速練


Vtuberの実在論

A説
Vtuberは人間ではない。
よって法律は適用されない。

この立場はVtuberは人間ではなく、あくまで「キャラクター」であると解する。ここでいうキャラクターとは、役、または人格、またはimage picture(表象である絵)を指す。
キャラクターは労働法も未成年飲酒も引っかかることはない。
 cf. キャラクターの飲酒について
 http://netgeek.biz/archives/90940
 http://www.eco.shimane-u.ac.jp/ssi2018/manu/ss03_1_02.pdf
 https://researchmap.jp/harata/
より重要なテーマとしては、性表現がある。性表現によるキャラクター(非実在青少年)の被害をどう考えるかという点は表現規制論でバチバチにやられている。

B説
Vtuberは人間である。
よって法律は適用される。

このB説の立場をとることは非常に難しいだろう。
Vtuberが「キャラクター」を超えて人間(法律的な言い方では「自然人」)であると言うよりも、Vtuberの”中の人”(この言い方は適切ではない)が人間であると言えるに過ぎない。
おそらくB説は、Vtuberの”中の人”とVtuberの「キャラクター」が同一人物である場合か、一対一対応で強固なつながりがある場合に限って妥当になりうる。

Vtuberの人間の条件
 cf.実写の限界事例(バーチャルを現実にもってくるか、現実をバーチャルにもっていくか)
 https://mato-liver.com/archives/5520
 https://japanese.engadget.com/2018/11/13/vtuber-showroom/


A説にのったとしても、”中の人”には法律は適用されるので、”中の人”が、(Vtuberとしての振る舞いによって)法律違反の行為をしたことを言えばよい。

弁護士法74条1項の問題を具体的に論じよう。
『74条1項 弁護士又は弁護士法人でない者は、弁護士又は法律事務所の標示又は記載をしてはならない。』
 cf.同様の問題として、医師法18条『第18条 医師でなければ、医師又はこれに紛らわしい名称を用いてはならない。』、弁理士法76条1項、司法書士法73条3項、保健師助産師看護師法42条の3第1項~4項、等。

まず、してはならない行為は「標示又は記載」であり、口頭で名乗ることはこれに該当しない。「標示又は記載」は、典型的には、名刺、看板、新聞雑誌等に記載することを指しており、有形物上に文字を表示することにより可視的な状態におくことをいう。ホームページなど電子媒体による場合も、パソコンの画面等に表示される以上、これに該当する。

次に、禁止されている表示の内容としては、「弁護士」または「法律事務所」の文言である。これに類似する「法務事務所」「法律研究所」といった文言は、74条2項に関連する問題はさておき、74条1項については該当しない。
問題となるのは、「弁護士」の名称が他の文言とともに用いられる場合、「弁護士」に別の字句が付加されて用いられる場合である。
(※「弁護士補」「準弁護士」「国際弁護士」「事務弁護士」等)

この点の解釈について、
「条解弁護士法 第4版」では、
『...厳格に解釈されるべきことを考えれば、弁護士、法律事務所という名称と他の語が独立して観念される場合と、そうでない場合を区別し、前者の場合には本条1項に該当するが、後者の場合には他の語と一体として標示・記載されているものとして、本条1項には該当しないと解するべきであろう。』とあり、
また、「弁護士法概説 第4版」では、
『思うに、弁護士、法律事務所という名称・文言が社会通念に照らし独立して観念しうるか、という視点でとらえ、独立性があれば74条の取締り対象となると解するのが相当である。そうした場合、上記の名称(※)はいずれも独立して弁護士、法律事務所を観念させるものというべきであり、74条1項に違反すると解するべきであろう。』とある。

裁判例としては、大分簡裁H2.3.26
「国際事務弁護士」の名刺の使用が74条1項違反とされたもの がある。


具体的な事例においては、一般人が正規の弁護士と誤認混同して不測の損害を被ることを防止する、という本条の趣旨を考慮に入れることも大事だろう。
 cf.「弁護士ドットコム」
 https://www.bengo4.com/lawyer/faq/?id=132
 『当サイトの名称である「弁護士ドットコム」の語感から連想されるイメージからすれば、一般人は、これが弁護士を紹介するサイトであるとか、あるいは弁護士ポータルサイトであるとの認識を有すると考えられ、「弁護士ドットコム」それ自体を弁護士あるいは弁護士法人であると誤信するとは考えられないので、弁護士法第74条第1項には違反しません。』

74条1項違反にならないものとして、「弁護士法概説 第4版」では、
『外国弁護士の資格をもたない者が、日本においてたとえば「ニューヨーク州弁護士」との標示をした場合は、日本の弁護士の意味とは観念されないから、74条1項違反とはいえないと考えられる...』との記述がある。

「弁護士Vtuber」であればどうか?


一般人の誤信の可能性という不明確なものをそのまま判断基準とすることはできないが、この誤信可能性は、【Vtuberの”中の人”とVtuberの「キャラクター」との、一対一対応での強固なつながり】の話にも通じる。

例えば、声優を”中の人”と言う言い方をすることはあるが、声優や俳優が弁護士の役(「キャラクター」)を演じるとき、声優や俳優(その人)が弁護士であると誤信することはないだろう。
声優に関しては、その「キャラクター」についてはA説をとることができるからだ。(つまり、表象たる絵が「人間」だと誤信する一般人はいないということ)
俳優に関しては、「キャラクター」と「人間(”中の人”)」の身体が重なり合うために、その誤信の可能性は高い。見た目からはキャラクターか人間かが分からない。
というか、現実世界で役を”演じ”続ける者は、名刺を渡した瞬間にアウトとなる。(それは狂人でなければ、まさに詐欺師だ)
しかし、役名(キャラクターの名前)と役者名(俳優の氏名)が併記されることや、創作(フィクション)作品であることを明記されることで、一般人はその者の「キャラクター」と「人間(”中の人”)」の二重性に気付く。

ほかに、ツイッターアカウントを運営している人を”中の人”と言うこともあるが、弁護士でない者が「弁護士」表記のアカウントを運営するとき、外からみる一般人は見た目/外観からその真偽(人間か、キャラクター(ロールプレイ)か)を見極めることは困難である。
 cf.架空の「法律事務所」のアカウントを作成した事案
 https://www.bengo4.com/c_23/n_6313/

ツイッターアカウントはアイコン画像を設定できるが、それを「身体」とみなしてよいかは疑問である。


Vtuberは基本的には”中の人”を明かさない。よって、役名(キャラクターの名前)と役者名(俳優の氏名)が併記されることはない。
また、創作(フィクション)作品であることを明記されることもないだろう。
その場合、「キャラクター」と「人間(”中の人”)」の二重であるのか、一重である(「同一人物」である)のかは推測されるしかない。

見た目、という点では、Vtuberのバーチャルな身体(二次元、または三次元のCGモデル)が現実世界の人間の身体のリアルさに近づけば近づくほど、その二重性は一重性に近づく(と推測される)。二重性が一重性に近づくことが【Vtuberの「キャラクター」とVtuberの”中の人”とのつながり】が強固になるということだ。
また、Vtuberのバーチャルな名前が現実世界の人間の氏名のようなリアルさを有するほど、Vtuberの「キャラクター」はVtuberの”中の人”(と思われる者)と区別がつきにくくなる。


「Vtuber」という、とある制作-鑑賞環境のジャンルの名称(※そこでの存在者(Vtuber)の名称ではない)が、創作(フィクション)であるか、という点には議論があるだろう。
基本的には、Vtuberは(その外観のアニメ性からか)創作であると受け取られる。
しかし、例えば、正規の弁護士資格を持つ者が、TVのCMやインターネット広告を打つように、Vtuberとしての身体、いわゆる”ガワ”をかぶって、本来の、全く適法な弁護士事業の宣伝を(Vtuber活動を通して)行うことはありうる。

反対に、弁護士資格を持たない者が、Vtuberとして弁護士業務を行うのならば、そこにたとえ身体の二重性や氏名の二重性があったとしても、非弁行為として違法とすべきである。(これは74条2項の問題として扱われるべきかもしれない。)
しかし、このときの問題は、「弁護士」と表記している「キャラクター」と、その”中の人”であるところの非弁護士が一対一対応で紐づいていることを証明できないということだ。
つまり、その「弁護士」と表記している「キャラクター」を、別の、正規の弁護士が”中に入って”存在させているのではないということが(警察、検察の側で)証明できない。二重性によって入れ替わりが可能であることから生じる問題である。


むずいな、つまりどういうこと?



identify
それぞれの存在者における、身体(表象たる絵)と、氏名、という要素

あとは、創作/フィクション(ロールプレイ)の可能性のある場/環境なのか、という視点

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