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フライフィッシング犬  レビーといた渓Ⅲ

3月頭から、9月末までの七か月間の毎週末、フライフィッシング犬は釣りに出かける。
大型台風でも来ない限り、冠婚葬祭が無い限り、相棒に突然仕事が飛び込んでこない限り、渓から渓へと渡り歩く。

水の中は最高だぜえ
夏はこれに限る


そのせいで、車の中はいつも毛だらけで、シートは濡れていて、駐車している間、夏の太陽が車内を高温に蒸らすので、常にドブくさい。
黒い服を着ると、あっという間に毛だらけになっていることに気付く。
後ろのドアは、窓から顔を出して、よだれをたらし放題なので、塗装が痛み拭いてもとれなくなっている。

さあ帰ろうか
腹が減ったぜ


街では雪が消えるころ、渓を埋め尽くした雪の下で、岩魚が目を覚ます。
渓の雪が消えるころ、薄い緑に包まれ山が突然、咆哮するように、身震いするように、爆風が吹き荒れる。いよいよ本格的な釣りの時期到来だ。
山に入ると、レビーは時々姿を消す。何をしているのか謎だ。
渓を釣りあがり、さあ帰ろうかとつぶやくと、レビーは先頭になり、一目散に下山する。初めてなのに、迷うことなく車へと向かう。
ときどき詩型を消すのは、下山道の下見、まさかと思うが、見事なコースを選んで下る。
だが、レビーにも弱点がある。

オイオイ どこへ行くんだよ
深けえぞここは


沢を横切る倒木を歩けない。
倒木を通れば直ぐに対岸の林道に出れるが、すごい遠回りして沢を渉る。
先に渡ると、困った顔で見つめ、最後は泣き落としだ。戻るしかない。
岩魚や山女魚も多いが、熊も多い。

ここは大物がいるんだけど
大丈夫かあその毛鉤で


夏場の親子連れとか、秋の食事中の熊には会いたくない。
山では秋の気配が濃厚になり、山栗が袋一杯取れるころ、釣りは終わる。
やがて雪が降り続くと、薪ストーブの前で、一日中寝ているようになる。

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