作品の振り返り『花よ鳥よ』

製作までの経緯


僕が漫画家になろうと思ったのは小学生の時だった。
だけど、初めて原稿用紙にペン入れをして作品として漫画を完成させたのは大学受験が終わった後。18歳の時。

それから大学に行って、漫画描くの向いてないなって思って大学を辞めた。(
別にそれが大学を辞めた理由ではないけど)
社会人になって似顔絵を初めてみたけど、自身の周囲への不義理と精神的消耗で断念。(当時関わった方々には今も深く申し訳なかったと思っています。)
ヒーローショーとかキャラクターIPを管理する会社を起業しようと数年やってみたけどこれ以上はムリ、死ぬ、ってところまで行って俺はもうクリエイターとかそういうのを目指してはいけない因果の人生なのかもしれないと苦しんだ。

けど、その苦しみと苛立ちをぶちまけて発散する為に漫画に戻ってきた。
もう漫画を描くことしか人生に対する文句を表現できなかった。

本気でやって、全力で落選して、完全に心を折りたい。
そう思って描いたのがこの作品だった。

作品詳細


2020年 1億円40漫画賞ヤンキー漫画賞 入賞 『花よ鳥よ』42ページ
https://www.pixiv.net/artworks/87946977

使用画材 iPad  pro10.2インチ /Apple pencil/アイビスペイント

あらすじ

不動高校の不良『花緒』がかつての親友『鳥純』と再会する。
花緒を求めてやってきたという鳥純は内に激しい凶暴性を秘めた少年であり、彼に本来の優しい性格と安全な生活を失って欲しくない花緒は鳥純を拒絶する。
しかし、鳥純が高校内の派閥争いや高校同士の抗争に巻き込まれたのをきっかけに鳥純は危険を冒してでも花緒と共にいたい事に気づき、二人は新たな自分たちの居場所を作るために再び手を取り合う。

解説と講評

さて漫画家を目指そうと思った時に三つの出来事があった
・前年末にTwitterで殴り描いた裏社会をテーマにしたバトル漫画をフォロワーが読んでくれた
・集英社が40漫画賞という40の作品ジャンルの部門からなる大規模な漫画賞を開催した
・コロナが大流行して仕事が隔週出勤になった。

40漫画賞の締め切りは5月末(後に7月末に延長)。
賞の存在に気づいたのが3月末。全然猶予はなかった。
しかし隔週出勤を利用すれば一週間集中して作品に専念できる(ついでに引きこもるのでコロナ感染のリスクを格段に下げる事ができる)

ジャンルは数ある部門の中からヤンキー漫画賞にチャレンジする事にした。
理由はいくつかある。
・前年に描いた漫画がバトル物で暴力的な描写やセリフを作る感覚が残っていたこと。
・その漫画を読んだ友人たちからの奨め。
・同性の強いつながりという自分の得意な描写を描きやすい。
・制服や学ランは作画が楽そう。
というもの。

2022年時点で改めて読むと全てにおいて粗が多い。(今も粗に次ぐ粗だらけなのだが)
よく入選なんて取れたものだと今でも思う。

作画が荒いのは言うまでもなくだが、何よりセリフが多い。
これは本作以降しばらくの作品もそうであり、漫画を製作する上でいくつか持ってる弱点(改善すべき点)なのだがキャラが多く関係性も複雑な為それらを説明する為にセリフが多くなってしまっている。

開始6ページでこのセリフ量である
あとふきだしも謎に縦長である

また、このセリフが多いことに関して当時の僕はそもそもセリフが多いとも感じていなかったし、よしんばセリフが多いとしてもそれはキャラや世界観の説明を詳細に行えているむしろ「良いこと」だと思っていた。

これは読切に限った話ではないが漫画を作るうえで最も重要視すべき視点は「如何に読者に最後まで読んでもらうか」だ。
そう考えた時「岡本博登」とかいう無名の実績も受賞歴もない、絵も全然魅力的ではない謎の存在が描いたセリフが多い謎の漫画を最初の数ページだけで読んで最後まで読んでもらえるだろうか?

答えははっきりとNOだ。

今作は受賞時の講評に「今回の最終候補作品の中では、画力、演出、何よりもストーリーラインの整理能力が頭一つ飛び抜けていた印象です(HPより引用・/ https://yj40comicaward.jp/15/pub/)」とのコメントを頂いている。

しかしそれは「読む義務がある人が最後まで読んでくれたからもらえた最終的な評価」だと思う(評価していただけたのは純粋に大変有難いし嬉しいです)。

最後までストレスなく読んでもらう。
このハードルの高さに気づくのはこの作品完成からまるまる1年が経過した時であり、自分の作品や作家性が抱える数ある弱点のひとつに過ぎなかったと気づくのはまた先の話である。

どこを切り取っても粗さが目立つ本作だが、とはいえこれが当時の精一杯だったし無料アプリ「アイビスペイント」で作画して、お金も設備も
無いからちゃぶ台に段ボールで作った台にiPadを置いて座布団敷いてロクに開く窓もない独房のような部屋で製作に関して相談できる友人もいない中これだけやったのは自分で自分を褒めてあげたいところ。

子ども時代の二人に戻るシーンは入稿直前に描き足した。描いてよかった~

今となっては反省点が目立つものの、クライマックスの展開なんかは今読んでも自分でもちょっと感動する。

数年分の鬱憤をぶつけた『花よ鳥よ』は漫画を描く事、クリエイティブな事は楽しい事だと思い出させてくれた。
今でも大切な作品です。

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