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頭のなかにある思考のエッセイ

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自分のなかにもやもやと浮かぶものの輪郭をとらえたくて綴る、文章の置き場所。主に自分のための言葉たち。
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2024年2月の記事一覧

「これ、やらなくても良かったな」の方がいい

引っ越しを間近に控えた夜、心にじわじわと不安が広がるのを感じていた。 神奈川県の辻堂に越して来たときには、味わっていない不安。辻堂はそれなりに都会で、昼も夜も道には誰かしらが歩いていて、街灯もあって、割と頻繁にコンビニもあるような場所だった。だから「都市よりもちょっと自然がある場所」に、ふらりと行くような感覚だったのだ。 しかしこれから「そうではない場所」に行くのだと思うと、楽しみな反面、本当に大丈夫なのだろうかと思った。 はじめての地方移住。行く先は静岡県の伊豆高原。

時間に追われず過ごしたいのに

「時間に追われず過ごしたい」と願うのは、自分が時間を気にしすぎる性だからなのだろう。 ある一日。わたしは急いでいた。 お気に入りのパン屋さんでベーグルを買いたくて、そのあとカフェに行ってのんびりしたくて、それなのに午前中の仕事が押してしまい、焦っていた。 急いでいた理由は、「早く行かないとパンが売り切れちゃう」と「早く行かないとカフェが混んで席がなくなっちゃう」である。 それでドタバタと家を出て、パン屋さん経由でカフェに行ったものの、すでにパンは完売。カフェも満席。

当たり前は、ひとつじゃない。

伊豆高原の朝。お店となる物件の掃除中、一息つくためにウッドデッキに出てコーヒーを飲んでいると、たまたまお隣の戸建てから出てきたおじいさんと目が合った。 正式に引っ越してきてから挨拶に行こうと思っていたので、急に顔を合わせたことに戸惑い、焦る。「おはようございます、隣に越してくることになりました」と簡単な挨拶を交わしたあと、突然のことに慌てているわたし達とは裏腹に、上品な白髪のその男性は、ゆったりと微笑みながらこう問いかけた。 「ええっと、永住ですか?」 わたしは「永住」