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【カフェ サパナ】大阪・豊中で味わえる世界の料理。国際交流できるカフェ

げいじゅつとごはんスペースAKEBI 木澤夏実

ーー今回訪問したのは、阪急豊中駅から徒歩5分の路地にある、世にも珍しい家庭料理の店。地域の在住外国人が日替わりでシェフとなり、各々が祖国で慣れ親しんできた「おふくろの味」をふるまってくれる〈TIFAカフェ サパナ(以下サパナ)〉である。実際に働いているベトナム人スタッフのホーさん(仮名)にも取材させて頂き、この場所の特色や魅力、今後の展開についてお話をうかがった。

 サパナは、運営団体であるTIFAの事務所1階で2012年にオープンした。TIFAの行うNPO活動・地域の在住外国人・地元の日本人住民とを、誰にとっても身近な〈食〉で繋ぐ日常的な場所としての役割をもつ飲食店である。
 日々の営業は、料理を担当する外国人のシェフと、開店から閉店までの作業や会計などを担う店長の2人体制。比較的煩雑な店長業務は、TIFAの日本人スタッフか、活動歴の長い外国人が行う。
 2021年現在、シェフとしてメンバー登録している外国人は約30名。出身国・年齢・性別・来日理由はそれぞれ異なるが、唯一の共通点は、全員がプロの料理人ではないということだ。それゆえ初めのうちは、一般的なレストランのサービスに慣れた日本人客を満足させられる料理のクオリティーに到達すべく、試作と練習に明け暮れたという。
 今では料理も接客も安定して提供できるまでに成長し、近隣にレストランを独立開業したシェフもいる。
 また、訪れる人々の側も、サパナが「単なる飲食店」とは異なる意味を持つ場所だと理解しはじめた。珍しい料理をただ食べるだけでなく、作り方や食べ方といった伝統文化も一緒に教えてもらいながら、現地の雰囲気もリアルに味わうことができる。
 さまざまなルーツをもつシェフとのお喋りも、どこか非日常的な要素があり楽しい。まるで外国人の友人の家に遊びに行かせてもらう時のような、少しの緊張と大きな期待が入り混じる心地で、人々は今日もわざわざサパナへ足を運ぶのだ。


 1985年に豊中で設立されたTIFAは、これまで多種多様な国際交流活動を行ってきたが、その全ては「どんな人にも安心した暮らしを」という根源的な課題に依拠したものだ。日本語が苦手な外国人を対象にした実用日本語教室や、外国人母子を招いた多文化子育てサロン、ホストファミリーの紹介。同じ街に暮らす市民同士としての自然な手助けは、日本で孤立しかけた外国人たちにとって、どれだけ支えとなっただろう。
 またTIFAでは、外国の民芸品や食品、シェフの手作りお菓子などの販売を通して世界の現状を知ってもらう「サパナマーケット」や、外国人から日本人に向けた言語・文化の教室なども積極的に開催している。支援する側・される側という一方通行ではなく、相互に与え・受け取り合う平等な関係を構築するさまざまな仕掛けを展開し、「ローカルでグローバル」な街づくりを行っている。


 来日後の家庭の事情がきっかけでTIFAと繋がったホーさんは、現在シングルマザーとして育児をしながら、月に数回サパナでシェフを務めている。何ごとにも夢中で取り組むまっすぐな性格で、仕入れ・仕込み・調理、どれにも手を抜かない。その一生懸命さは、「休憩もしてね」とTIFAのスタッフが心配するほどだ。
 一時は足の怪我でシェフができなくなり、引きこもりがちだったこともあった。「ホーさん、どうしてる? 来れそうなら、またサパナで料理をしてよ」というTIFAからの電話が彼女の心を外へと誘い、大好きな料理とお客さんの笑顔に再び触れることで、ホーさん自身にも笑顔が戻ったという。「サパナは、私にとって日本の家族みたい」と呟くホーさんは、健全に愛されて育った子どものような穏やかさを纏っていた。
 TIFAの次なる課題は、彼らの行う「身近な国際交流」を次世代へと引き継いでいくことだ。すぐそばで困っている外国人の孤独な声に耳を傾ける行動力を培うには、インターネットやSNSを介した薄く広い繋がりだけではなく、従来通りの実感を伴った経験や濃い繋がりも必要である。
 異なるルーツを持つ者同士が横に並び合って同じ景色を見たり、何気ないおしゃべりを楽しんだり、同じ料理を食べたり…。何一つ特別なことはない日々を当たり前に共有することで、互いの差異を超えた「人」としての関係性は構築され、保たれていくのだ。
 「例えば、テレビのニュースで海外の事件や災害が報道されたとき、それが前の日にサパナで仲良くなったシェフの出身国だったとしたら、もう他人事だとは思えないですよね。国際交流が果たすものって自分事の拡張であり、それがどんな支え合いの基盤にもなるのです」と、TIFAの田坂由利子さんは言う。
 グローバル化が加速する未来社会を、表面的な「人種のるつぼ」で終わらせず、るつぼの中にいるそれぞれの人たちの意識や感性が彩り豊かに混ざり合う、自由な世界にしたい。それは果たして夢だろうか。私には、サパナが既にそうである気がした。

▼TIFAカフェ・サパナ(2階が事務局、1階がカフェ・サパナ)/大阪府豊中市本町3─3─3/電話&FAX・06─6840─1014


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