですよ。「“5いいね”くらいだとおもしろいね」「そうだ、俺たちのことなんか、わかられてたまるか!」みたいに(笑)。そうしないと人って、ほっとくとどんどん真面目になっちゃうから。

今井 その感覚、原宿さんも分かりますか。

原宿 分かりますね。うちもネタだし会議をすると、どうしようもないネタがいっぱい出てくるんですけど、「せっかく出たからやっちゃおうよ」って形にすることがあります。やっぱり集まると、みんな気が大きくなって、なんでもいいやって気持ちになってくるんでしょうね。

 じゃないと、ウケる記事ってだんだん似てきちゃうもんね。

原宿 暇なやつらが集まってやるのが一番です。きゃっきゃしてはしゃぎながら記事を書くっていう。

 幸せだなあ。それで十数年やってるって(笑)。

発展途上もおもしろがってもらえたら勝ち

今井 では、実際にそういう風に出来上がったチームで、どうやっておもしろいものを作っていくかという話なんですけども。たとえば、逆におもしろくないなと思うようなものが上がってきたとき、どうするんでしょう? 原宿さんがちらっとおっしゃっていたのは、「一旦失敗してもらうこともある」と。

原宿 そうですね。まあ最終的に「処置なし!」となったときに(笑)。時と場合にもよるんですけど、そのまま出しちゃうっていう判断も大事ですかね。ウケなかったらどこがウケなかったか一緒に考えればいいので。失敗から学ぶ機会すら与えてもらえないのが、一番怖いだろうなと思うんです。炎上しないようなものに限り、ですが。

今井 それで、思ったより跳ねたなってことはないんですか?

原宿 ないです。ウケないだろうなーって思いながらも出して、「ダメだったね、はい次いこ!」って。ただまれに、発展途上が輝くタイプのライターがいるんですよね。なんか未熟だなーって雰囲気がすごくおもしろい人もいて。

 そういうのをおもしろがってもらえるといいなあって思いますよね。僕らは自分でも記事を作るから、原稿自体がおもしろくなくても「やりとりが上手くなった」とか「失敗してるな〜!」とかそういうメタな部分を含めておもしろがれるんですけど。それも含めてサイトに載せられたらいいんだよなー。

今井 でも林さんから見ると、オモコロはそれが出来てるってことですよね?

 オモコロは出来てると思いますね。

原宿 発展途上も見てくれ! みたいな気持ちはありますね。つまんないって思う人のほうが多いかもしれないですけど(笑)。

今井 赤入れは、どの程度するんですか?

原宿 導入部分とか構成の分かりやすさだけ、しますかね。タイトルも一緒に考えることがあります。あんまり個人の“おもしろ”の部分には赤入れしないです。

 デイリーポータルZも、構成だけは言いますね。よく分かんないことをやっているんで、構成だけはオーソドックスにしてくれって。「経験・気づき・仮説・前提・手順」があって、それからおかしなことを始める。前置きをしっかり書かないと、ただおかしなことをやっても、「この人なにやってるんだろう」って思っちゃうじゃないですか。

今井 たしかにそうですね。

 延々とやるんじゃなくて、「4種類試します」ってあらかじめ言っておくと、読みながら現在地が分かるから、最後まで読む気になる。そういう普通のことはライターにも言いますね。

今井 ビジネス書の前書きみたいな。

 そうそう。すごくちゃんとしたフォーマットでおかしいことをやってるほうが、おかしさが際立つので。そういうちょっといやらしい気持ちもあります。

記事は「余談」を増やすほどおもしろくなる

今井 「ここはおもしろくない」とか赤入れはしないんですか?

 しないです。おもしろくない原稿って、おもしろくないことが書いてあるんじゃなくて、おもしろいことが書いてないだけなんですよ。技術に即したことだけ書いてあって、余談がない。余談が入ってない原稿は、おもしろくないので。だから「余計なことを、あと10個書いてください」って言いますね。

たとえば、「ペットボトルが冷たかった」とか「コーヒーが500円もした。実家までの交通費と一緒だ」とか。そういうのは10個書くと、2〜3個くらいはおもしろいのがあります。冗談をひとつだけ書かれても、それがおもしろくなかったとき辛いから、必ず多めに書いてって。

今井 2〜3個おもしろいのがあったら、残りの余談は削るんですか?

 「どれもおもしろいけど、今回はこれとこれだけ入れよう」って言って、他は削ります。

原宿 情報の正確性は大事ですけど、たぶんデイリーポータルZもオモコロも、そこがメインではないですよね。取材に行くとしても、取材先にたどり着くまでに何を感じたかまで書いてほしいです。写真も余分に撮っておいて。そのへんの写真も全部撮っておけば、あとで見返したときに「そういえばこんなこと思ってたな」って思い出すので。

 メモもたくさん取ろうって言ってるんですけど、そこには取材で聞いた話を書くんじゃなくて「帰りたい」「椅子がかたすぎる」とかそのときの感情を書くといいですね。

今井 それ、今の林さんの気持ちじゃないですよね……?

 いや違いますよ!(笑)

今井 感情が大事って部分でいうと、やっぱり記事は取材直後に書いたほうがいいんでしょうか。

 忘れないうちに書いちゃうのがいいですね。取材直後に喫茶店とかでバーっと感情だけ書いておいて、そこから半分くらいにすると結構ぎゅっとおもしろくなるから。って言って、僕も書かないんだけど(笑)。でもなんだか世の中の編集術って、情報の正確性みたいな話ばかりじゃないですか。

原宿 そうですねえ。「この人はこんなことに気づいたんだ」っていうのがもっとあってもいい気がします。

 無駄のことをたくさん書いたほうがファンが増えるから、次が楽になるんですよね。「この人、また余計なこと書いて……」って、知り合いみたいな気持ちになれるじゃないですか。おもしろくなくても受け入れてもらえるというか。一回一回、情報勝負になっちゃうのは辛いですね。とか言ってるメディアはこのふたつ(『デイリーポータルZ』と『オモコロ』)だけかもしれないです。すごく間違っていることを壇上で言っている気がする(笑)。

原宿 (笑)。ニュースサイトの感覚とはまた違うでしょうね。それだと余計な情報は省けって言うのが正しいと思います。

 オモコロ編集部に記者ハンドブックとか絶対置いてないでしょう?

原宿 ……ないですねえ。

会場 (笑)。

原宿 でも林さんがつくった『ライター入門』の本、あれ置いてます。

 ああ、あの同人誌の。超初心者向けのやつね、「SDカードがカメラに入っているか確かめよう!」とか(笑)。

原宿 それも実はパクらせていただいて、内部向けの『オモコロライター虎の巻』ってのを作りました。「カメラの充電を確認しよう」みたいな、基礎の基礎をまとめてみんなに渡してます。

 そこ大事ですよね。『ライター入門』にも誇らしげに「ビニールシートを持って行けば荷物置き場になるから大丈夫!」って書いたんですけど、そんな鞄を置くとこがないような場所で撮影してるの、デイリーポータルZだけだって言われて。

原宿 大丈夫です。うちもやります。

 あとあれね、三脚持ってきたけど、カメラの台座になるアレがないとか。

原宿 ははは! はめるところ!

 あそこだけコンビニで売ってくれないかな、と思うんですけど。

今井 あれは売ってないですねえ(笑)。

 ミニ三脚持ってきたと思って開けたら、中身が笛だったこともあります。ケースがすごい似てて。

原宿 あーはいはい。

今井 「あーはいはい」な話ですか!?

 リコーダーが出てきました。

おもしろ編集長のおすすめビジネス書3選

今井 では、本題からは少しそれるんですが、実はビジネス書が好きだというおふた方から本日のお土産ということで、おすすめの本を伺おうと思います。題して「おもしろ編集長のおすすめビジネス書3選」です。

原宿 「おもしろ編集長」(笑)。

 ズボンのチャック開いてそうですね。

今井 それぞれ三冊ずつ選んで解説していただこうと思います。まずは林さんから。『誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち』『ビジネスマンのためのドーピング・ガイド』『サラリーマンの悩みのほとんどにはすでに学問的な「答え」が出ている』。これ、気になるのは、やっぱり二冊目でしょうか。

 『ビジネスマンのためのドーピング・ガイド』がむちゃくちゃなんですよね。集中したいときには、こんな栄養素が必要だからカレーを食べよう、みたいな内容をまとめた本なんですけど。

今井 僕はまだ解説までしか読めてないんですけど、「アスリートはドーピングで罪になるが、ビジネスマンは検査もされない! ドーピングし放題」なんだと。仕事にブーストをかけるときに、摂るべき栄養素をちゃんと摂れという本ですね。

 それが、普通の食材じゃなくて、薬が入っていたりするんですよ。風邪薬を風邪じゃないときに飲むみたいな(笑)。むちゃくちゃなんだけど、おもしろいです。

今井 『誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち』はどういう本なんですか?

 これは愉快な本です。MP3を発明した人とかのドキュメンタリーなんですけど、いろいろな人生の物語が交錯するんですよ。あの2000年前後のインターネットの自由な雰囲気を描いています。

今井 『サラリーマンの悩みのほとんどにはすでに学問的な「答え」が出ている』、こちらは?

 これは、『統計学が最強の学問である』と同じ著者ですね。幸福になるにはどうしたらいいかっていうのは心理学で答えが出ているとか、ちょっと意地悪な感じはするけど、一応みんなが悩んでることは、補填して解決済みにしてくれる本です。

原宿 いいですねえ。

おもしろいものは、作るのではなく見つける

今井 一方、原宿さんはこの三冊あげてくれました。『未来に先回りする思考法』『人を動かす』『職業としての小説家』

原宿 僕は結構ガチガチにおすすめしてきてるんで。『未来に先回りする思考法』は、『お金2.0』と同じ著者なんですけど。なんていうんですかね、僕は基本的に未来のことは予想がつかないと思って生きているんですが、この方が話す未来はすごく説得力があって、「こうなるかも」って思わせるんですよね。

 へえー!

原宿 3年前の本なんですけどね。未来を考えるうえでちょっとおもしろいかなと思って選びました。

今井 二冊目は、『人を動かす』。打ち合わせのとき、この本の好きな箇所を書き写したノートを見せてくれましたよね。

原宿 これがねえ、もう最高なんですよ。自己啓発本はこれ一冊でいいと思ってるぐらいです。新入社員に読ませる会社もあるらしいんですけど、これは初めて読んだとき号泣しましたね。僕、人が他人のために尽くすっていう話に弱くて。すぐ泣いちゃうんです。

 『ごんぎつね』とか?

原宿 (笑)。『ごんぎつね』はね、きつねなんで。人間の話ね! この本は他人をどう捉えるかという内容で、これがいいんですよね。「批判は何の意味もない」とか「人を動かすには褒めろ」とか、世の本はみんなこの人の言っていることを書き直してるんじゃないかなと思うくらい良くて。いやあ、ただただ、いいですこれは。

 表紙の写真もいいですね。

出典:『人を動かす 新装版』

原宿 「もう絶対信頼できるじゃん!」って顔してますよね。

会場 (笑)。

今井 三冊目の本も表紙に顔が出ています、『職業としての小説家』。これは村上春樹さんの。

原宿 これは村上春樹さんが小説家になったきっかけが書いてある本です。記事のネタに困ったときに、結構ヒントになる本なんじゃないかなあと思って。「さて、何を書けばいいのか?」っていう章に書いてあることが、めっちゃ良いのでぜひ読んでみてください。ちょっと引用しようかな。

「もしあなたが小説を書きたいと志しているなら、あたりを注意深く見回してください。(中略)世界はつまらなそうに見えて、実に多くの魅力的な、謎めいた原石に満ちています。小説家というのはそれを見出す目を持ち合わせた人々のことです。そしてもうひとつ素晴らしいのは、それらが基本的に無料であるということです。あなたは正しい一対の目さえ具えていれば、それらの貴重な原石をどれでも選び放題、採り放題なのです。そんな素晴らしい職業って、他にちょっとないと思いませんか」(出典:『職業としての小説家』村上春樹、新潮文庫)

今井 さっき、おっしゃってましたもんね。観察力はおもしろさだって。

原宿 そうそう。おもしろいものはすでに世の中にあると思っていて。「0→1」でおもしろいものを作るんじゃなくて、周りから見つけてくるだけなんですよ。僕じゃない、村上春樹さんがそう言ってるんだから。僕じゃなくて。

今井 わかりました、ありがとうございます(笑)。

力づくでも、「ごきげん」でいることが大事

今井 では、本編はこのへんで。質疑応答にまいりたいと思います。

 これ、手が挙がらないやつですね。

原宿 絶対に挙がらないでしょうねえ。

 「質問がない人は手を挙げてください」のほうがいいんじゃないですか。

今井 (笑)。はい、じゃあご質問ある方!

質問者① 観察眼が重要だという話がありましたが、観察力を身につけるにはどんなトレーニング法がありますか?

 トレーニングかあ。「よく物を見る」っていうのは何度か会議でもやりましたね。たとえば、そこのお茶のペットボトルでも、パッケージをよく見るといろいろ変なことが書いてあるんですよ。

原宿 「上林春松本店」って書いてあるけど、それどこ? とか。

 「綾鷹(あやたか)®︎」のRマークが、「か」の横についてるのかっこいいな、とか。

原宿 「急須で入れたような、にごりの旨味」って、にごりが旨いって誰が決めたの? とか。俺にごってんの嫌だけどなあ、とか。

 にごっていれば、なんでも旨いのか。

原宿 にごってる旨いものランキング。

 逆に、にごってたら嫌な気持ちになるものランキング。

原宿 結構、雑談のなかからネタが生まれるんですよね。

 どこにでも、よく見ると絶対になんか変なことは書いてあるから。デイリーポータルZで、ライターの子がみんな半年くらいで「もう書くことがありません」とか「ネタが尽きました」とか言うんだけど、そんなわけないので。

原宿 そうですね。漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦先生も著書の中で「アイデアは描けば描くほどでてくる」って言ってるんで。荒木先生が。僕じゃなくて。

 (笑)。でもネタって、自分がごきげんじゃないと出てこなくないですか? 機嫌が悪い人に「おもしろいネタ考えてください」ってなかなか難しいですよね。

原宿 あー、それはありますね! 嫁に怒られた後とか、まったくおもしろいこと出てこないです。機嫌は大事です。

 強制的に上機嫌になれるようなものしか目にしないのも、手ですよね。ニュースって機嫌悪くなるようなことばかりじゃないですか。だから家に帰ったら、ずっとサンドウィッチマンのコントを観てます。力づくでごきげんでいるのが大事ですね。

泣く泣くボツになった企画は?

質問者② おもしろいのに、なんらかの理由で泣く泣くボツになってしまった企画はありますか?

 あー、あります。『焼きそばをこぼしたとき保険』。カップ焼きそばの湯切りが何パーセントの確率で失敗するか調べて、損害額を割り出して、保険会社の方と一緒に保険の内容を考えるって企画だったんですけど。原稿も完成してあとは出すだけだってときに、保険会社さんが「記事を出していいかメーカーに確認してほしい」とおっしゃるので、確認したら、「ダメです」と。「うちの焼きそばがこぼれるみたいだから」って。

原宿 ああ……。

 こぼれるんだからしょうがないじゃねーか! って。

原宿 (笑)。

 「御社ってバレないように書きますから」って説得したんですけど、「こぼれる焼きそばなんて、うちだけだから!」って。

会場 (爆笑)。

 1時間くらい電話で交渉したんですけど、ダメでした。

原宿 企業イメージってありますからね。僕は泣く泣くボツってのはあまりないんですけど、いつか『ウンコをオシッコで煮たら、蒸気は屁なのか』っていう企画をやりたいです。

 ははは!(笑)

原宿 載せられるメディアを探してます。

 オモコロでいいじゃないですか。

原宿 いやちょっとなあ、もうきついな……。10年前ならいけたかもしれないですね。

今井 ちなみにそれ、どれくらい前からあたためてる企画なんですか?

原宿 5年くらいですね。動物のウンコならありかな? とか。たぶん、そういう問題じゃないんですけどね。

冗談でやっているということを見失わない

質問者③  「暇でありたい」という話がありましたが、暇な時間をつくるためのコツや決めているルールってありますか? どうしてもすぐ「忙しいなあ」っていう気持ちになってしまって……。

原宿 タイムマネジメントみたいな話ですかね。何かありますか?

 木曜日の午後は、必ず暇な時間として空けるってぐらいですかね。相談会として、誰でも来ていい日。

原宿 ああ、さっき話していた日ですね。決めごととしてやっちゃうのも、ありですよね。 僕は、ライターの原稿を読まなきゃ、とか、子育てしなきゃ、とか思ってバタバタしちゃったりするんですけど、忙しいって気持ちにならないように抵抗してます。自分に「俺は忙しくない」って言い聞かせて。そっちには意地でも行かないぞ、と。

 デイリーポータルZも、最近システムの入れ替えでいろいろ大変ですけど、「これは冗談でやってるんだから、みんな真剣になるなよ!」って定期的に言ってます。「画面にうまく表示されなかったらどうしよう」とか言うから、「まあ出なくてもいいんじゃないの、どうせ冗談なんだし!」って。

今井 (笑)。それは、デイリーポータルZそのものが冗談ってことですか?

 そう、サイト自体が冗談だから、「なに真剣にやってんだよ!」って。僕たちは冗談でやってるってことを見失わないようにしようと思うんですよね。

原宿 本当、暇とか冗談っていいですよね。暇は人間の最高の状態だから、もし今無職の人がいたら、それは人生の頂点だと思ったほうがいいですよ。

 本当、そうですねえ。

原宿 黄金時代ですよ、無職って。僕もニートだったんですけど、そのときが一番自由だったなあと思いますから。親には申し訳なかったですけど。時間ってあればあるだけいいです。暇が一番。無職が最高!

 無職は最高、っていう結論です。

ライティング:チャン・ワタシ
撮影:飯本貴子
編集:今井雄紀株式会社ツドイ

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