春休みの宿題の答え合わせその2

【毎週火曜更新・時間堂、年商1億プロジェクト29】時間堂プロデューサー大森晴香です。ごきげんよう。時間堂シリーズ発掘02『ゾーヤ・ペーリツのアパート』チケット発売しました。ひゅーひゅーぱふぱふっ。

この「チケット発売」とか「一般予約開始」というのが制作にとってはひとつのでっかい「やま」で、これを乗り越えたあたりからやることの質や体制が変わる時期だと思っています。

私がやってるプロデュースとか制作と呼ばれる仕事は、創作とは仕事の「やま」が違う時期にやってきます。時間堂は比較的稽古に時間をかける方だと思いますが、それでも本格的な稽古が始まるのはだいたい公演の2か月前です。これにたいして制作は、稽古開始にこぎつけるまでに幾多のやまをすでに越えています。俳優が制作を兼任している劇団があったりするのは、この「やま」のずれをうまく利用しているケースだと言えるでしょう。実際、時間堂でも広報を黒澤とヒザイ、グッズ開発を尾崎、チラシの校正は全員、などのように私以外の劇団員も制作の仕事を担っているのですが、そろそろ創作にパワーシフトしていきたい、という時期がちょうどいまくらいの「本格的な稽古が始まって、チケット予約が開始した」タイミングです。別の言い方をすると、この時期までに制作に関わっている創作メンバーの仕事がどのくらい進んでいて、どのくらい制作チームにバトンタッチができているか、が作品にも興行にも影響すると思っています。今回の公演はまだだいぶ創作メンバーに制作ごとを残しているのが喫緊の課題、というところです。

さて。

前回、「春休みの宿題の答え合わせその1」では、「売れ行きの波」の第0波にあたる先行予約についてを書きました。今回は、第二波・第三波を前倒すための手立てについてポイントじゃないかと思ったことを書いてみようと思います。

ちなみに「第一波:発売開始直後(ファン)」については「公演があることをしっかり伝える」がなによりも大事だと思っています。よく私はいろんな現場で「あなたを知っている人の中に公演があることを知らない人をゼロにしてください」という言い方をするのですけど、伝える内容や伝え方もさることながら「知らせる」ことがとにかく大事(この内容とか伝え方について私なりの考えはまた来週あたりに書こうと思います)。

で、「第二波:劇場入り前後(マジョリティ)」「第三波:初日が開けてから(クチコミで判断するひとびと)」をいかにして動かすか、に戻ると。

「第一波(ファン)」に対するアプローチが「あなたの心に直接話しかけています…」的なプライベート感とかスペシャル感が響くように思うのに対し、マジョリティや口コミで判断する人々を動かすのはどちらかというと「話題性」とか「ニュース性」、つまり、「いかに注目の公演であると認知されるか」というマスのアプローチなんじゃないか、という話です。

「マジョリティ」を具体化する

とはいえ、です。ひとくちに「マジョリティ」と言っても漠然と「すべてのひと」という定義だとぼやけます。そりゃすべてのひとに観てほしいと思ってますし、誰にだってオススメできる作品をつくってる自負はありますが。私は前職の営業時代、セールスの基本として「WHO・WHAT・HOW」を叩き込んでもらいました。そもそも「誰に観てもらいたいのか」という話で、ぼんやり「みんな」と考えていると、「推しポイント(WHAT)」もぼやけるし、「どんな手段でどんなふうに宣伝するのか(HOW)」も誰にでも通用するようでいて誰にも響かない、なんてことになりかねません。丸の内のOLに観てもらいたいのと、時間とお金に余裕のあるアクティブシニアに観てもらいたいのとでは、アピールする言葉も伝えるための手段も変わるでしょ?みたいな話です。もちろん「WHAT」を起点に考える、つまり「この作品の特徴からすると誰が興味持ちそうかな」という順番もアリですし、たまには「HOW」から考える、たとえば「この媒体に載せることでこういう層に働きかけることができて、このひとたちはこういうことが好きそうだ」ってやりかたもあります。が、順番はなんであれ、「誰」が明確に定義できるかどうかで打つ手が変わるのだ、ということがわたしゃ言いたいのです。

そして「誰」は単一集団である必要はなくて、何種類かあっていい、むしろ複数あった方がいい、と思います。同じ作品であっても、「演劇を勉強中の若い俳優」と「余暇に文化的な楽しみを探しているアクティブシニア」と「一流の仕事に関心が高い第一線で活躍する現役ばりばり30~40代」に観てもらうことは可能で、それぞれに対しての売り文句とアプローチ方法を変える必要がある、という感じですね。

話題性を演出する

とある先輩制作者が「なんかやってる感」と表現してらしたのですが、いいえて妙だと思います。「なんかやってる感」、つまり「なんかおもしろいことをやりそうだからチェックしておこう」という気持ちを誘発する空気を作ること。これをやるときにパワーを発揮するのが「主催者以外の情報源からの発信」、つまりマスコミや口コミによる情報拡散なんじゃないかと。時間堂以外のメディアやひとが時間堂のことをニュースにしている、という状態。

この状態を生み出すひとつはいわゆるメディア営業で、ニュース配信している雑誌・ウェブ・新聞などに公演案内を送る、そして送った後のフォローをする、という活動だと思います。ちょうど一昨日、時間堂のブログに[随時更新]『ゾーヤ・ペーリツのアパート』メディア掲載情報という記事をアップしてもらったのですけど、案内を送るだけで載せてもらえるところもあれば直接会いに行くことで取り上げ方がグレードアップするところもありました。もちろん、連絡したところ全部が取り上げてくれるわけじゃないし、私みたいな小心者は電話営業が超絶緊張するんですけど(ほんとだよ)、意外と好意的に話を聞いてもらえるもんだなぁ、というのがやってみた実感です。メディア側もニュースを探しているわけだし、もし私たちの公演が魅力的であったなら、掲載することで読者獲得につながるわけですから、無下にされることは滅多にありません。

もうひとつ、口コミを引き起こすために「なんかおもしろいことやってるぞ」、と目を引く情報がパワフルだと思っています。そして一見奇想天外に思えることの方が、話題にはなりやすいです。昔、時間堂の黒澤世莉が『テヘランでロリータを読む』上演にあたってのイラン取材がしたい、と言い出して、費用捻出のためにクラウドファンディングをやったんですけど、そのときに「お金ちょうだいダンス」を自ら踊った動画を公開した、という伝説がありまして、そういうおもしろは瞬く間に拡散します。かつては「AIDMA」だったけど、いまは「SIPS」だとはこれまた先輩制作からの聞きかじりなんですが、つまり現代の消費者は注意をひかれて興味を持って…というプロセスではなくて、「共感(Sympathy)」して「確認(Identify)」した次には「参加(Participate)」と「拡散・共有(Spread / Share)」という行動をとるわけですよ。ひとりひとりが自分のメディアを持っていて、拡散・共有をタッチひとつでできちゃう世の中なわけです。したがって、「いいね」や「リツィート」を気軽にしたくなるような情報を発信することが効果的だと言えます。

客観性を担保する

そしてもうひとつ。「客観性が担保されている」ことがカギになると思います。

実は今、セゾン文化財団とブリティッシュカウンシルが共同開発した英語ワークショップに通っていて、先週の内容に「自分のパフォーマンスについて誰かに紹介する」ためのフレーズが出てきたんですね。たとえば私が時間堂の作品について「アメージングでオリジナルでエキサイティングでワンダフルです」とか言っても、ある意味うぬぼれというか、あまりいい伝え方ではなくって、「観に来てくれたひとは…と言ってました」とか「批評家には…と評されました」とか「誰々のパフォーマンスは…という評価を得ました」といった客観的事実らしく話す方が効果的である、という話が出ました。で、その話を聞いてからステージナタリーエントレというふたつのメディアの記事を読んでみて、ははぁ、こういうことか、と思ったわけです。

どちらも時間堂が作ったプレスリリースやお会いしてお伝えしたこと、私が送った原稿などをもとに、「記者」というプロが記事に仕上げてくださっています。情報の順番や文末表現などに技術が光るなぁと思って、さすが、と唸っちゃいました。気になるあなたは記事を読んでみてね。どちらもすっきり過不足なくまとめてくださってるのでさくっと読めますよ。

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春休みの宿題への答えはまだまだ続きそうな予感です。今日は端折った第一波についてもいろいろ思うところはあって、ちょっと前にTwitterで流れてきた「最近の若者は直接販売が弱い」みたいな話に対する持論も書いてみたかったりするのだけど、今日はここまでにしようと思います。

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ところでここまで『ゾーヤ・ペーリツのアパート』のことばっかり書いてますけど、実は来週、別の公演があったりします。なかなか同時平行でいくつもの事業を動かすって難しくて、特に広報活動が追い付かない。悩み。ときどき稽古を横目に見ながら仕事してるんですけど、面白くってついつい耳をそばだててしまってる作品です。

時間堂レパートリーシアター【2016.6】『玄朴と長英』他
2016年6月17日(金)・18日(土)

岩尾さんと西本さんは時間堂ワークショップの常連さんで、ワークショップでよく言ってるようなことがどう作品づくりにつながるのかを観るのにうってつけな公演だと思います。黒澤世莉のワークショップを受けたことのある人や、俳優育成に関心がある人、舞台上で深呼吸できる演劇ってどんなん?と興味もっちゃったあなたにオススメ。あと、『ゾーヤ・ペーリツのアパート』のチケットも売ってまして、黒澤世莉ってひとの演出が気に入ったら『ゾヤペ』も観ようかしら、なんてかたにもオススメします。なんせゾヤペの半額以下で観られますからね、本格的な演劇を。

『ゾーヤ・ペーリツのアパート』に興味はわいたけど、4,500円で2時間45分をいきなり買うのは勇気がいるなぁ…てかたには、以下のふたつがありますよ。

【ゾヤペを10倍楽しむ方法③】「ワーク・イン・プログレス」で稽古場に潜入!
【ゾヤペを10倍楽しむ方法⑤】7/9土どくんご『愛より速く』にゾヤペが乱入!

稽古がそのまま観られるワークインプログレスと、ゾヤペの1シーンをどくんごのテント公演の中で観られちゃう『愛より速く』、どっちもお試しにしては刺激が強いかもしれないくらいに充実の内容でお送りする予定です。お楽しみに。

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ひゃー、これを書くのに2時間半!椅子が身体にやさしいやつでよかった!東京芸術劇場の椅子は適度にふかふかで、きっと2時間45分、あなたのおしりをやさしくサポートしてくれることでしょう。。。

ではまた。ごきげんよう。

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