旅の始まりはもうほんのちょっと先。

久しぶりに会えたのだ。少しぐらい期待もするじゃないか。

彼女はそう思いつつ、宿に着いても抱きしめてもくれない彼にやきもきする。

距離の離れた彼。空の旅をしてここまで来た。合流するまで仕事をしていた彼は疲れているだろうし、無理はさせたくない。でも、触れるぐらいしてくれたっていいじゃないか。

そう思いつつ、彼と素面で会うのは初めてで、どう動いて良いかも分からない。

『私、好きってちゃんと言ったよね?』

画面越しに伝えて、会うまでに3週間。
あれは私の妄想だったのかしら
と彼女は疑問を抱く程に困惑していたし、同時に長旅の疲れもあった。

「シャワー浴びていい?俺、仕事で汗ダク。」

そう言う彼に、勿論、と答え、諦めて荷解きをする。

『どうしていいのかわかんないのよねぇ。。。』

お土産を出しながら、彼女はそんなことばかりぐるぐると考えていた。


さっぱりした!と彼はソファに座り、ドギマギしている彼女の心中も知らず紫煙を燻らす。

『タイミングわかんないな…。』

彼も考えあぐねていた。

ソファから床のクッションへと大きな体を移動させると
彼女が今夜の食事の話を始めた。小さな体を隣のクッションに落としながら

「うーん、時間も遅いけどちょっとぐらいは出たいのよね。私、この街はほぼ知らないし。ついでにお水とかそういうものも調達したい。」

「じゃあ、繁華街も近いしぶらっと行こうか。ちょっと摘んで呑もう。」

「いいね!街を見るの好きなのよ。旅の楽しみの一つ。

 けど、その前に」

そう言って彼女は彼の膝に手を伸ばす。そのまま彼に覆いかぶさり顔を近づけた。

やりすぎ!?と思いつつ、止められなかった。
触れたかったのだ。
ずっと。

これまでだって、彼とは身体だけは何度も重ねてきた。距離が離れてから、彼に特別な感覚を持ち始めた。意を決して伝えた時、彼の気持ちを知った。会いに行きたいと打診したのは彼女の方だ。

『今更、子供でもあるまいし、なんなのこの緊張は?』

と混乱する彼女は、彼が同じように思っていたことを知らない。

彼から唇を重ねられたら、もう止まらなかった。

二人してベッドに潜り込み、
二人して何度理由を考えても分からなかった
他の相手とは経験したことのない心地良い空間が顕れる。

今までと違ったことは、彼女が思わず

「愛してる。」

と呟いたこと。

そして、ほんの少しの間を置いて彼が呟いた。

「好き。」

一瞬、彼女は何が起こったのか分からなかった。
理解した時には思わず叫んでいた。

「やっと自分から言ってくれた!」

恥ずかしそうに自分の胸に顔を埋める彼の頭をギュッと抱きしめ、嬉しい、と囁いた。
『色気もへったくれもないわ。』
とちょっとだけ後悔しつつ。

そして、二人は短い
けれど、今までとは種類の違う密度を持った今回の旅を始めた。


この二人の、”二人の長い旅”が始まるのは

もうほんのちょっとだけ先のお話。

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