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今世紀最大の頂上対決!

「皆んな!よーく聞いてくれ!明日のチャーハン対決は何が何でも、勝たねばならぬ。じいちゃんの代から受け継いできたこの玉楼亭の、のれんに傷を付ける事は、末代までの恥となり、ご先祖様に顔向けが出来ない。どうか皆んな!俺に皆の力貸してくれ!」

「はーっ」(店の従業員)

「坂本君、今回のチャーハン対決についての概要を説明してくれたまえ」

「あっはい。それでは、こちらのスクリーンに注目して下さい。昨日徹夜してパワーポイントで作成した、チャーハン対決必勝法!君も明日から三ツ星シェフだ!のプレゼン資料です。先ず、プレゼン資料の1頁目をご覧下さい。今回のレシピは海老炒飯でと考えています・・・」と、小1時間の説明の後、約50分間の質疑応答を終え、白熱した議論の終盤、私は気になることを問いかけた。

「明日のテレビ中継は確か・・生中継だったよな?坂本君」

「あっはい。テレビ局のスタジオとうちの店との二元生中継で、ゴールデンタイムの放送予定です」

「そうか🔥とにかく明日勝てば、孫の代までこの店は安泰だ。絶対に失敗は許されん!皆んな!気を抜かずに明日、勝って祝杯あげるぞ!」

「おー!」と店中に従業員の熱い思いが、木霊した。

司会:
「さぁ注目の!歴史的対決の幕が上がりました!二元生中継お送りします。今世紀最大の中華料理対決!今回は皆さんお待ちかねのチャーハン対決です!中華の鉄人がつくるチャーハンが勝つか!それとも街角中華の鉄人が勝つか!こちらのスタジオでは、中華の鉄人が準備に取り掛かろうかというところですが、中継先の街角中華の玉楼亭を呼んでみたいと思います。玉楼亭の安藤さん!」

「はーい。安藤です。こちらも今、準備に取り掛かろうとしているところです。ご主人に意気込みをお聞きしたいと思います。今回のチャーハン対決の意気込みをお聞かせ下さい」

「とにかく、うちとしては鉄人の胸を借りるつもりで、何時ものように鍋を振るだけです。火力を全開にして、長年使い込んだこの街角中華魂が染み込んだ鍋にいつものように油をさっと注ぎ込む、その後、今朝、知り合いの養鶏場から届いた黄金の卵を素早く割って、かるーく溶いたら、この鍋(宇宙)に流し込む。うちのチャーハンは正に、究極のアートなんですよ!鉄人にも食べて頂きたいですね」

「なるほど。今日のチャーハンに使用する卵は、今朝早くにお知り合いの養鶏場から届けられたわけですね?」

「はい。うちの卵は日本一!いや!世界一と言っても過言ではないでしょうね。アッハッハッハッ、後で食べてみて下さい」

「それは楽しみですね。チャーシューなんかも秘伝の味があるんでしょうね?」

「あっはい。それについては企業秘密でして・・」

「そうですか・・では、楽しみにしています。頑張って下さい。それではスタジオにお返しします」

「はい。こちらスタジオです。中華の鉄人に今日の意気込みをお伺いしたいと思います。今日のコンディションは以下可ですか鉄人?」

「はい。中華の鉄人がチャーハン対決で負けるわけには、いきませんからね。ベストを尽くすだけですが、私も台湾の屋台で嫌というほど、チャーハンを食べた経験が有ります。まぁ見てて下さい」

「成る程ですね。間もなく、チャーハン頂上対決のゴングが鳴ります!一旦CMです」

スタジオ内は緊張の空気が張りつめていた。

「さぁ!世紀のチャーハン頂上決戦のゴングが今!スタジオに鳴り響きました!」

中華の鉄人は、瞑想していたのか?閉じていたまぶたを、そっと開けて、右手の助手の方をちらっと見てから、鍋を左手で掴んだ。流石!鉄人!手順通りに具材を鍋に放り込み、これぞ鉄人の技ここにあり!といった感じで、黄金のパラパラチャーハンが、天空に舞った。さっと皿に盛らてたチャーハンから出る湯気は、見ているだけで、胃袋がキューとなってヨダレが出そうになるほど美味そうに見えた。

「さて、鉄人のチャーハンが出来上がったようですね。実に美味しそうな匂いがしてきました。試食が楽しみです。それでは、挑戦者の玉楼亭にいる安藤さん!」

「はい。安藤です。これからご主人が調理に入るところです」

街角中華の達人と近所の一部の常連客から呼ばれていたこの店の主は、そっと目を閉じて、過去を振り返っていた。俺は小さい頃から、よく店番をさせられた。学校から帰って、友達と遊ぶ約束をしていたのに、いつも皿洗いと出前をさせられた。今ではいい思い出だ。よーしと言った後、「坂本君始めるぞ!」と目を血走らせて、カチッとで、ガスコンロに火をつけ、炎を全開にした。左手で魂の中華鍋を持ち、右手で、持ったお玉に絶妙な量の油を鍋の鍋肌から、さっと回して温度の加減を見た後、今朝届いた知り合いの養鶏場の卵を素早く割り、これ又、かるーくプロの力加減で溶いた後、今、このタイミングですよ!と言わんばかりの鍋に向かって、分かってるよ!と呟いて、溶き卵を流し込んだ。ここまでの手順はパーフェクトだ!!!そして、周りのスタッフが見守る中、炊飯器の蓋を開けたその時、信じられない光景が、大将の目に映った。ご飯が無い!空っぽだ!何故だ!透かさず大将は坂本の方を見て、「坂本君!ご飯炊いてなかったの?」すると、坂本も負けじと、「ご飯を炊くのは大将の仕事じゃぁ?チャーハンの命は米だから、俺が炊くって言ってましたよね?」その会話を聞いてた、担当アシスタントが駆け寄ってきて、「ご飯を炊いてなかったってジーマーですか?」

「ジーマーって言うかマージーです」と透かさず、反射的に大将は返してしまった。

「マージーって・・・」担当アシスタントは顔面蒼白になっていた。その時、スタジオから「安藤さん、こちらに映像が入って来ませんが、何かトラブルですか?」安藤も困り果てて、大将に言った。

「生放送なんですけどね・・」

大将も困り果てて、大声で叫んだ。

「お母ちゃん!隣の小林さんの家行って、茶碗1杯分のご飯をもろうてきて!」お母ちゃんは、慌てて茶碗持って店を飛び出した。ドンドン、ドンドン思いっきり玄関の扉を叩いて、「小林さん!こんばんわ!助けて!」と叫んでいると、小林さんが片手におにぎりを持って、もぐもぐと食べながら玄関先に出て来た。

「はい。何ですか?」

「お食事中すいません。このお茶碗にご飯一杯分けて貰えませんか?」

「残っているご飯でおにぎり作ったからもう無いです」

「えっ・・そしたらその食べ差しのおにぎりでええわ」と言って小林さんが右手に持っていたおにぎりを奪い取ってお母ちゃんは、店に帰ってきた。

「お父ちゃん!おにぎりの食べ差し持ってきたよ!」

「そうか!ようやった!それでええ!これが究極のハンチャンライスや!」と言って、鍋を軽快に振って、事無きを得た。と思っていたが、この一部始終は全国に生中継されていた為、抗議の電話がテレビ局に殺到していたらしい。

その時、スタジオには虚しくゴングが10カウント鳴り響いていた。

それから数年後、玉楼亭は装いも新たに鉄板焼"玉楼キッチン"に様変わりして、営業を再スタートさせていた。古くからの常連客には、裏メニューとして今でもチャーハンを出している。という話を風のうわさで聞いた。

「坂本君!近々にガーリックライスの新しいレシピを考えてくれたまえ」

おわり。

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