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がんばってください

起業したもののピボットという名の行き当たりばったりな事業転換。
ASP(SaaS)を開発するための資金を受託開発で賄っていたが、仙台では三次受けが精一杯で大口はSIerにおさえられていた。

東京に行こう!
東京に着いた!
ビルばっかり!

「このビルにある無数の窓には会社が入っているんだから仙台より営業は楽勝だ」意味不明ではあるが若いってこわい。

しかし金は無い。
オフィスの家賃も払えない。
というか家も借りれない。

安宿を転々とし、知り合いの会社にスペースを借りれないか打診したら一坪数万円の提示。ものすごい破格で優しさ満載の金額だったろうが「払えない…」。

諦めて帰ろうと思ったら長い内廊下があった。「あの、廊下を貸して貰えないでしょうか?ここにパイプ机と椅子さえあれば仕事できます」と。寒くない?って聞かれたが「東北人なので大丈夫です」ってまたもや意味不明な返答で押し切り貸して貰えた。

寒かった。

でも、パイプ机に卓上カレンダーを置き、即席の東京営業所開設。電話帳の上から順にテレアポした。
社員の皆さんは見かけない若造が廊下でテレアポしているのを見て奇異に思ったに違いない。

今では信じられないが東京に知り合いはこの会社の人だけだった。

毎日テレアポして乗り慣れない電車を乗り継ぎ営業した。ある会社の同世代の方から小さな仕事を頂く。
仙台のインキュベーション施設にいるエンジニアに仕様を伝えて速攻で納品。

早いね!しかもちゃんとしてるし安い。と追加開発の受注。地元じゃ三次受けだったから安いのは当たり前だった。更にその方の紹介で別の受託もゲット。

ストック型の売上じゃないため鮫のように泳ぎ続けないと直ぐに資金が枯渇する。廊下でテレアポ、営業、仕様決め、受注、仙台に持ち帰り開発、納品。
毎日が慌ただしく休む暇もなかった。

ある日、廊下に戻ると卓上カレンダーに付箋が貼ってあった。
「応援してます、がんばってください」
と女性の文字(たぶん)

がんばれた。
めっちゃがんばれた。
つーか超がんばれた。

サッカー選手がサポーターの応援で、疲れててももう一歩前へ走れたと感想を述べたりするが、僕はこれだけで1万歩は進めた。

この日のテレアポは冴えわたる。
「今宵の斬鉄剣は一味ちがうぜ!」
と五右衛門ばりに斬れた。

どなたかはついぞ知れなかった。
何気ない優しさだけの行動だったかもしれないが「がんばってください」の一言は百人力となる言葉である。

あのときのがんばりが今を作っていると思えば、廊下を貸してくれた知人と優しいメッセージをくれた方の期待に少しは応えられたと思っている。

そして今は東京で沢山の友人に囲まれている。

ありがたいとは「有り難い」と書く。

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