小林大吾「ジャグリング/jugglin'」

2010年5月12日初版 アルバム「オーディオビジュアル」より

歌詞

目に入ったちりくらいには忌々しい
ただ半鐘(はんしょう)を鳴らして騒ぐほどでもないし
わかるよ、でもそりゃしかたないよな
そう言ってみんなけろっと忘れていく話

貴重な休日にひどい風邪をひくとか
あわてて降りたら隣の駅だったとか
誤解をときそこねた居心地のわるさとか
本物の才能を目(ま)のあたりにするとか

自転車がとちゅうでパンクするとか
どうしてもネジが1本だけ余るとか
だれか他に 好きな人ができたとか
たとえばそういうこと

ひとつひとつはとるに足らないちいさいもの
声を上げるにはあまりにもありふれたこと
それでいて言いあらわしようのない胸のうちは
ただのみこむしかないときっとみんな言うだろう

それは雪みたいにふりつもって胸を冷やす
わざわざじぶんで降らしてりゃ世話ねえよ…
ぐうの音(ね)も出なくて耳まで赤くしながら
誰も見ていないところで雪かきをしている

「元気を出せ」とでも言うべきだろうか?
そんな追いはぎみたいなせりふは言えないな
のみこむことに慣れているならなおさら
何しろそれがいちばん手っとりばやい

目の前にあってどうにでもできそうなのに
足すこともできなければ引くこともできない
まるで6面揃ったルービックキューブみたいに
それは手の出しようもない完璧なかなしみだ

そんなのいったいどうすりゃいいんだとおもう
でももうすこしでみつかりそうな気もしてるんだ
そいつを打ち消す奥の手がきっとあるから
まだ白旗はあげるな、洗濯でもしときゃいいさ

持てあますうちに手からあふれて
やがてつらなり空中に転がりだす jugglin'(ジャグリング)
そんな顔すんなよ、ちゃんと考えてるさ
でも曲芸師みたいでなんかちょっといいだろう?

玉乗りとつなわたり、それに火の輪くぐり
そういえばどれもやったことがあるような気がするな
いっそサーカスでもひらくってのはどう?
くるしゅうない!よきにはからえ マイダーリン

世界はいつもただそこにあるだけだ
いつかは答えが、なんて望むべくもない
なのにジャグリングばっか上手くなってどうする?
そう、それもまた宙に浮いた玉のひとつだ

ゆっくりと弧をなぞって音もなく落ちる
指先がそれを空へぽいと抛(ほう)り上げる
あの痛みにはいずれまたふれる  ※1
でも次はたぶんうろたえずにはすむだろう

目先を変えて別の話をしようか
とくべつ耳をかたむけるほどの価値はないけど
ある日豆腐のカドに頭をぶつけて死んだ
男についてのごく短い話だ

果たして豆腐が凶器になりうるかという  ※2
もっともな議論はまたべつの機会にゆずるとして
たましいを回収しに来た死神でさえ
気の毒すぎて二の句がつげなかったという

情に弱いのが玉にキズと定評のある死神は
ルール違反を承知でこう提案した
やろうとおもえば豆腐をレンガに替えて  ※3
もう1回やり直すこともできるけどどうする?

レンガでやり直せばプライドは保たれる
痛いとはおもうけど、まあほとんど一瞬だし
男のたましいはすこし考えたあとで
首をふりながら答えた、「豆腐でいいや」 ※4

この話の教訓はどこにあるのか?  ※5
あるわけないだろう、先に言っといたじゃないか!
なんとなく笑えて、なんとなく気が晴れて
外にでも出ようって気になればそれでいいんだ

ここで残念な事実をお知らせしておくと
どこまで行ったって逃げ場なんかない
だいたいまっすぐ歩いたら一周しちゃうような世界だ
いやまったく、世知辛いことこの上ないな!

そんなわけでひとつプランBを用意しといた
ほら、隣の空き地に捨てられた車があったろう?
駐車違反の切符まで貼られたあのデカい車
あれ宇宙船じゃないかな、タイヤとかもないし

察しがいいな…外に出る理由はこれだ!
いちどくらい無茶したって罰はあたるまいさ
それにさっき洗った白旗にはもう色を塗って
海賊旗にしちゃったし…また買ってくるから

そんじゃ拡声器もって空き地に行くとするか…
このさい手玉にとりにいく jugglin'(ジャグリング)
いいか、うたがうな、誰がなんと言おうと
アレは宇宙船だ!準備はととのった

悩み多きウェルテルの末裔(まつえい)諸君
日々とは気分にまではたらく重力とのたたかいだ!
だからアレに乗って宇宙にいくってのはどう?
くるしゅうない!よきにはからえ マイダーリン

世界はいつもただそこにあるだけだ
いつかは答えが、なんて望むべくもない
そうやっていちいち抱えこんでどうする?
さてね、それもまた宙に浮いた玉のひとつだ

ゆっくりと弧をなぞって音もなく落ちる
指先がそれを空へぽいと抛(ほう)り上げる
あるいはうっかり引力の手をはなれて
ポンとひざを打つことだってあるかもしれないじゃないか…

持てあますうちに手からあふれて
やがてつらなり空中に転がりだす jugglin'(ジャグリング)
そんな顔すんなよ、ちゃんと考えてるさ
でも曲芸師みたいでなんかちょっといいだろう?

玉乗りとつなわたり、それに火の輪くぐり
そういえばどれもやったことがあるような気がするな
いっそサーカスでもひらくってのはどう?
くるしゅうない!よきにはからえ マイダーリン

世界はいつもただそこにあるだけだ
いつかは答えが、なんて望むべくもない
なのにジャグリングばっか上手くなってどうする?
そう、それもまた宙に浮いた玉のひとつだ

ゆっくりと弧をなぞって音もなく落ちる
指先がそれを空へぽいと抛(ほう)り上げる
あの痛みにはいずれまたふれる  ※6
でも次はたぶんうろたえずにはすむだろう


以下、歌詞とCDのブックレットとの差異について書き留めておく。

※1 CDのブックレットでは「あの痛みにはいずれきっとまたふれる」との記載となっている。

※2 CDのブックレットでは「果たして豆腐が凶器なりうるかという」との記載となっている。

※3 CDのブックレットでは「やろうとおもえば豆腐をレンガに差し替えて」との記載となっている。

※4 CDのブックレットでは「豆腐でいいです」との記載となっている。

※5 CDのブックレットでは「この救えない話の教訓はどこにあるのか?」との記載となっている。

※6 CDのブックレットでは「あの痛みにはいずれきっとまたふれる」との記載となっている。


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