劇場が大きくなると何が大変なのかというお話(実話)

【毎週火曜更新・時間堂、年商1億プロジェクト31】時間堂プロデューサー大森晴香です。ごきげんよう。火曜日に書いてるよ。前回のノートで「たいへんだったなぁぁ」とざっくりまとめた時間堂シリーズ発掘02『ゾーヤ・ペーリツのアパート』について、もうちょっと深く振り返りますよの第1回です。

前回の時点で、大きくなったことをまとめてみました。

①劇場が大きくなった(前回は100名キャパ→今回は200名キャパ)
②座組が大きかった(座組とは、公演に関わるメンバーのこと)
③作品が大きかった(日本初演の長編ロシア演劇だった)
④グッズ点数・内容が大きかった(初めて販売パンフレットを作ったり)
⑤関連企画の規模が大きかった(回数・種類・コラボ相手など)

それぞれの「大きい」は何に影響したのかという書き換えも。

①劇場が大きくなった→広報・票券・お客さま対応
②座組が大きかった→連絡連携・マネジメント
③作品が大きかった→作品理解・広報・予算
④グッズ点数・内容が大きかった→グッズ企画・グッズのプロマネ
⑤関連企画の規模が大きかった→企画・連携・広報

てなわけで、今回は「①劇場が大きくなった→広報・票券・お客さま対応」について深掘ります。

①劇場が大きくなった→広報・票券・お客さま対応

私が加入して以来の東京公演会場を振り返ってみると、王子スタジオ1、ミニシアター1010、シアター風姿花伝、十色庵と、いずれも最大収容人数100名未満です(地域公演では広い場所を使うこともありますが、集客力からして結局1ステージ100名未満です)。東京芸術劇場シアターウエストは、といえば。

最大216名。どどん。

註:時間堂は張り出し舞台(客席の中に舞台が突き出る形にして使うこと)を使った分、客席数が減っています。これでも、減っています。。。

一気に2倍以上の大きさになりました。会場が大きくなると、公演企画の枠組みが今までのままでは通用しなくなります。

■客席数が多い→公演期間が短くなる

お客さんを数で考えるのは個人的には好みではないんですけど、戦略考えるには避けて通れないので数字でも考えます。企画当時、私は時間堂の動員力を東京公演だけだったら850~900で見ていました。劇団員個々のお客さまが300、客演俳優陣のお客さまが300、時間堂のお客さまと一般のお客さま、ご招待を合わせて300、と。ざっくり。

ということは、ですよ。今までのような10ステージ以上の公演を実施するとどうなるか。

会場の半分は空席。

おおおおそろしい。。。

では、何回公演が妥当なのか。実際の客席数は、お客様が座れない席を除くと1ステージあたり200席くらいでした。これが8割平均でお客さまが入るのが理想だと仮定すると1ステージ160席。これまでの実力が900名様なら、今回は1,000名様を目指す、として、1,000÷160=6.25です。これが、今回の6ステージという短期集中スケジュールにつながりました。

■公演期間が短くなる→広報戦術が変わる

以前の記事で、「公演直前あるいは初日明けないと予約が伸びない!」という積年の悩みを吐露した私ですが、今回の公演ではそうもいってらんないぜーという壁にぶちあたったわけです。

公演直前ともかく、初日明けてからの伸びは期待できない日程にしちゃいましたね、はい。

自分も含めて、評判とか見てから行こうかしら、となりがちな口コミ全盛の現代です。電通なんか5年も前からSIPSとか言ってるそうです(Sympathize→Identify→Participate→Share & Spreadという消費者行動の略語です。詳しく知りたい方はこちら)。

誰かが感想をSNSに書く→共感する→公演情報を確認する→参加する…って前に終わっちゃうよ!!!!!3日間あっという間!!!!!

単純に、広報活動をすべて1か月以上前に倒したり、今まで封書を送って放置だったマスコミ宛のプレスリリースをフォローしたり(当たり前のことなんだけど、今までは広報期間が短かったり人手が足らなかったりで発送するだけで精一杯でした)。初めてポスターも作り、チラシも今までの1.5倍にあたる6万枚。チケット関係は後述するとして、まーいろいろやりましたわねぇ。しみじみ。

実際にふたを開けてみたら意外と当日券のお客さまも多く(さすが天下の東京芸術劇場さまです。劇場の知名度と立地の良さがなせるワザです)、初日明けてからの伸びというものもあったのですけど。それはラッキーだったというか、最初からアテにして広報したのでは、たぶん、間に合わなかったと思います。

■会場が大きくなる→チケットの仕組みが変わる

まず、指定席にしました。なんでかっていうと、ざっくり理由は2つ。

・当日の混乱を避ける(席が決まっていれば、着席がスムーズになるはず)
・「早く予約した人」ほど好きな席で観られる

特にふたつめは、公演期間が短くなった云々の上述の話にもつながります。自由席というのは「早く予約した人」ではなく「会場に早く着いた人」が優先的に席を選べる仕組みです。予約を早くする理由がありません。「予約順整理番号」を振った自由席券もみかけますが、大概は「客席開場時点」で番号順に並んではいれるという意味であって、たとえば発売初日に予約した1番乗りのAさんが公演当日は開演10分前にしか来られないとしたら、おそらくもう席の選択肢は半減していることでしょう。

次に、先行予約をやってみました。このへんは春休みの宿題の答え合わせその1に詳しいので割愛。

それと、当日精算を前売より高くしました。これ、すんごい賛否別れたんですけどね。一般的な「前売券と当日券の価格差の根拠」は、上述の春休みの宿題の答え合わせその1に書いてますので割愛しますが。ここで掘り下げたいのは「前売と当日精算の価格差の根拠」、違う問題があります。

「当日精算」という言葉は多くの場合、「予約料金で当日受付精算できる」ことを意味していて、予約のない「当日券」の価格ではない、というのが小劇場界のマジョリティです。これを「当日精算は当日券と同じ」としたのが今回でした。

会場が大きくなって、当日精算の行列を作らないための事前決済誘導、ということが理由の一つです。開演1時間前から受付開始したとして、200人が窓口精算した場合、おひとり18秒で受付を完了しなくてはなりません。そして受付開始時間ぴったりから絶え間なくお客様がいらっしゃることなど非現実的ですし、実際は受付から客席に着くまでの時間も必要ですので、無理があります。

もうひとつはドタキャンへのリスクヘッジです。当日精算はドタキャンのリスクに対して無力に近いです。その弱点がクローズアップされたのが京都学生演劇祭2015(その経緯はfringeの「京都学生演劇祭2015」の大量キャンセルを契機に、観客が有利すぎる当日精算の在り方を見直すナカゴー、笑の内閣、時間堂。当日精算から前売への移行が容易になった現在、あともう一歩を踏み出そうに詳しく載っています)でしたが、そもそも手間をかけて事前決済しているひとと当日精算のひとが同一価格だったら誰も事前決済しないよねぇ、とは思っていました。

キャンセル料をいただく団体もあると聞きますが、もしも相手とのコンタクトがとれなくなったら終わり。それなら私は事前決済を奨励して、予約時点でお金を払っていただく方を選びました。事前決済は手間です。どんなに簡便なシステムでも、今のところ当日精算より簡便にはなりません(今のところ、と書いたのは、suicaみたいな仕組みができれば話は違うと思うから)。手間の分安くします、というのが今回の趣旨でした。

…で、ここでもうひとつ意見の分かれる話が出てきます。

じゃぁ顔も名前もわかっている相手だったら、コンタクトが取れなくなることはないんだから当日精算してもいいんじゃないか。

いわゆる関係者扱い、といわれる予約です。架空予約とかするはずもない家族友人知人などは当日精算を認めたほうが、関係者が売りやすいんじゃない、という意見。ごもっとも。私はこの意見にややブレそうになりました。

時間堂は劇団名だけでチケットがばんばん売れる劇団ではありません。出演者やスタッフ、関係諸氏の力を借りなければ到底1,000名さまなどいらっしゃいません。したがって、関係者が売りやすい仕組みであることは、よりたくさんのお客さんにリーチするのに影響する要素だったわけです。来てくれる回を返信してもらえたら予約いれておくよ、で済む当日精算と、決済方法を案内する必要がある事前決済では、まったく状況が違います。このやりかたでの成功体験があれば自信をもって突き進めたのですけど、なにしろ初めての方法で、私の胸算用よりも予約の波は遅かったこともあり、関係者予約だけでも当日精算を認めたら、という提案をもらったときにはぐらんぐらんに揺れました。

でも。

たまたま公演関係者に友達がいて、「今日このあと行けることになったから予約よろしく」って言ったら、それだけで数百円お得になる、ということがあり得るわけです。なんのご縁もないのに来てくださるお客さまも、これまでのご縁で来てくださるお客さまも、同じく大事なお客さまだと思うのです。なのに、この500円の差はなんなのだろうか。私には説明ができません。

今でもこのやり方がベストだったのかは結論は出ていません。時間堂レパートリーシアターでは回数券以外は当日精算にしています。レパートリーシアターは、早くから予約してもらうことも嬉しいのですけど、当日ふらっと来られるカジュアルさも重視しているので、おそらく今後も価格は変えないと思います。チケットの料金体系や採用する仕組みは公演のコンセプトや主催者のお客さまへの姿勢を反映します。一般的にこうだから、とか、過去公演がこうだから、とかだけでは決められない、ということを、今までになく考えた公演でした。

■会場が大きい→お客さま対応の規模も拡大

単純な人数の話だけでなくて、今まで出会ってこなかったお客さまにたくさんお会いできた公演でした。客演の皆さんの人気で増えたお客さまはもちろん、劇場のネームバリューで増えたお客さまもいました。マスコミや劇場、芸能事務所、劇評家の方などのご来場も増えました。お客さまがお客さまを呼んでくださる、ということも増えました。

東京芸術劇場でやる、ということは、圧倒的に安心材料なんだ、と思いました。

ここでやるものなら品質はある程度保証されている。
劇場の設備も整ってる(お尻が痛くなる心配なし)。
駅から近くて有名だから迷子にもならなそう。

メリットばっかりですよ、芸劇でやることは。ひとつ誤算だったのは、喫煙所やお手洗いに劇場外へ出られた方が、休憩後の第二部に間に合わないことがままあったこと。受付で開演前に叫んでも届かないお客さんが何人かはいらしたわけです。とはいえ出るな、というのもへんな話で。休憩を伸ばせばよかったとも思えず。受付に残り時間表示をすればよかったかなぁ。

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話はつきないのですが、今日はこのへんで。ばっちり水曜になっちゃったしね。

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今週末の土曜日、時間堂はまつりです。重大発表もあります。なにかなー。どきどき。演劇で思いっきり遊び倒すよ、夜は宴会だよ、という1日です。明日あたりには「演劇プログラムってなんなのさ」という疑問を払拭するタイムテーブルが出る、予定。

夏だ一番!時間堂まつり

■日程:2016年8月20日(土)
12:00 オープン
13:00 演劇プログラム
17:00 宴会
20:00 終宴

カフェ営業あり/途中入退場可/飛び入り参加歓迎/未就学児歓迎

■会場:十色庵(東京都北区神谷2-48-16カミヤホワイトハウスB1)

■料金:1,000円+投げ銭制
『ゾーヤ・ペーリツのアパート』の半券をご提示くださったかたにはワンドリンクサービスあり(電子チケット・紙チケット・席番入りメールいずれも可)

■予約:こちらから。

いまのところ劇団員のほうがお客さまより断然多くってさみしいよ。ひっくり返るくらいおもしろいものを見せてくれると思うので乞うご期待です。

私はカレーと杏仁豆腐を頑張ります。ピクルスと福神漬けをつけなくては。

ではまた来週。

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