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手元に集められた数奇な石たち ⑥ラブラドライトについて調べた


はじめに

 この家にひょんなことから入手できた石について。どうやら3日坊主で終わることだけは避けられたようだ。どうにか未知の石たちの調べをすすめられている。こうしたことは個人の満足に過ぎないかもしれないが、基本的に蓄積させていくと何らかの意味をもつかもしれない。

ウィキペディアを使わないことだけは守っている。6回をつうじてそれだけは厳守している。たいした意味はそこにはない。

今回は意外な経験をできた。乞うご期待。

たびたび喚起していて注意願いたいが「鉱物」、「鉱石」、そして「石」の語を区別できずにいるのでご注意願いたい。

独特な名前は…

 ゆずってもらってうちに来た石。総勢30数種。これらの素性を知らないまま時間だけが過ぎていく。何とか概観をつかめつつあるようだが、それにしても世界各地から石が集められている。いつか世界白地図上に示していければそれはそれでおもしろいかもしれない。

こうした趣向に至ったのは、なかなか自分の時間をまとまってとれなかったことによる。「こもるべき」との達しが出ている今がそのチャンスかもしれない。彼の病による自らの行動の方向性の結果か。いろいろあっての人生と思うことにしている。

さて、石の名前はというとラブラドライト。おそらくここまで読んでこられて「ラブラドル」の語が浮かんだ方がいらっしゃるかもしれない。わたしもそのひとり。あとで名前の由来について触れたい。

たいていここで真っ先に「ラブラドライト」で検索をかける。とくにいつもとかわりない。もっぱらわたしはPCを使って検索する。すると多くの場合Wikipediaが先頭に出てくる。見ない見ないと繁華街から一本のよこみちのすじを入った路地をとおり抜けるかのようにしつつ、2つ目以降をスクロールしていく。

いずれも今流行のパワーストーンのサイト。そこで和名と考えられる 曹灰長石(そうかいちょうせき)で検索しなおす。じつはこの語にいわくがあった。それものちほど。

するとあっさり岩石鉱物詳解図鑑に行きつく。安定のサイト。ここに行きつくとにわか雨の軒下、ホッとする。すでに6回のうちの半数以上でこのサイトへ誘導される。ここである情報を知る。曹灰長石というよび名は現在では正式には用いないらしい。斜長石と大くくりで呼んでいいらしい(1)。

濡れ色の濃緑+灰白色の鉱石

 手もちの石の表面はなんとも濡れたような面妖な感触。かっぱの皮膚はこんな感じ…かもしれない。そして濃緑色と灰白色が入りまじるもよう。これまでの石とは感触があきらかに違う。

前々回、前回の④、⑤の鉱物も緑がめだっていたがこの石もそう。毎回、こんどはこれっとくじをひくように包み紙をとりあげているのでぐうぜん緑色を引きあてた。

手持ちの石は裏表でみがいた面と自然のままの風合いの面の両方をもつことは前回おつたえした。したがって表裏のちがいはその石の特徴を観察する上でたいへん役にたつ。

さて独特の色のきわだっている理由を中心にさぐっていこう。

手持ちの石には濃緑色のすじ。ラブラドライト(曹灰長石, そうかいちょうせき, labradorite) 三斜晶系 の珪酸塩鉱物(1)とある。どうやら長石のなかまらしい。

この石に光を当てると閃光を示すことがあるという。光の当て方でさまざまな色を示すようだ。ほんとうだろうか。せっかくなのでたしかめてみた。これについては次の章で。

閃光を放つ石

 ラブラドライトは面によっては閃光を発するという記述がいくつかのサイトでみられた。そこで石を持ち出し、蛍光灯のもとで閃光を発する面があるかどうか調べた。

まずは磨いた面と自然のままの両方の面にそれぞれさまざまな角度から光をあててみた。なにも起こらなかった。なあんだとあきらめかけたところぐうぜんにもきらりと一瞬だけ光が見えたような。気のせい?まさしくそれは暗がりのなかのUFOのようだった。

あれっ、いまのは何だろうとおなじしぐさをくりかえしてみた。すると…たしかに光った。なんと表裏の面でなくサイド、横の自然のままの面が虹色に輝いた。どこかで見たことのある光り方…。そう、モルフォ蝶。ちょうどそれに近い。

何とか写真に撮ることができた。光っているように見えるだろうか。
じつに不可思議な輝き。青を中心に金属光沢のようなその他の色が混ざったなんとも形容のしにくい色のひかりで妖しく光る。

角度により妖しく光る



岩石鉱物詳細図鑑(1)によると薄膜干渉という現象で、同サイトにはお手本のような鮮やかな閃光の写真が掲載されている。このシリーズでおなじみの原色岩石図鑑ではラブラドレッセンス(labradorescence)と記述されている(3)。

これはいくつかある構造色のひとつ。薄膜干渉による見え方には他にもシャボン玉や油膜などの色合いが同様の原理にもとづいているらしい。モルフォ蝶を連想したが、構造色のなかでもその原理になぞが多く最近でも論文が出つづけているほど(2)。

直射日光だともっと輝いた。下がその写真。

まばゆく光る石


角度によってこつぜんと光る


手持ちの石はマダガスカル産

 わたしの手持ちの石はマダカスカル産だ。ラブラドライトの名前からラブラドルを連想したが、調べてみるとやはりそのようだ。カナダのラブラドル地方ではじめて見つかったことに由来している。

ラブラドル半島といえば鉄鉱石の産地として地理で習う。ラブラドル半島は先カンブリア時代の楯状地で地球上では比較的古い陸地として知られている。

マダガスカルも島の東部から中央部の地質は先カンブリア時代とされる。ルビーやサファイヤなどの主要な宝石の産出国であり、関連があるのだろうか。こちらも興味深い。

独特な色と感触は…

 ラブラドライトを斜長石として組成式で表すと、(Nax, Ca1-x)Al1-x Si2+x O8(x=0.5-0.3)となる。 (数式・数字は下つき)。べつの書き方では(Na[AlSi3O8]50~30(Ca[Al2Si2O8]50~70。

構成する元素は5種。ただしAb50-30An50-70の組成 を示す。ここで、組成式のAbとAnの説明を。ラブラドライトは大きく見ると長石のなかま。長石はカリ長石、曹長石、灰長石の端成分の3つがさまざまな組成で組み合わさってできる固溶体。

斜長石は、灰長石(anorthite, アノーサイト Ca[Al2Si3O8])と曹長石(そうちょうせき、albite、アルバイト Na[AlSi3O8] ) を成分として混晶となる。すなわち頭文字のAnとAbの組成を0~100の百分率の組成で示すことになる。ラブラドライトは前述したようにAb50-30An50-70 。

分類を調べてみると

 分類上の位置づけを岩石鉱物詳細図鑑(1)に基づいて大分類から順におこなう。

ラブラトライト(曹灰長石)について調べると、

10種ほどある化学組成にもとづく分類では、珪酸塩鉱物
10種ある珪酸塩鉱物のうち、テクトケイ酸塩鉱物
3グループあるテクトケイ酸塩鉱物のうち、長石グループ
2種ある長石グループのうち斜長石

斜長石には曹長石 と灰長石があり、その中間の組成を持つものが数多い。灰長石(anorthite, アノーサイト) を以前、曹灰長石(ラブラドライト)と亜灰長石に細分していたが、いまでは学術用語としてはこの両者は用いず細分化されないらしい。したがって現在ではラブラドライトは灰長石のなかまでよいことになる。

国内の産地

 原色岩石図鑑では日本産のはんれい岩中にある斜長石には、美しいラブラドレッセンスを示す物が見つからないとの記載がある。同図鑑の27ページにはラブラドル産の斜長石の美しい閃光を放つ鉱石の写真を掲載している。

 どうも日本産の斜長石はここで示すまでないほど各地に存在するようだが、いずれもラブラドレッセンスを示さない存在のようだ。

おわりに

 今回は休日ということもあってゆっくりと調べられた。時間をかけるとつぎつぎに情報がふえていき、なかなか正確な把握には以前と同様に苦労させられるが、おかげでさまざま知れた。

それにしてもラブラドレッセンスの閃光は妖しい。実際に確認できて満足している。

参考文献・サイト

(1)岩石鉱物詳細図鑑https://spotlight.soy/detail?article_id=ktiypccer https://planet-scope.info/rocks/minerals/pyroxene.html
planetscope(https://planet-scope.info/index.html)のひとつのカテゴリ。沢田輝氏(海洋研究開発機構JAMSTEC研究員)運営。
(2)東京理科大学 理工学部 物理学科 吉岡研究室 HP http://www.yoshioka-lab.com/kaisetsu/morpho.html
(3)原色岩石図鑑 改訂新版(1999)保育社 p.26.

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