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『ラズベリーのカヌレを』 ー夢の国だから ep.3ー ラジオドラマ w/脚本


’突然、ラジオドラマ’ 第18回
『ラズベリーのカヌレを』ー『夢の国だから』ep3.ー

作・演出 Jidak


このラジオドラマは、2022年10月28日、Stand.fmにて配信開始いたしました😊




登場人物
木村 久美 (49歳)  同時通訳者 : きこ
高山 香織 (49歳)  主婦(院長夫人):じだっく
遠藤 誠司 (54歳)  久美の恋人、同級生・智子の元夫:まつてん

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   SE コーヒーカップを置く音

久美 「はい。コーヒーどうぞ」
香織 「おかまいなく。いてよかった、久美。めっちゃ忙しいから、居ないかもって思った」
久美 「たまたまよ。夕方からなの、今日は。相変わらず衝動的だよね、香織。もっと前に言ってくれたら」
香織 「ごめん。だって急に決まったんだもん、プレミア試写の招待。で、『あ、久美のマンション、近い』って思って。ていうか、本当に住んでた、こんなエリアに」
久美 「なによ、こんなエリアって?」
香織 「だって、徒歩圏だよ、六本木ヒルズに。ありえない……」
久美 「これくらい贅沢させてよ。切り詰められるのは移動の時間ぐらいなんだもん。ん? それは?」
香織 「えー、どうしよ。地元ではまあまあ人気の……」
久美 「カヌレ! 大好物でございます」
香織 「よかった! これがピスタチオで、こっちが塩キャラメルで……」
久美 「これ! 私、プレーン一択なの、サンキュ」
香織 「ちょっと、全部説明させてよ。おい、食うな!」
久美 「(もぐもぐして)うん、よろしい。合格!」
香織 「試験なの? 女王様なの? てか、久美だね」
久美 「ん、何? あ、食べなよ、香織も」
香織 「まったく……。 あ、この間、久美、見たんだ、テレビで。通訳してるところ」
久美 「え? ああ、東京サイエンスホールのカンファレンスかな? テレビ入ってたわ、そういえば」
香織 「痩せたよね。テレビ見て思って。偉そうなのは変わらないけど、痩せたよね?  なんか、大丈夫かなって」
久美 「……え、それで来てくれたの、香織?」

   SE インターホンの音

久美 「ん? 誰だろ……」

   SE スリッパの音

久美 「あ……」
香織 「(オフで)何? 宅配の人?」
久美 「あ、ううん。(応答ボタン押して) はい…」
誠司 「(インターホン越し)お、いた。仕事で近くまで来たからさ」
久美 「あ、今、来客が……」
誠司 「ん? あ、はいはい。じゃ」
久美 「ごめん。電話する、夜(応答ボタン切る)。……きゃ! やだ、香織」
香織 「え、混乱。え、でも誠司さんだよね。智子の元ダンナの……」

   SE コーヒーカップを置く音

久美 「(飲んで)ふぅー。やっぱマリアージュフレールは特別感あるよねぇ」
香織 「そっか、智子は知ってたのか……  え、じゃあ、私に何してほしいの? 高い紅茶飲ませて」
久美 「言い方。何もないよ。あ、でも、智子にはまだ言わないでね、がんのこと」
香織 「そうなの?」
久美 「うん、何となく、ね」
香織 「ステージⅡ、か……」
久美 「巻き返しますよ、がんばる。まだ子宮を越えて浸潤してはいないから。誠司さんが、支えてくれてるし」
香織 「でも、一緒には住まない……」
久美 「だね。最初は誠司さんがこだわったの、一緒には住まないって。まだわかる前ね、がんが。『キミのキャリアの邪魔はしない』って」
香織 「俺の面倒は見なくていいと」
久美 「そうそう」
香織 「で、今は久美が?」
久美 「なんかさ、病気になったからそばにいてって、都合よすぎるじゃん」
香織 「何言ってんの。いいんだよ、全然。甘えなよ。そのためにいるんだよ、男は」
久美 「へぇー……」
香織 「何?」
久美 「香織っぽくない言い方。びっくりした」
香織 「いつまでも、甘く見るなよ、天然ちゃんを。なんてね」
久美 「(ふっと笑って)よかった。なんかラクになった。香織に話せてよかった」
香織 「あのね、なんでも‘過ぎる’のはよくないよ。がんばり過ぎ、一人で生きたがり過ぎ。あと、罪悪感背負い過ぎ」
久美 「香織……」
香織 「大人なんだよ、みんな。自分で何とかするのよ。智子なんてキラキラじゃん。ドイツだし、今」
久美 「あ、コンクールの表彰式か」
香織 「そ! だから、久美も真ん中に立ちなよ、自分のステージの。久美しかいないんだから、主役は」
久美 「そっか……。そうだね、そうだね、うん……」

   SE メッセージ着信音

香織 「あ、そろそろ行かなきゃ」
久美 「私もそろそろ。あ、そういえば、プレミア試写って言ってたよね」
香織 「うん、彼が招待されてるから一緒に」
久美 「え?」
香織 「ん?」
久美 「ちょっと待って。 え、彼……?」
香織 「うん。えーと、35だったかな、映画監督なの」
久美 「はー???」
香織 「ふふ。今度話すね」
久美 「えー、教えてよ、今」
香織 「だめ。ついででは言わない。全部聞いてもらうから、時間かけて」
久美 「何だそれ。……そっか、レッドカーペットを歩いてるんだね、香織は」
香織 「どうだろ。楽しもうって思ってるかな、いろいろあるけどね。あ、それ、ラズベリーだから」
久美 「え?」
香織 「楽しみなさい、いろんな味を」
久美 「(笑って)ありがとう」

SE メッセージ着信音

香織 「あ、もう着いたって、ヒルズ」
久美 「ね、どこで知り合ったのよ」
香織 「ちょ、あせらないあせらない。今度5時間くらいかけて、教えるから」
久美 「何よ、じゃ、私ももう言わない」
香織 「え、まだ何かあるの?」
久美 「教えなーい」

(終わり)

『夢の国だから』はこちら↓


『シュバルツバルト』(『夢の国だから』ep.2)はこちら↓

※無断転載、上演、朗読等、お断りいたします🙏

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