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【傍聴ルポ】「暴かれた都構想の後遺症」 都構想パンフレットの公金支出の違法性を問う訴訟

「大阪都構想パンフレット違法訴訟」第3回公判
6月28日(水)14:00開廷
大阪高等裁判所 202号大法廷

編集部 朴偕泰

 4月19日、大阪市長の職を任期満了で終え、悠々自適な生活を送ろうとする松井一郎にとって、悪夢のような裁判が行われた。
 「大阪都構想」の2回目の住民投票の際、説明用のパンフレットが市内に全戸配布された。この内容が明らかに賛成へ誘導しているものだとして、公金支出の違法性を問うたものだ。
 この日は大阪高裁での2回目の口頭弁論があった。原告団の山口弁護士は、法廷に提出する準備書面の内容をスクリーンに映して、傍聴人にも見える形で説明を行った。前回の公判では「住民への情報提供が中立でなければならない理由」を展開したが、今回はパンフレットの内容の偏りを指摘した。
 まず都構想の実現後に、特別区を設置した場合の「財政基盤の脆弱性」を主張した。現在、大阪市には8,785億円もの収入がある。一方で特別区設置後は、財源の一部が大阪府に行くため、6,749億円の収入となる。つまり、財源としては2000億円も減ることとなる。
 また、現在は9割近くを自主財源で賄っているものの、特別区では4割へと激減する。残りは、府からの財政調整交付金(区ごとで収入に差が出ないよう配分されるもの)などでやりくりをしていくこととなる。
 しかし今後、大阪万博やIR誘致などで多額の支出が予想される中、交付金の金額が維持される保証はない。これが「自主財源」と対比して言われる、「依存財源 」の危うさだ。加えてパンフレットでは、特別区ごとに2,400~3,100人ほどの職員数が必要だと書いてあるが、その算出根拠は不明だ。
 たしかに「地方自治」的に言えば、大阪市を分割したほうが丁寧なサービスが行えるかもしれない。しかしこれが成立するのは、特別区の財源が潤沢で、大阪市の頃よりも大きく上回る場合のみである。収入総額も自主財源の割合も減るなかで実施するとなると、特別区の行政サービスが低下するのは自明の理だ。
 そして最後に、これらのデメリットがパンフレットにはほとんど記載されていないことを指摘した。被告の大阪市側は、「原告の結論がどうなるのかわからないので現時点では答えられない」と言って、反論はしなかった。

日本の住民投票は世界水準か

 裁判後の報告集会では、次回の公判についての話が出た。今回の訴訟の一番の争点となっているのは、「パンフレットの偏りは自治体の裁量権の範囲内なのかどうか」である。
 そこで次回は、諸外国の住民投票を例に挙げ、行政側からの情報提供に「中立・客観」的な視点の必要性を主張するという。EU加盟国では、ブレクジット(イギリスの離脱)に象徴されるように、住民投票が活発に行われている。EUでは住民投票のガイドラインがあり、偏りがなく行うように定められている。こうした世界の潮流を説明し、本来の住民投票の姿を提示するという。
 参加者からの質疑応答では、最近この裁判を知ったという男性から発言があった。「私が最初にこのパンフレットを見たとき、都構想が実現したら凄いことになる、と感心した。しかし、住民説明会に参加すると、大阪市側の職員がメリットしか話していないことに気づいた。何も知らない状態で見ると騙されるものだ」
 維新が府知事選と市長選で首長の座を維持したことで、3回目の「都構想」の可能性が高まっている。市民にとっては「迷惑千万」と言わざるを得ないが、同時にこの訴訟の重要性も高まっているということでもある。今後も目が離せない。

(人民新聞 2023年5月5日号)

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