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『憑依体 ラメア』 第3話

第3話 「ミラン」


○山戸家・リビング・朝

  レオ、生気のない顔でコーヒーを飲み、スマホをいじっている。
  サラ、身支度を終えた姿でリビングに現れる。
サラ「あれ、お母さんは?」
レオ「今日は、遠いところでレッスンだって、さっき出てった」
サラ「ああ、合唱団か。アクティブだなぁ、母。てか、どした、レオ? なんかやつれすぎてるけど……」
レオ「(ぼーっとしながら)正義には立ち向かえるんだけどさ。女子の扱いってさ」
サラ「マジか?? 彼女できた?」
レオ「違う違う! おとり…あ」
サラ「ん? 何?」
レオ「(ドヤって)極秘任務なんで。身内とはいえ」
サラ「(笑って)ばーか。私も警察の人間だっつーの」
レオ「いや、こればかりはラメア班のトップシークレット、のはず…」
サラ「(ジロリとみて)弱いな。(レオの首を絞めて)吐きな、レオ」
  レオ、サラを制して立ち上がる。
レオ「あ、行かなきゃ(マグを持ってキッチンに向かう)」
サラ「(レオの背中に向かって)ケチ!」
  サラ、窓際に行き、外を眺める。
  気持ちのいい空とは裏腹に、サラの顔は曇っている。

サラM 「もしかして、レオは私を探っているのか? ラメアかもしれないって……」

  サラ、山戸隆の遺影の前に立つ。
  飾られた花をきれいに整え直し、手を合わせる。

サラM 「お父さん、どうしよう……」

  レオ、キッチンから戻ってくる。
レオ 「ヒントほしい?」
サラ 「(レオのそばに寄ってきて、レオをガン見)いやいやいや、言いたくて仕方ないって顔してるけど?」
レオ 「サラが聞いた話がラメア班にも届いたってこと。じゃ、行ってきます!」
  レオ、バッグを持って玄関へ向かう。
サラ 「え、私が聞いた話って……?あ! カプセル!!! ちょっと、レオ?」
  玄関のドアの音がし、レオが出ていく。

○街中・午後(同日)
  通りを歩くサラ、森田。聞き込み調査中。
森田 「なんだよ、これだけ聞き回っても、何一つ出てこねぇ。渋谷のネットカフェを出た後、どこ行きやがった、あの野郎」
サラ 「もう一回、三宅の職場の同僚に当たり直しますか?」
森田 「それしかねぇな。あ、今日はもういいぞ、山戸。報告しとくわ、俺。どうせ一回署に戻る必要あるから」
サラ 「お、やったぁ。男前だな、ケンシは!」
森田 「はい、ハラスメント」
サラ 「は? 何ですか?」
森田 「『男前』、アウトだから、それ。ほら、いつも言ってるだろ、『出た、ルッキズム』とかって、お前」
サラ 「はい、大きくアウト!」
森田 「なんだよっ」
サラ 「言っちゃいましたね、『お前』って。どパワハラですから。やばいやつですから。名前あるんで、私」
森田 「ちっ」
サラ 「お疲れ様でした!」

○通り・夕方(同日)
  サラ、街を歩いている。
  時計を見る。17時15分。
サラ 「すご、まだこんな時間! 最高! えー、映画とか行っちゃう? 今、何やってんだろ?」
  サラ、バッグからスマホを取り出そうとして、ふと横に目をやる。
  通り向いの木の影に、レオ。
  身を潜めつつ一点を見つめている。目線の先にはカフェのテラス席。
  サラ、背後からレオにゆっくり近づく。
サラ 「わ!」
  レオ、びっくりして振り返る。
レオ 「サラ! なんだよ。なんで?」
サラ 「いや、たまたま通りがかって。(目線のほうを見て)どれ? 何?」
  レオ、体制を整えつつ、
レオ 「トップシークレットですので」
サラ 「だから、トップシークレットがどいつかって聞いてんだよっ!」
  カフェのテラス席には数組の客がいる。
  レオ、観念したように、
レオ 「奥のほうの、1人で座ってる子」
  黒髪のツインテール、ミニスカート、ニーハイソックス、プラットフォームソールのシューズの女性。
  椅子の下には黒い大きなバッグ。
サラ 「え、彼女が何? 地下アイドルでしょ、あれは」
レオ 「名前はミラン。売人らしいっていう」
サラ 「は? あの子が? 回避カプセルの?」
レオ 「しーっ!でかいから、声」
サラ 「ごめん。で、何? 何かの取引があるの、今から?」
レオ 「いや、身辺リサーチ中。お近づきになって探れってさ。いわゆるおとり捜査ってやつ」
サラ 「ふーん、若造には若造を、か。で、もうお近づいたの?」
レオ 「1回だけ。クラブでちょっと会話したぐらい」
サラ 「ほう。レオがクラブデビューする日が来るとは……」
レオ 「感じいい子だったんだよね」
  ミラン、ヘッドホンで音楽を聴きながら、スマホを見ている。
  そこにパフェが運ばれてきて、ニコニコしながら写真を撮っている。
  すかさず、SNSにアップするべく、テキストを打ち込む。
サラ 「うーん、なんだろ。ガセじゃない? クリーンな感じするけど」
レオ 「サラもそう思う? そうなんだよ。なんかしっくり来ないんだよね、俺も」
  レオのスマホに着信。リュックから取り出す。
  「木下圭吾氏」との表示。
  サラ、スマホを覗き込み、
サラ 「あ、バディからの呼び出しだ」
レオ 「もしもし、お疲れ様です」

○警察・対策本部・中
  木下、対策本部にて防火服を着用。
  複数のメンバーがせわしなく出動する準備中。
  木下、動きながらもハンズフリーでレオに電話。
木下 「レオ、どこだ、今?」
レオ 「あ、えと、渋谷の山下町の交差点付近です」
木下 「近いな、文楽町。発生した、ラメア集結」
レオ 「え! どこですか、文楽町の?」
木下 「教育会館裏手付近。俺たちは特殊班の車でこれから向かう。レオは」
レオ 「あ、すぐです。歩いて行けます。すぐ向かいます」
木下 「オーケー。防火服積んでいくから。じゃ、現地で」

○再び通り
レオ 「了解しました」
  レオ、サラの方に向く。
レオ 「行かなきゃ」
サラ 「だね。あ、ミランは?」
  レオ、歩き出していたが、戻ってきて、サラに至近距離で。
レオ 「今日、サラは何も見てない、何も知らない。わかってるよね?」
サラ 「え?」
レオ 「何もするな!僕をクビにしたくないなら」
サラ 「あ、でも代わりに」
レオ 「だめ!接触しちゃだめ、ミランに!」
サラ 「はいはい。何もしません。ほら、早く行きなよ!」
レオ 「あ、うん」
  レオ、なおも疑わしそうにサラを見る。
サラ 「任せろ! さ! 気をつけて!」
  サラ、レオの背中を押し出す。
  レオ、ひと睨みして、慌てて走り去る。
  あたりは暗くなり始め、通りには帰宅を急ぐ人の姿が増えてきている。
サラ 「あの子が回避カプセルを持ってるのか……」
  サラ、カフェへと歩き出す。が、すぐ引き返す。
サラ 「ああ、だめだ。レオがクビになる」
  サラ、元の場所で身を潜めて、思案顔。
  ミラン、おいしそうにパフェを食べている。
サラ 「彼女がねぇ……。いや、嘘だろ…」
  ミランの頭にはヘッドホン。スマホがメッセージを受信した様子。
  画面を見る顔がみるみる真剣な顔になる。
  スマホを置きしばらく放心したように動かない。
サラ 「なんだなんだ?」
  ミラン、ヘッドホンをバッグにしまい、立ち上がって店内へと消える。
  パフェは半分以上残っている。
サラ 「店を出るのか。どうしよ、後を尾けるべき?」
  サラ、カフェのエントランスを凝視。
  数組の客が出入りする。
  その中で、1人の女性が店から出てくる。
  金髪のボブヘア、サングラス、ワイドパンツにタイトなトップス。
  ピンヒールパンプスで、いかにも「ザ・いい女」。
  だが、いつまで経ってもミランは現れない。
サラ 「ん? トイレか? 長くないか?」
  サラ、去っているボブヘアの女性の後ろ姿をぼーっと眺める。
サラ 「あ、バッグ! ミランじゃん!!」
  大きな黒いバッグは、ミランのものだった。
  サラ、急いで後を追いかける。
  そこにスマホに連絡が入る。
  走りながら受信したメッセージを見る。そしてその場に立ち止まる。
メッセージ『1815、渋谷区文楽町教育会館付近でラメア集結発生。かつてない規模との報告。現場付近にいる者、ただちに応援に向かうこと』
サラ 「レオが向かったところだ。かつてない規模って、そんな……。あ!」
  顔を上げると、ミランと思われる女性がタクシーを拾い、去っていくところだった。
サラ 「とにかく今は現場へ行かなきゃ」
  サラ、反対方向へ走り出す。


○走行中のタクシー・外〜中

  ミラン、窓の外を見ている。
  クールビューティなたたずまい。
  無表情。年齢不詳感。
  そこにスマホにメッセージが入る。
  画面を見るミラン。
ミラン 「あ、運転手さん、ごめんなさい。行き先変更しても大丈夫ですか?」
運転手 「(不機嫌そうに)いいですけど」
ミラン 「文楽町のほうへお願いできますか?」
運転手 「文楽町…… え、文楽町! 今規制されてるみたいですよ。例の、ほら、あれが出て」
ミラン 「あ、大丈夫です。行けそうなところまでで」
  手には、小さなボトル。
  中には、カプセルが見える。
  タクシー、走り去る。

(続く)

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