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児発・放デイの意思・意見の尊重

児発と放デイにおいて令和6年度報酬改定に伴い制度改正があります。4月1日から運用される制度の中に「意思・意見の尊重」が盛り込まれています。どのように書かれているか見て行きます。

児童発達支援や放課後等デイサービスの運営情報を中心に配信していきます。継続的に情報発信できるよう、ぜひコミュニティにご参加ください。


改正内容

児童福祉法に基づく指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準等(指定通所支援基準 / 通称 指定基準)の一部を改正

意思・意見の尊重に関わるのは主に3箇所です。
(個別支援計画で2箇所出てきて実際は4箇所あります。)

指定児童発達支援事業者は、障害児が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、障害児及び通所給付決定保護者の意思をできる限り尊重するための配慮をしなければならない。

新指定通所支援基準 事業所の方針

児童発達支援管理責任者は、業務を行うに当たっては、障害児が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、障害児及び通所給付決定保護者の意思をできる限り尊重するよう努めなければならない。

新指定通所支援基準 児童発達支援管理責任者の責務

児童発達支援管理責任者は、児童発達支援計画の作成に当たっては、適切な方法により、障害児について、その有する能力、その置かれている環境及び日常生活全般の状況等の評価を通じて通所給付決定保護者及び障害児の希望する生活並びに課題等の把握(以下この条において「アセスメント」という。)を行うとともに、障害児の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう障害児の発達を支援する上での適切な支援内容の検討をしなければならない。

新指定通所支援基準 個別支援計画の原案作成

児童発達支援管理責任者は、児童発達支援計画の作成に当たっては、障害児の意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮される体制を確保した上で、障害児に対する指定児童発達支援の提供に当たる担当者等を招集して行う会議(テレビ電話装置その他の情報通信機器(以下「テレビ電話装置等」という。)を活用して行うことができるものとする。)を開催し、児童発達支援計画の原案について意見を求めるものとする。

新指定通所支援基準 個別支援計画の担当者会議

事業所の方針と児発管の責務は似ていて、「意思をできる限り尊重」することが求められており、事業所としては配慮し、児発管は努めることになります。

個別支援計画では、「意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう」と書かれています。

気づいた方もおられると思いますが、事業所方針と児発管は「意思」を尊重し、個別支援計画では「意見」を尊重することが求められています。
さらに、個別支援計画では、「最善の利益」が求められています。

意思・意見

意思は、「何をしたいか、したくないか」という動機や希望で、その人の目的や目標を反映した行動につながる言葉です。

意見は、「何についてどう思うか」という考えや見解で、個人の立場を示す言葉です。

詳しく考えていくと、いろいろな意見や考えのある言葉ですが、ざっくりと考えるとこうになります。

利用児と保護者の意思

意思をできる限り尊重することは、利用児や本人の希望を尊重した上で支援を行うことになります。

利用児と保護者の意思の尊重

利用児と保護者がどのようにしたいかを尊重し、どのような支援ができるかを考えように努めるのが児発管で、実現できるように配慮するのが事業所となります。
(※ 図では保護者を通して児発管へ意思表示ですが、利用児から児発管への意思表示もあります。)

このnoteを読んでいただける方ですとないと思いますが、事業所の方針や児発管の考えを利用児や保護者へ先に押しつけ、意思にそぐわない支援をしてしまうことがあります。「尊重」を意識し、すべての意思にそう必要はないですが、適切な支援のなかで希望を取り入れられないか検討することが大切です。

今回、指定基準に意思の尊重が盛り込まれたことはとても大切であり、障害福祉サービス全体として「意思決定支援ガイドライン」に基づき、利用者の意思を尊重することを明記しました。大人のサービスでは、意思決定支援がすべてのサービスで盛り込まれました。

利用児の意見表明と最善の利益

個別支援計画の作成では、利用児の意見を尊重最善の利益が優先して考慮されることが求められています。その結果として、心身ともに健やかに育成されることが期待されます。

利用児の意見の尊重と最善の利益

個別支援計画の作成にあたっては、利用児の意見表明と児発管の間に、保護者は入っていません
そして、年齢や発達の程度に応じて聞くことになり、小さい子どもや知的障害などにより自分で意見表明が難しい場合は、試みる必要はありますが、できないこともあります。利用児の意見をまったく聞かないのは論外です。

意見の尊重と最善の利益の優先考慮は、同じ言葉が「こども基本法」の基本理念第3条に出てきます。そして、「児童の権利に関する条約」の4原則、「差別の禁止」、「生命、生存及び発達に対する権利」、「児童の意見の尊重」、「児童の最善の利益」がベースになっています。
意見の尊重などは、子どもの権利からきている、大切な条文となっています。

キーワードとして、意見形成支援・意見表明支援・アドボカシーがあります。子どもの権利として意見表明権があり、子どもの意見表明権を保障する仕組みを作るなかで、子どもの意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮されるための方策が必要と考えられています。保護者を通してではなく、子ども自身が意見表明することが重要です。

ここで大切なこととして、表明された意見はすべて反映しなければいけないのか。意見を聞き、尊重した上で最善の利益は何かを考えた上で、聞き入れない、反映させないという判断もありえます。
こども家庭庁の、こども基本法の説明資料を引用してみます。

「最善の利益の優先考慮」とは、「こどもの人生にとって最も善いことは何か」を考慮することです。こどもの意見がその年齢及び発達の程度に応じて尊重すべきものと認められる場合であっても、別の考慮要素と比較衡量して合理的に判断した結果、こどもにとって最善とは言い難いと認められる場合には、こどもの意見とは異なる結論が導かれることはあり得ます

こども家庭庁 こども基本法説明資料

子どもの意見とは異なる結論になることはありますが、意見表明できる利用児であればなぜ異なる結論になったかを話し、理解いただくよう努める必要があると思われます。もちろん無理な場合もあります。(対象年齢が0~18歳ですので、範囲が広くご理解ください。)

意思と意見の尊重

意思と意見の尊重を考えてきましたが、もう少し深掘りしたいと思います。
(疲れてきていたらこの章は飛ばして次の「記録をどうするか」へ行っていただくと良いと思います。)

意思と意見について、大人と子どもの違いを考えたことはありますでしょうか。
大人も子どもも、自己選択権・自己決定権があり、自身のことは自分で選ぶことができます。建前です。
実際は、子どもの自己選択を保護者が支援するとともに、責任においても保護者が負う形になっています。

まず大人の意思・意見による自己選択権を考えてみます。
意思決定支援が必要かは状態によりますが、自己決定または意思決定に至った内容は、強く尊重されます。意思決定支援とかの話をし始めると長いので割愛します。
強く尊重されますというのは、決定に至るまでは最善の利益を考え周りもサポートしますが、自己決定等されたあとは愚行権を含め自己責任という名のもと権利として止めることは基本できません。支援も、本人の決定に沿うことが基本とされます。やってみた上で、ダメなら軌道修正をかけていくのが支援者ができることになります。
不利益な支援内容を選択しないためにも、障害者や高齢者の意思決定支援はとても大切なプロセスになることがあります。

子どもの意思・意見はどうでしょうか?
これまで見てきたとおり、意見表明は子どもの権利として大切にされますが、表明しても決定権はなく、受け取った大人が最善の利益かを判断することになります。(愚行権が多くの場合に認められないので、子どもがやりたいと主張して、やって失敗してみるという大切なプロセスを踏めないことがあります。)

本来は、契約者である保護者から伝えられる意思は、非常に重いものであり、優先して考慮されなければならない意思になります。実際は、自己決定されても、実施するのは他者である事業所や支援者であり、利用も利用児のため、愚行権とか認めずらいですし、意思を受け取った後に最善の利益は検討されるべきです。あとはバランスしだいと曖昧な言葉になります。

ここで大切なのは、個別支援計画においては、利用児が直接児発管へ意見表明を求められることです。個別支援計画は、あくまでも利用児自身の支援であり自己決定する権利を有していると考えられます。
そして、子どもの権利として意見表明が大切にされる大きな点として、保護者等から虐待を受けていたりしていると、常に最善の利益が確保されるとは限らないことです。
利用児が、自分の支援について、主体的に関わり、意見を表明できる機会を確保して子どもの権利を守ることは大切です。

利用児の権利を大切にし、意見を尊重した上で個別支援計画が検討されていくことは、利用児が自分自身の選択で未来をつかみ取っていく一歩にもなります。支援者はいかに利用児の利益を最大化し、幸せになってもらえるかですので、ぜひ子どもの権利が明確に条文に記載されたことを気に留めていただき、より良い支援を利用児と保護者とともに模索していただければと思います。

記録をどうするか

支援者が絶対に忘れてはいけないこととして、記録があります。
法令(指定基準)で決められた内容は、記録を取り監査などで実施されたことを確認できることが求められます。

事業所の方針と児発管の責務

利用児や保護者から意思が伝えられたすべてと、対応を記録しておくことが望ましいです。

難しいことは求められておらず、面談記録・支援記録・連絡帳などそれぞれで記録し保管していればまずは良いと思います。送迎時に直接処遇職員に意思を伝えられることがありますが、ご意見をもらったらすべて支援記録に書いてくださいとしておけば良いと思います。

理想は、利用児や保護者の意思が一覧でき、対応したかできなかったかわかる別紙が欲しいところです。データベース運用していれば登録していくだけでいいのですが、障害福祉サービスではなかなかないので、手書きかExcelでの書き出しあたりになると思います。実際は手間なのでオススメしないです。

個別支援計画

利用児の意見表明ですが、原案に「利用児に意見を聞いた日時、場所、コミュニケーション手段、意見内容又は無し」と、最善の利益を考えたうえで「意見と相対となる支援内容」を記載すると良いと思います。意見が無い場合でも、日ごろの行動から最善の利益を考えた支援の案を書き込むと良いです。(原案に利用児の意見と支援という項目を作っておくと良いと思います。)

担当者会議ですが、障害児の意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮される体制を確保とありますので議論する状況を作りと解釈できますので、議事録に議題として利用児の意見と最善の利益とはなにかを議論した項目が必要と考えられます。これは、利用児の意見が無い場合であっても、議論は重要で本人の日ごろの行動などから推定される意見を検討することが望ましいです。
担当者会議の議事録は個別支援計画作成に関わる記録として保管しているはずですので、議事録に残っていれば大丈夫と思われます。

最終版の個別支援計画書に、利用児の意見という項目は要らないと考えられます。(個人的には、意見を保護者などから保護する意味でも記載しない方が良いとも考えます。)支援内容に内包される形で反映され、個別支援計画書の内容全体として利用児の意見が尊重され最善の利益が確保されることが望ましいです。

利用児と保護者を大切に

これまでも、これからも、利用児と保護者は大切に支援される存在です。

ただ、現実はそうでもない事業所をよく耳にします。
希望したことをないがしろにされた、選択肢がないので契約したが事業所の方針が合わない。いろいろな理由はあると思いますが、小さな不満をよく見かける気がします。そして障害福祉サービスへの不信感へつながっている気もします。

もちろん、お客様は神様ではないので、契約者がすべてとは言いませんが、意思の尊重が指定基準に盛り込まれたことは大きな意義があると考えています。
希望したことを理由もなくやってくれない、結果として不満がたまりトラブルへ発展することよくあります。これが、こども家庭庁や指定権者に苦情が行くと、これまでは支援内容については事業所に意見しにくかったのですが、これからは利用児と保護者の意思を尊重していないとして指導することができるようになります。これはとても大きな変化です。

意思・意見の尊重をしていないため減算しますとはならないでしょう。言ってしまえば監督官庁のお気持ち表明とも考えられますが、それだけ障害者・障害児の意思決定支援や、子どもの権利である意見形成・意見表明が重要ということです。

利用児・保護者の意思・意見はとても大切です。ぜひこれからも、利用児・保護者の最善の利益と未来のために、より良い支援をして行ってください。


参考図書

中央法規さんの「図解でわかる意思決定支援と成年後見制度」がオススメです。
成人後見制度と書いてあるとおり、大人のサービス向けの本です。
このページの対象は子どもですし、意見表明権について書かれていて、児童福祉などの書籍が良さそうですが、障害福祉サービスとしてみたときに入門書はほぼないです。
子どもの意思をうまく反映させ、子どもの権利を守るためのノウハウ本がないと言うことでもあります。
この本は、意思決定支援の基本である人権や自己決定の考え方から、福祉制度、支援のキーワードまで広くサポートしている本で、支援者が最初に出会うと読みやすくてとても良い本です。

もう一冊は子どもの意見表明権についてです。
児相を中心にされているため、子どもの意見表明を逃せない環境を想定されているので、すごく詳しく書かれていますが、けっこう受け止めるのも大変かも知れません。子どもの意見表明権について書かれた貴重な書籍の一冊です。(現時点では4冊ほどしかありません。)

日本加除出版
子どもの意見表明権の理論と実務とこれから
児童相談所業務を中心に


長い記事をお読みいただきありがとうございました。
報酬改定までもう少しですし、制度改正でどう変わるか悩んでいる方が多いかと思いますが、少しでもお役に立てれば幸いです。

今後も、児発・放デイの運営に関わる情報を配信していきますので、ぜひコミュニティを継続いただき支援いただけると幸いです。
ありがとうございました。

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