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戦略コンサルティング業の終焉

いかなる産業にもライフサイクルがあり、寿命というものがある。

産業ライフサイクルは、一般的には勃興期⇒成長期⇒成熟期⇒衰退期の4段階を辿る。

勃興期はプレイヤー(企業)の数も少なく、顧客(クライアント)もごく一部のイノベーターと言われる先進的なニーズを充足する企業群であり、当時の一流と言われる企業であった。戦略コンサルティングは米国で1960年代に勃興期を迎えている。

勃興期が進むと、この業界の将来性に目をつけて、新規参入者が続々と増えると共に、顧客の層も拡大していき、成長期に入る。そして、商品であるコンサルティング・サービスも高度化していくと共に、顧客のニーズも多様化し、成長が加速する。

成熟期に入ると、市場成長は鈍化するものの、市場は安定し、プレイヤー(コンサルティング会社)の事業モデルも安定し、収益性は極大化する。戦略コンサルティング業界の場合、日本では2000年代前半がこの時期だったと思う。その後、成熟期後半になると競合も激化し、コンサルティング・サービスのコモディティ(汎用品)化が始まる。こうなると価格競争が始まり、儲からなくなっていく。

ここからが衰退期の始まりである。コモディティ化するということは、クライアントである企業側にとっても、従前は外注していた「特殊な」業務である戦略策定を、内製化すなわち自ら手掛け、ルーチンワーク化していくことを意味するため、需要そのものが減少していく。このため、収益性が低くかつ成長も見込めないため、既存プレイヤーの中には撤退する者も出ていく。コンサルティングから完全に撤退するというよりも、事業モデルのシフトを図る。たとえば最もよく見られる例は「実行支援」、すなわち戦略策定後の実務に落とし込み結果を出していく(=業績を改善・向上する)ことを経営トップではなく現場でサポートすることに重点を置くことである。

戦略策定は通常3ヶ月から半年程度で行なっていたものが、実行支援となると最低でも半年、長い場合には数年にわたって支援を続けることになるので一見コンサルティングファームにとっては業績のビジビリティ(予測/予見可能性)が高まるように見えるが、クライアントも組織能力が高まっているので、そもそも実行支援のニーズは低い、あるいはあったとしても専門性の高さが要求される(業種毎に)ことは当然であり、戦略コンサルティング・ファームに対応できるとは限らないし、長期の関与を想定して開始しても徐々にフェードアウトしたり、関与が薄いので単価が低かったりするため必ずしも実行支援は儲かるとは限らない。

一般に高い専門性が問われる領域では、その業界出身者であるベテランがフリーランスでコンサルティングを提供することも多いし、筆者の周りでも増えている。

戦略策定においては、客観的・相対的な視点やロジカル・シンキング、プレゼンテーション、ファシリテーションといった能力で圧倒的にクライアントを上回ることで付加価値を創出・訴求できていたものが、クライアントの能力向上(戦略コンサルタントの事業会社への転出等も含む)により、価値訴求が確実に難しくなっている。

高い専門性を要する人材を組織として多く採用し、これまでの幅広い業種に対して深く入り込むのは、コストベースも高くなるし、ファームの人材ピラミッド(up or out)故のビジネスモデルにもそぐわない。そもそも戦略コンサルティング・ファームの高いフィー水準ではなかなかコンサルティング業務の営業は厳しいものがある。これがフリーランスの業界エキスパートが重宝される理由でもある。

戦略コンサルティングのニーズ自体が完全に無くなる訳ではないが、このように確実にかつての事業モデルは通用しなくなっているし、転換も非常に難しい。M&Aとコンサルティングの融合というのも各社指向しているものの、M&Aを頻繁に戦略遂行の常套手段としている「M&A巧者」企業はかなりの業務を内製化し、外部専門家の起用の機会は少ない。かといって滅多にM&Aをやらない会社にいくら営業をかけてもM&Aを強制する訳にはもちろんいかないのでいいクライアントには成りにくく、営業コストをかけるだけ無駄である。

戦略コンサルティング・ファームは、現在でもかつてのような「競合の収斂」の状況にある。戦略立案から実行支援、M&Aとの融合、あるいはテクノロジーとの融合、オープン・イノベーションのサポート、等は各社取り組んでおり、相変わらず「選択と集中」はできていないし、クライアントの視点からしてもどこを選んだらいいのか難しく、結局ブランドかフィーの安さで選ぶことになる。

圧倒的な何か、「これをやらせたら世界一」、「(クライアントが)自分では逆立ちしてもできない」ものを提供し続けるには、総合百貨店的ではあり得ないのはどの業種でも同じことだ。

経営とは勇気である。ディープ・ニッチに特化し、規模を追わず、クライアントの変化するニーズを捕捉しつつ、速い速度で組織学習のPDCAを回して進化する、そういうコンサルティング・ファームこそがこれまでも成功してきたし、これまでも生き残るであろう。そして現在までの「戦略コンサルティング業界」は終焉し、進化型のプレイヤーが生存するであろう。

In a nutshell(要するに), 陳腐な表現になるが戦略コンサルタンティングファームには創造的自己破壊が求められている。

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