見出し画像

『憑依体 ラメア』 第2話

第2話「マグネティッククラスター」

山戸家、朝。
山戸エレナ(50)がキッチンにいる。
サラとレオ、朝食をガツガツ食べている。
レオ「(もぐもぐしながら)で、見つけられなかったの?」
サラ「(もぐもぐ)うん。残念だったなー。人が多くてさ」
レオ「っていうか、入ってきてないな、ラメア対策本部に。そんなカプセルが出回ってること」
サラ「ガセかなー。どう思う? 報告したほうがいいかな、対策本部に?」
レオ「うーん、どーだろー。ただでさえ有象無象の情報が錯綜しててさ」
サラ「そうだね、もっとはっきりしてからがいいか……」
エレナ、コーヒーのポットを持ってくる。
エレナ「ウゾームゾー? 楽しい響きね」
サラ「(笑って)かわいい、お母さん。『雑』って意味だよ。ね、レオ」
レオ「(首をかしげて)さあ。郡司本部長が言ってたんだよな」
サラ「あんた、意味わかんないで使ってんの?」
エレナ「ねぇ、時間、大丈夫?」
サラ、レオ、時計を見てハッとする。
サラ「やばっ!」
レオ「わっ!」
2人、立ち上がりバタバタと支度をする。
エレナ「あ、いいわよ、置いといて、やるから。帰りは?」
サラ・レオ「(去りながら)ごはんはいいー」
エレナ、にこやかに2人を見送る。
エレナの肩越し、リビングの一角のチェストの上、警視正の紋章がついた制服、帽子姿の山戸隆(享年52)の遺影と花が飾られている。

植物園の入口付近。
サラ、身を潜めて待機中。
ギラギラ照りつける太陽。
サラ「あー、もう……。UV塗ってくるの忘れた……」
そこに無線が入る。
サラ「はい」
森田「今、2人組の男がそっちへ向かった。植物園入って右奥のグリーンガーデンが取引場所らしい」
サラ「(園内を見る)あー、あそこですね。先回りしますか?」
森田「そうしてくれ」
サラ「了解。向かいます」
サラ、急ぎ足であたりを警戒しながら『グリーンガーデン』と書かれたガラス張りの温室へと向かう。
サラ「裏側から入るか……」

一般の来園客がちらほらといる園内。
サラ、あくまで自然な感じで正面入り口を通り過ぎ、ガラスウォールを通り過ぎようとして、ふと温室のほうを見る。
サラ「!」
サラ、ガラスを見たまま立ち尽くす。
そこには、サラの後方の来園客の姿が映っている。
が、サラの姿は映っていない。
サラ「え……?」
ゆっくりと、その次のパネルへと移動する。
そこには、サラの姿が映し出されている。
凍りついた顔のまま、再び、元のパネルの前へ。
サラの姿は映らない。
サラ「何? どういうこと……??」
そこに無線。
森田「奴らが園内に入った。そっちはポジションについたか?」
サラ、立ち尽くしたまま。
森田「おい、山戸サラ! 聞いてんのか?」
サラ、正気を取り戻して、
サラ「あ、すいません、転んじゃって。これから裏口に向かいます」
森田「取引相手を必ずおさえろ」
サラ「(走りながら)はいっ」
サラ、パネルの位置を確認して、慌てて裏口へ向かう。

別の日。
直前にラメア集結が起きた現場。
建造物の一部が焦げ、煙が上がっている。
衝突し、折り重なった車が見える。
防火服を着た特殊部隊の隊員が、消化器を片手に現場を検証中。
そこにサイレンを鳴らして、2台目のラメア特殊部隊の車が到着。
防火服を着た数人が降りてくる。
その中にレオの姿。
レオ、先発の隊員のそばに駆け寄る。
ヘルメット越しに頷き合って挨拶を交わした後、
隊員A「(首を振りながら)ドロップスもヒューマンも回収できなかった……」
ヘルメットを外すレオ。
レオ「クソっ……」
隊員A「何の法則性もないからな。ラメア集結のタイミング」
レオ「どうやって駆けつけるまでの時間を短くしろっていうんだ!」
サイレンが鳴り響き、四方に非常線が張られている。
その外側に野次馬が続々と集まり始めている。
その中で、レオは1人、虚空を見ながら立ち尽くしている。

別の日。
定食屋。
サラと森田、昼食中。
森田はガツガツ。サラは少し箸の進むスピードが遅め。

<回想>
いつかの夜。
サラ、パジャマ姿、リビングでストレッチをしている。
お風呂上がりの髪は少し濡れた状態。
そこにレオが帰ってくる。
レオ「ただいま」
サラ「おかえり。今日も遅いね」
レオ「ぐったりだよ。いったい何を信じていいんだか」
サラ「ん? 新証言とか?」
レオ、冷蔵庫を開け、炭酸水を取り出し、コップに注ぎ、ごくごくと。
レオ「(飲み終わり)まだオフレコだけどさ、映らないんじゃないかって、ラメアヒューマン」
サラ「え? 移る? どこへ?」
レオ「いや、ラメアヒューマンが街中のガラスに映ってなかったっていう動画を入手してさ」
サラ、ストレッチの手を止め、レオのほうを向く。
サラ「すごいじゃん!」
レオ「いや、それ以上何もわかんない。そもそもラメア化した人間で検証しないとどうにもならないからさ」

<回想終わり、現在>
サラ、箸を持つ手が止まっている。
サラM「ラメアヒューマンはガラスに映らない…」
森田「ん? どした? 食わないのか?」
森田、言い終わる前に、サラのトンカツを一切れ奪う。
サラ「あ、え? ちょっとケンシ!」
サラ、あわてて食べ始める。
食べ終わり、水を飲みながら、ふと片方の手で首の後ろを触る。
サラM「まさか……」

別の日・夕方。
サラ、再び、植物園へ。
受付に行き、警察手帳を見せる。
サラ「すみません、あのグリーンガーデンの建造物についてうかがいたいことがあるんですが」

 x  x  x

植物園・オフィスの一角のミーティングスペース。
サラ、植物園の職員と向き合って座っている。
そこに作業服を着た中年の男がやってくる。
職員「あ、来ました来ました。彼が設計担当の野口です」
サラ、立ち上がる。
サラ「すみません、お忙しいところ」
野口「グリーンガーデンのガラスのことですよね?」
全員、着席する。
サラ「はい、正面エントランスの右サイドのガラスウォールですが、ガラスのパネルで構成されてますよね」
野口「はい、それぞれ違う角度をつけていて、太陽光を取り込みやすくしています。あと、景観デザインも考慮して」
サラ「あ、本当に素人質問しかできなくて恐縮です。ガラスについて詳しくなくて。あの、組成というのか、素材はどんなものなのでしょうか?」
職員「あの、これ、何の参考に?」
サラ「すいません。今、ある捜査でガラスについて調べる必要があって。あ、守秘義務があるのでこれ以上は開示できないのですが」
野口「あ、いいんですいいんです。何でも聞いてください。ガラスの組成に興味持ってもらえるなんてめったにないんで。ほとんどのものは複層のLow-eというものを使っています。表面を特殊金属膜によりコーティングしたものです」
サラ、メモをしている。
野口「金属膜で遮熱性能を保ちながらも透明度が高いものなんです」
サラ「なるほど、Low-eガラスですね。あ、ちなみに、エントランスに近い部分のガラスとそれ以外で違いはありますか?」
野口「ちょっとずつ違うんです、Low-eの中でも。可視光透過率、反射率など計算されて配置しています」
サラ「(メモしながら)ほぅ…」
野口「あと、入り口付近は、防犯などを前提に強度を高めた強化ガラスが一部使われています。ただ、表面の歪みが出やすく、反射の歪みにもつながるので、美観に留意して最小限の使用にしていますが」
サラ「ガラスといっても種類がいろいろなんですね……」
サラM「めまいがしてきた…」
職員「太陽も、ね」
サラ「え?」
職員「太陽の角度も関係します。ね、野口さん」
野口「よくご存知で。そうなんです。太陽光の熱の波長は、太陽の角度と日照時間と相関があります。つまり季節によっても波長・熱吸収量が違うわけです。1年間のデータを録ってそこから最適な種類を選ぶ必要があるわけなんです」
サラM「ガラスの種類だけじゃないのか、考える要素は……」

   x  x  x

オフィス入口。
サラ、中から出てくる。
サラ「ありがとうございました。失礼します」

オフィス外観。
ガラスウォールに映る夕日の反射が眩しい。
サラ、しばしためらった後、意を決してこの間映らなかったガラス面の前へ向かう。
顔をゆっくり上げ、ガラスを見る。
そこにはサラの姿が。
サラ「え、どういうこと……?」

サラ、夕日を背負って駅への道を歩いている。
サラ「どう考えればいいんだ? 時間帯、太陽の角度、あー、訳わかんない。ラメア班がてこずるわけだ」

ラメア対策本部入口。
中からレオの声。
レオ「ほんとですか?」
本部オフィス内、郡司本部長を筆頭に、レオ、木下、他3人のラメア対策メンバーが揃っている。
郡司「まだ確度のほどは何とも言えないが」
木下「どういうことですか、回避カプセルって。いったい何でできてるんですか?」
郡司「そこまでは……。とにかくそれを飲むとマグネティッククラスター、つまり、ラメアのドロップスがお互いを引き寄せ合う現象を回避できるってことらしいんだが」
レオM「サラが小耳にはさんだのはこれだったのか…」
郡司「ま、それが本当なら、の話だが」
レオ「それがなぜ若者の間で売買されてるんですか?ラメア化の対象は高齢者なのでは?」
郡司「情弱」
全員「え?」
郡司「高齢者には情報弱者が多い。つまり情報に今のところアクセスできねぇんじゃないのかな」
木下「なるほど」
郡司「それに、ファッションというか、ごく一部の者だけが手に入る、最高に決まるドラッグみたいな感覚なんじゃないか」
レオ「意味わからん……」
郡司「その売人と思われる1人の女性の情報を入手した。で、だ。レオ」
レオ「はい?」
郡司「この中で一番若いのは?」
レオ「えと、(見渡して)俺……っすけど……?」
郡司「若者代表山戸レオ、おとり捜査だ。女に近づけ」
レオ「はー????」

(2話終わり)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?