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ベンチマーキングではなくgap making

先日、進めている案件の一環で、企業事例としてネスレ(Nestle)の研究をする必要に迫られ、ネスレについて書かれた文献を探していたところ、この本に出合った。

「知られざる競争優位―――ネスレはなぜCSVに挑戦するのか」(フリードヘルム・シュヴァルツ著、石原薫訳、ダイヤモンド社、2016/4/8)
 
ネスレの前CEOであるブラベック氏がネスレという会社の目指す方向と基本戦略について考え実践してきたことを具に書いている。

最も印象的な箇所は、ネスレはベンチマーキング(同業他社等との比較)を行なわず、いかに差をつけ拡げるか(gap making)をやっているということだ。

ベンチマーキングはもちろん有効な場合もあるが、こと戦略に関して言えば、それだけでは不十分である。相手を知った上で、ではどう自らのポジショニングを構築するか、同じポジションなら如何に差をつけるのか、を考えなければ意味がない。

競争的収斂(competitive convergence)が起きやすいのが常のビジネスにおいて、gap makingという考え方は重要である。縦のギャップもあれば横のギャップもある。縦のギャップとは、たとえば、同じ市場セグメントで戦うなら大きく2位に水をあけ圧倒的な差をつけること。横のギャップとは競争の軸をずらす、戦略ポジショニングを変える、ということだ。

読後、どの方向にギャップをどれだけつけるべきか、この考えをぜひ日本企業には採用し実践してもらいたいと思った。

実際、食品業界はもとより、他の業種の企業でも、ネスレの戦い方を研究している企業は多いようだ。クライアントも既にネスレが菓子事業から撤退をそれも積極的に行なっているその事業ポートフォリオマネジメントの手法と意思決定のメカニズムには関心を抱いていた。

企業の競争戦略を生物界にアナロジーを求める考え方は経営論(あえて経営学とは言わない)の世界では昔から行われているが、ネスレの戦い方はまさに植物界のそれに似ている。光合成を行なうのに他の植物と同じ高さではなくより高く枝を伸ばし葉を茂らせなければならないし、他の生息地を選んでドミナントになる手もある。今の生息環境が変化したら当然適応しなければならない。とても自然な考え方である。自然なやり方こそが強さの本質だ。

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