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【コラム】柴崎岳は真田幸村だった。鹿島=真田丸が大国徳川=レアルに挑んだ夜

挑戦しない者には、価値ある敗北すら与えられない。

それを教えられた夜だった。

2つの敗軍に心打たれた夜、2016年12月18日を僕は一生忘れないだろう。


2016クラブワールドカップの決勝が横浜にて、18日に開催され、欧州王者レアルマドリードに挑んだ我らが鹿島アントラーズは、白い巨人をギリギリのところまで追い詰めたが、最期は力尽き4-2の惜敗。

クラブ世界一の称号には手が届かずも、アジア勢初の準優勝に輝いた。

鹿島アントラーズはその夜、真田丸だった。

2016年12月18日は奇しくも人気大河ドラマ「真田丸」の最終回が放送される日だった。

BSプレミアムでの一足早い放送を観てから、その後開催されたクラブW杯を観戦した人も多かっただろう。

かくいう僕もその一人。

大国・徳川軍に包囲され、最期の戦いに挑む真田幸村と「真田丸」の面々。

彼らの姿が、欧州王者、誰もが認めるビッグクラブであるレアルマドリードに立ち向かう鹿島アントラーズイレブンと重なって見えたのは、決して錯覚ではなかった。

柴崎岳率いる鹿島アントラーズが、闘将ジダンと白い巨人に真っ向勝負を挑み、一次はリードを奪うなど、欧州の超強豪を苦しめた。

それはまるで、真田幸村率いる真田軍が、勇猛果敢に徳川家康の待つ本陣に突き進み、大将・家康をあと一歩というところまで追い詰めた様に似ていた。

結局最期は、ちょっとした流れの変化によって情勢が変わり、鹿島も真田も敗戦を喫する訳だが、彼らの命と誇りをかけた戦いは多くのファンを魅了したに違いない。

真田軍のイメージカラーである紅。

そして幸村がかぶっていた猛々しい二本の角が生えた兜。

これらはまさしく、鹿島伝統のアントラーズレッドと敵を突き刺す牡鹿の角、そのものを象徴していたように思う。

なぜ鹿島は大国レアルを苦しめることができたのか?

冷静に考えれば、レアルマドリードと鹿島アントラーズの間には大きな実力差があってしかるべきだ。

リーガエスパニョーラを制し、チャンピオンズリーグを勝ち抜いて横浜の舞台に立っているレアルと開催国代表のアントラーズ。

格の違いは明確である。

しかし、日本代表のアジアでの戦いが一筋縄ではいかないように、例え戦力差や実力差があっても、それを覆すことが決して不可能ではないのがサッカーというスポーツだ。

特に一発勝負のトーナメントであれば、実力差を逆転してのジャイアントキリングは決して珍しいことではない。

レアルと鹿島のコンディション

レアルマドリードは、リーガのシーズン中ではあるが、過密日程の中で長時間の移動にさらされつつ日本にやってきている。

コンディションの面では、到底万全とは言えないはずだ。

それは90分間通してほとんど目立たなかった、解説の岡田さんに「たいしたことねえな」と木言われてしまったクリスチアーノ・ロナウドの重そうな動きをみれば明らかである。

とはいえ、それでもレアルはレアル。

彼らが世界最高クラスのチームであることは明白で、コンディションの不良を理由に低パフォーマンスを見せることを許されていない。

彼らは常に「レアルマドリード」でなければならず、勝つことを宿命づけられている。

対する鹿島もコンディションの面は盤石とは言える状態ではなかった。

シーズン終了後からすぐにチャンピオンシップに突入し、浦和との激闘を制した後は、中2日での連戦でクラブ・ワールドカップを戦い抜いた。

今大会4試合目となる決勝。疲れていないはずがない。

それでも、レアルとの決勝という人生で一度あるかないかの大一番を前に、彼らのアドレナリンは売るほど大量に放出されていたことだろう。

長距離移動のレアルに対して、ホームと言える日本で闘えたのは、鹿島にとっては大きなアドバンテージだったと言えるだろう。

前半:効いていた鹿島の組織的なディフェンスと繋がらない最初のパス

ゲームは序盤から静かな展開ながら、確実にパス回しで圧力をかけてくるレアルに対して、鹿島は昌子を中心とした鉄壁のディフェンスラインで対応。

今大会、当たりまくっている守護神曽ヶ端が後ろに控えているというのはなんとも頼もしい。

レアルはモドリッチを中心に、ベンゼマのポストを使って攻撃をしかける。

そこにクロースが効果的に絡み、縦への推進力で鹿島ディフェンスを破ろうと試みていた。

前半8分の失点は、植田の中途半端なクリアが痛かった。

モドリッチのトラップからのシュートも驚異的に早く、ラインを上げることができなかった鹿島はあっさりと先制されてしまう。

しかし、ディフェンスを崩されての失点ではなく、事故のようなものであったことで、選手に同様はなかったものと推測される。

鹿島は、フォワードを含めたチーム全体でよく走り、小笠原、永木ら中盤のプレス、囲い込みからレアルにチャンスを作らせない。

ロナウドがボールを持っても、植田や昌子が決して飛び込まず、冷静に、そしてクレバーに対応してチャンスを作らせない。

守備からリズムを作るという今大会の鹿島の流れは、確実にこの試合でも踏襲されていた。

守備面では充実していたものの、どうしても攻撃になるボールがつながらない。

金崎が先発復帰した前線だったが、ボールを奪ってからのつなぎのパスでミスが多く、相手プレッシャーも早いこともあって、なかなか効果的な攻撃が繰り出せなかった。

それでも、小笠原のミドルや、西、遠藤が絡んだ右サイドからの突破など、徐々にレアルゴールに迫っていく鹿島。

そして44分に歓喜の瞬間が訪れる。

左サイドでドリブル突破をしかけた土居が低いアーリークロスを中へ送ると、エリア内に侵入していた柴崎がトラップ。しかし、ボールはおそらく意図していたより大きく前に出てしまう。

フォワードに張り付いていたレアルディフェンスは後ろをとられた格好になり、慌てて対応したが、ルーズボールをクリアミス。

それを見逃さなかった柴崎が、冷静にそして豪快に、敵陣にやりを突き刺す真田幸村の如く、ナバスの壁を破ってゴールを決めてみせた。

世界に衝撃を与えた同点ゴール。

にこりともせず、走り出しもせず、ただ淡々と静かに喜びをかみしめる若きエースの背番号10頼もしく見えた瞬間だった。

後半:不運なPKと疑惑のイエローカード

前半を1VS1で折り返すという出来過ぎの結果でしのいだアントラーズは、そのまま波に乗る。

昌子を中心としたディフェンスラインはさらに盤石となり、レアル攻撃陣に仕事をさせない。

クリスチアーノ・ロナウドは名前を呼ばれることも少なくなり、岡田さんに「たいしたことねえな」と言われる始末であった。

後半7分。

レアルディフェンダーの不用意なクリアを拾った柴崎。

ボールの着地点で相手にまず体をぶつけてボールをキープすると、追いすがる白い壁をいなすようにして、左にドリブルし、ここしかないというタイミングで左足を振り抜いた。

地を這うようなミドルシュートがレアルゴールを再び揺らし、鹿島逆転。

まさに、まさに愛馬にまたがり、真紅の鎧に身をまとい、徳川の大群を切り裂いて、家康の首に刃をかける。

柴咲が猛将・真田幸村と化した瞬間だった。

この夜のサッカー界を震撼させた衝撃ミドルが炸裂し、鹿島がリードを奪うことに成功する。

その後も鹿島はレアルの強烈なプレッシャーにさらされながらも、粘り強く守り抜いていた。

不運だったのは、山本のプレーがPKになってしまったこと。

これがなければと悔やまれるビッグプレーだったが、鹿島はリードを失い、三度レアルゴールを目指さなければならなくなった。

レアルの時間帯、鹿島の時間帯が目まぐるしく動くようになった終盤。

中盤が間延びして、カウンターの応酬という展開になると、鹿島にもチャンスが生まれてくる。

レアルのチャンスは曽ヶ端のビッグセーブで切り抜け、金崎が果敢にゴールを狙う。

鹿島はファブリシオ、鈴木を投入してあくまでも勝ちを目指す

ファブリシオの弾丸ミドル、もしくは後半ロスタイム、遠藤に訪れた最大のチャンスを決めることが出来ていたら、歴史は大きく変わっていたかもしれない。

殿様が出陣しなかった、豊臣の旗印が見えなくなった、大阪城で火の手が上がった。

小さな出来事の積み重ねが歴史を動かしたように、

ピッチの上の小さな変化が、大きなうねりとなって鹿島を飲み込もうとしていた。

そして、疑惑のイエローカード事件。

多くの人が推測していることだが、主審はおそらく、一度出そうと思ったイエローカードを思い直してしまった。

これは間違いないと思う。

そこにどんな思惑があったのかは、本人にしか分からない。

延長:力尽きた鹿島ディフェンスと鈴木のヘディングシュート

90分間走り抜いた鹿島には、もう残り30分を戦い続ける体力は残っていなかった。

一瞬の集中力の欠如によって、ディフェンスラインを破られ、「たいしたことねえ」ロナウドに2得点を許した。

3点目を奪われた後に訪れたフリーキックからの鈴木のヘディングシュート。

あれがもう少し下に飛んでいれば、ジャストミートせず、顔にでも当たっていれば。

鹿島は再び反撃の狼煙をあげていたことだろう。

たったひとつの、ほんの少しの違いが勝敗を分ける。

それは戦国の戦でも、現代のフットボールでも同じことである。

鹿島善戦の理由はDF陣の完成度と柴崎のポジション

鹿島がレアルと対等に戦えた大きな理由の一つがDFラインの完成度だろう。

昌子と曽ヶ端を中心に、西、山本、植田とクレバーかつ、スピード、高さ、読み、組織力などレベルの高いディフェンスラインを構築した。

特に1VS1での対応はほぼ完璧で、クリスチアーノのシザーズに対しても決して安易に飛び込むことなく、組織で対応し守り抜いた。

もう一つは柴崎のポジションだ。

鹿島の場合、ボックス型中盤の右に遠藤というのはほぼ固定だったが、ボランチが永木、小笠原、柴崎の3人でローテーションを組み、その構成によって前の左に中村が入るか、柴崎か、はたまたファブリシオかという選択が行われてきた。

石井監督はこの決勝戦、永木と小笠原のダブルボランチを選択したため、柴崎は一つ前のより攻撃的なポジションでプレーすることになった。

これが、衝撃の2得点を産んだ要因となった。

より前線にポジションをとることで当然、シュートチャンスは増える。

さらにボランチではないことで、守備やカバーリングの負担も減る。

それによって柴崎は攻撃により比重をかけることができるようになり、この2得点につながったと考えられる。

普段、柴崎はボランチにポジションを取り、ゲームメイクに徹することが多いが、二列目からの強烈な飛び出してゴールを奪うと言ったプレーが「できない訳ではない」のである。

今大会の2得点がサッカー界全体に大きなインパクトを残し、ハリルジャパンからも忘れられていた男が一躍、欧州サッカーシーンの目玉商品の一つに躍り出た。

やはり、サッカーは結果、つまりゴールなのである。

柴崎がこれからどういうプレイヤーを目指すのか、本人に聞いてみないとわからないが、一人のプレイヤーとして欧州で花開くためには、ただ「安定したプレー」や「無難なゲームメイク」ができるだけでは十分ではない。そのためにはやはり、「ゴール」という結果が必要なのだ。

柴崎の活躍を紹介した海外メディアの中には彼を「日本のイニエスタ」と紹介しているところがあったが、まさに目指すべきはそこだろう。

ゲームメイクもする、ドリブルもパスもする、そしてもちろんゴールも狙う。

そんなイニエスタのような「セントラルミッドフィルダー」こそ、これからの柴崎が目指すべき到達点の一つと言えるだろう。

2019年・鹿島アントラーズの新たな挑戦が始まる

まだ天皇杯が残されているが、奇跡の下克上で勝ち取ったJリーグのタイトル、そしてレアルとの対戦というおまけもついたクラブワールドカップの準優勝。

シーズン通して、最高に近い戦績を上げつつ、収入の面でもかなりの黒字を計上した今シーズンは、すべて来年以降に向けたクラブの土台となるものだ。

鹿島は3度目の黄金期を迎えるべく、積極的な補強に動いている。

現時点で移籍の報道がされているのは

FW ペドロ・ジュニオール(ヴィッセル神戸)

MF レオ・シルバ(アルビレックス新潟)

FW 金森健志(アビスパ福岡)

DF 三竿雄斗(湘南ベルマーレ)

の4人。

さらに、セレッソの韓国代表GKにもオファーをしたという噂もある。

金崎に頼っていた得点源として、新たに獲得するペドロ・ジュニオールはスピードと得点力を兼ね備えたストライカー・サイドアタッカーとしてカイオの抜けた穴を埋める活躍が期待される。

永木の獲得によって今シーズンは問題の出なかったボランチだが、小笠原の体力的な衰えは間違いなく、その意味でJ屈指のボランチであるレオ・シルバの加入は大きな戦力アップになるだろう。

若手の金森にはブレイクした鈴木と競うことで前線の底上げを期待したい。

三竿には、事実上バックアップがいない左サイドバックを活性化させてもらわなければならない。

来シーズンは2連覇、そしてACLで優勝して再びクラブワールドカップの舞台に戻ってくるという大きな目標がある。

クラブワールドカップで得た4億5000万円、そしておそらく移籍するであろう柴崎の移籍金(フリー移籍はやめてね)を使って、さらなる補強も考えられる。

黄金時代構築に向けて本気を出した鈴木満強化部長の手腕に期待したい。

大国レアルに真っ向勝負を挑み、自分たちのサッカーを貫いて戦い果てたクラブワールド・カップ史上に残るグッドルーザー・鹿島アントラーズ。

彼らのサポーターであったことを誇りに思い、かつ感謝したい。

良い試合を観せてくれて、本当にありがとう。

実力が確実に上回る相手に対しても、明確なコンセプトの元、強い気持ちを持って組織的に戦い、自らのストロングポイントをしっかりと見極めることが出来れば、十分に闘えるということを鹿島は示してくれた。

これはワールド・カップで結果を出すことができない日本代表にとっても、見習うべき見本となる事例だろう。

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