作品が大きいってそもそもどういうことなのよ(実話Part3)

【毎週火曜更新・時間堂、年商1億プロジェクト33】時間堂プロデューサー大森晴香です。ごきげんよう。

連載1周年だよおめでとう私っ

…というわけで、お蔭さまでまるまる1年です。むらっけのある更新にも拘らず、どうにかこうにか続けてこられたのは、皆さんからの「読んだよ」ってお声がけやスキ、シェアなどのリアクションがあったからです。まじで。ありがとうございます。

スキの反対は無関心だなんて言われ古した言葉ですけど、書いても書いてもなんの反応もかえってこなかったら、もっと早くに心折れていたに違いありません。本当にありがとうございます。

さて。

1年経ったし、時間堂は年末までなのに時間堂年商1億と書き続けるのもなんだかなーなので、来月あたりから新しいマガジンを書こうかなーと思います。目標が変わればタイトルも変わる。という論理。

でもゾーヤのふりかえりが終わらないのでもう少しだけお付き合いくださいまし。大きくなっちゃってあらたいへん、という実話シリーズの第3弾です。

①劇場が大きくなるとたいへん!はこちら
②座組(関わるメンバー)が大きいとたいへん!はこちら

③作品が大きかった、て、そもそもどういうことだ

「作品が大きい」って抽象的なので、ここでの定義を先に。もともとは「日本初演のロシア演劇」、つまり参考になる上演履歴がなくて想像力が必要、という意味で書いていたのですけど、創作面で「休憩込で2時間45分の長時間」「歌や踊りや演奏あり」「出演人数が多い」という側面も追加して書きます。創作面のことは切り離して書こうかと思ったんですけど、作品の性質がプロデュースに与えた影響も甚大でしたのでそのあたりを含めて。

■「日本初演のロシア演劇」は大変っ

「日本で知られざる世界の名作を掘り出そう」というのがシリーズ発掘なので当たり前なのですが、シリーズ発掘で取り上げる作品は日本に上演記録がありません。しかも文化も歴史も違う、作品成立の背景を知らないところからのスタート。ということは、どんな上演になるのかまったく想像の域を超えないわけです。たとえば戯曲を読んだ段階で、私はここまで音楽劇になるとは思っていませんでした。たしかに台本の指定で音楽の話がちらほら出てくるなーとは思っていました。踊りもこんなにふんだんに含まれると思っていなかった。捜査官があんなに世界を支配するとも読み取れなかった。稽古を重ね、勉強会を開き、時間をかけてあの上演が生まれたわけなので。

そうなると、何が大変って予算・人事・広報・スケジュールすべて影響を受けます。このふりかえりを始めたときは「作品理解・広報・予算」の3点しか思い当っていませんでしたが、「作品理解」を具体化したらもっと制作的な話になりました。予算・人事・広報・スケジュールって、どれもプロジェクトが走り出したときには動き始めていることで、走りながら修正することになります。これが超超たいへんっ。そもそも上演許可を得るところから日本初演=前例がありませんから、上演が確定するまでにもドラマがあったりして、踏むべきプロセスが多かったり複雑だったりするのも「日本初演の海外戯曲」ならではでした。

■上演時間が長いと大変っ

上演時間が長いと俳優やテクニカルスタッフがたいへん、というのは想像がつきやすいと思うのですけど、実は思いのほか制作陣もたいへんでした。それはただ劇場滞在時間が延びて体力的に大変だ、というだけではなくて。

毎日が退館時間とのたたかい。昼公演と夜公演の間も当然短い。上演中がもっとまったりできるかと思ったのですけど、そうでもありませんでしたね…。通し稽古を観るにも3時間コースで、その間は業務がいっさい止まるわけで。だから長い作品をやりたくない、とは思わないのですけど、長いときこそ入念な準備をして効率よく動く・指示を出すということが肝だなぁと思いました。現場でじたばたしても時間が止まらないわけですからね。。。

■歌や踊り、演奏があるって大変っ

作品に要素が多いということは、前回書いた座組が大きくなって大変ということに加えて単純に稽古が大変になります。時間堂は稽古期間が長いと言われる(今回は5月末から約2ヶ月、最初は週3回8時間から直前は週6回に増えました)のですけど、それでもいくら時間があっても足らない感じ。それは創作チームだけが大変なのかっていうと制作チームにも少なからず影響があります。一番顕著だったのは稽古場探しと予算への影響。時間堂には十色庵があるけれど、本番直前は本番と同じ広さ(実寸といいます)の空間で稽古したいわけです。ところがどっこい、「演奏不可」な稽古場の多いこと!「演奏可」にすると途端に高くなったり狭くなったり。加えて十分な稽古時間をとるにはそれだけ十色庵はほかの活動に使えなくなります。つまり、お金を産まなくなります。自前の稽古場はタダだと思ったら大間違いで、いつなんどきでも家賃はかかるし光熱費だってかかります。助成金の使途に自分たちで管理運営する稽古場の費用は対象外にされているのが私は残念でなりません。理屈はわかるけど、大変なのは大変なのだ。

そんなわけで、要素の多い作品をやるっていうことは、プロデュースサイドにも影響大です。

■長いうえにもりだくさん、出演者も多いって大変っ

先般、劇団でのふりかえりで「劇場入りしてからのスケジュールが過密すぎて、怪我人が出なくて本当によかった」という話が出ました。時間堂は今まで、ほぼ素舞台(舞台美術ナシ)でシンプルなストレートプレイ(歌・踊り・演奏などのナシ)を多くやってきました。劇場入りした当日夜から本番、といういわゆる「のりうち」だってできちゃうくらいです。その最たるものが2012年にツアーで回った『ローザ』でした。1台のハイエースで2週間で5か所の公演地を回って、次々変わる環境にどんどん順応する演出・俳優に舌を巻いたのが、私のプロデューサーデビュー戦だったわけです。

『ローザ』と『ゾーヤ』では上演時間は1.7倍、出演者数は4.8倍、歌も踊りも演奏も衣裳の着替えもヘアメイクもなかったものが増えていました。漠然と「規模が全然違うから時間はかかるだろう」という予測はして計画はしたし、劇場を借りるスケジュールだって創作者と制作者の合議で決めたわけだけど、それでもここまでぱつんぱつんになることを想定できていたかと言われたらできていなかったと思います。怪我人がでなかったのは本当にラッキーと俳優やスタッフの準備・鍛錬の賜物であったのだと肝に銘じて、この経験を忘れないようにしたいと思います。そして劇場入りしてからのスケジュールの話は一例でしかなくて、万事がこの調子でした。

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ここからは告知やで。

今週末

9/10土~12月 時間堂レパートリーシアター【2016.9】『驟雨』

毎日2ステージ、岸田國士やってます。7月はロシアンアバンギャルドで歌って踊って生演奏もありましたが、9月は3人の俳優、以上、みたいな作品です。新婚旅行でだんなと喧嘩した妹が、お姉ちゃんちに泣きつくお話です。妹のことを心配してるつもりで全然自分のこと考えてる義兄さんとお姉ちゃんがもはやコントです。

私はこの話、今ではあるあるなおもしろさを感じて大好きなんですけど、10代の頃はおもしろさがよくわからなかった。退屈で、お上品ぶってて、こむずかしいのだけど、おもしろさがわからないなんて言ったら自分の理解度が低いと思われるんじゃないかという謎のプライドで好きなふりをしていました。若かったなー。チェーホフもそうなんですけど、戯曲で読み物として読んでただけだとそのおもしろさはよくわかんなくて、上演されて初めて喜劇だとわかる、という演劇だと私は理解しています。チェーホフを18歳で初めて読んだ時なんかどこが喜劇だよ、って本気で思ってましたからねぇ。今ではすっかりげらげらになって、それは私が成長したとか読解力がついたとかではなくて、いい上演を観たからです。

時間堂の『驟雨』も、初演ですでにおなかよじれてましたので、安心して笑いに来てください。

10月は『言祝ぎ』、12月は『ローザ』です。こないだツイッターでも書いたんですけどね、「解散しちゃうし『ローザ』だけ観よ♪」って思っているかた、結構いらっしゃると思っています。いや、ひとつだって観に来てもらえるのはありがたいし、ひとつで充分ご満足いただける作品を毎回つくってますですよ。でもね、たぶん、複数の作品を観ることで時間堂って何だったんだ?ってのがちょっと見えたりして、ひとつ観ただけでは見えないところまで視えちゃうようになって、結果、お得だと思う。受ける衝撃も3倍じゃなく10倍くらいになるんじゃないかな(控えめに書いてます)。

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明日は制作カフェ@十色庵です。あ、明日じゃないや今日だ。はー緊張する。

その前に、名古屋演劇アーカイブの制作者リレーブログに私の記事を載せていただきました。新着記事で私のお顔をクリックだ。たくさん読んでもらえたらうれしいなぁ。

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