加藤介春著『獄中哀歌』「赤き日」夏の宵

赤い提灯が河岸の家の二階の窓から
川のうへにおりゆきて水にうかべり。

青い水のうすぐらき川のおもてに
何をするにや提灯のかげが来れり。

流るる水のうへにぢつと止まりて
赤く燃ゆる提灯のあかりが薫る。

流るる水の心をすひとりて
赤い光が次第にふくれつつ。

流るる水のつぶやきを聞きにゆきしか
河岸の家の提灯が水にうかべり。

何をするにや水のうへに
提灯の火はぢつと止まれり。

底本:『獄中哀歌』南北社
大正三年三月二十三日発行
*旧字は新字に、「ゝ」などの踊り字と俗字は元の字に改めた。また、一部を代用字に改めた。

加藤介春(1885−1946)
早稲田大学英文科卒。在学中、三木露風らと早稲田詩社を結成。自由詩社創立にも参加し、口語自由詩運動の一翼を担う。
詩集に『獄中哀歌』(1914)、『梢を仰ぎて』(1915)、『眼と眼』(1926)。
九州日報編集長として、記者であった夢野久作を厳しく指導した。久作いわく「神経が千切れる程いじめ上げられた」。
詩集『眼と眼』では、萩原朔太郎が「異常な才能をもちながら、人気のこれに伴わない不運な詩人」という序を寄せた。

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