黄色いベスト運動をはじめとした世界の社会運動の潮流と日本の現状

【2019新春討論】 前編 資本主義の横暴と対峙する世界的な民衆運動の行方  酒井隆史(大阪府立大学教授)・原口剛(神戸大学准教授)対談

2018年の終わりには、フランスから「黄色いベスト」運動が始まり、ヨーロッパの他の地域へも飛び火している。また、年末年始にはニューヨーク証券取引所では、トランプの政権運営・米中貿易戦争の不透明感が増すなか株価の大規模な変動が始まった。資本主義はますます不安定さと混迷の度合いを深めている。私たちはどのように今後の社会運動に取り組んでいけばよいのだろうか。

 こうした世界と日本の現在の状況と今後の展望について、酒井隆史(大阪府立大学教授・社会学)さんと原口剛(神戸大学准教授・地理学)さんに対談していただいた。2号に分けて掲載する。(編集部)

▲酒井隆史さん
1965年生。社会学者。著作『暴力の哲学』『通天閣』や、ネグリ=ハート『<帝国>』、D・グレーバー『負債論』の翻訳などを手がける。

▲原口剛さん
1976年生。地理学者。著作『叫びの都市』や、N・スミス『ジェントリフィケーションと報復都市』の翻訳などを行いながら、寄せ場運動に寄り添った研究を行う。

富裕層を優遇するシステムに立ち向かう「黄色いベスト」運動

 酒井…2018年末から、フランスで「黄色いベスト(ジレ・ジョーヌ)」運動が起きており、世界中が注目をしています。勢いは止まらず、ベルギー、ドイツ、ヨーロッパにも広がっています。

 この運動は、2016年の「立ち上がる夜(ニュイ・ドゥブー)」運動の継承という側面があります。労働法の改悪に対する運動で、水平の人間関係と自由な空間の形成を指向するオキュパイ運動でよく知られているアッセンブリー(民衆集会)形成の趨勢に、フランスが初めて合流したものでした。しかし、「左翼政権」だったため議会への期待がまだ捨てきれなかったこと、活動家中心の運動であったがために、今回のようには広がることはありませんでした。

 ところがいま立ち上がったのは、広範囲の大衆です。ガソリン税の値上げがきっかけとなったこともあり、フランスで運転免許を持っている人なら誰もが携帯を義務づけられている緊急用の「黄色いベスト」が運動のシンボルになりました。
 従来の知的枠組みの中では捉えることが難しい運動として、世界中で議論が交わされています。彼らは右翼か、左翼か、ファシストか、反エコロジストか、そうでないのか…。

 トランプ現象もそうですが、ブラジル、ウクライナ、ハンガリーで右翼政権が成立し、世界中で右翼が巻き返しをおこなっています。これは、反グローバリゼーション運動に押されて、ラテンアメリカやギリシアのように急進派が政権を獲得したにもかかわらず、新自由主義政策を棄却できない限界の帰結という点で、ひとつのサイクルの終わりだと解釈することができます。

 そこからもう一度、今度は新自由主義というよりは、資本主義そのものから運動や知的言説の枠組みを取り返す方向に向かっているように思います。たとえば、米国をはじめとする若い世代が、ソーシャリズム、コミュニズムをポジティブにとらえ始めているのはその徴候です。

 「黄色いベスト」運動の発端は、ガソリン税の値上げでした。マクロン政権は当初「わからず屋の民衆が気候変動の問題など考えず、目先のことだけ考えて文句を言い始めた」とみなしていた。そのような枠組みの内部では、「エンド・オブ・ザ・ワールド」か「エンド・オブ・ザ・マンス」か、つまり、世界の終わりの問題か月末の給料の問題かの二者択一が設定されます。エリートの長期的展望も理解せずに暴れているのは、視野狭窄の大衆である、というわけです。

 しかし、マクロンのような新自由主義者が、気候変動の問題に取り組んでいるようにみせかけても、本気ではありません。気候変動の原因として最も責任を問われるべき富裕層や、資本主義システムを問題にすることはしないのですから。むしろこの運動は、富裕層を免責しながら、気候変動の責任を民衆にだけ負わせることへの怒りが爆発したものだと捉えるべきです。

気候変動がもたらす貧困と環境移民

 現在ヨーロッパでは大量の移民が問題となっていますが、その原因の一つは気候変動によるものなのです。国連は、2030年までに年間5000万人の環境移民が生まれると予測しています。気候変動のダメージは、人類に均等に訪れるわけではありません。それは階級分化と密接不可分であり、もちろん貧困層が最も弱い立場に立たされているのです。

 気候変動は日本ではあまり話題になりません。ですが、地質学における「人新世(アントロポセン)論」は、人文科学の専門分野では大きな話題になっています。これは、人間の生産活動が及ぼした影響のために気候が不安定になり、1万年続いてきた完新世(今の地質年代)が終わり、新しい地質年代が始まったというものです。その始まりを産業革命期に置くか、世界的な経済成長期に置くか、あるいは資本新世と呼ぶべきではないかなど、多くの議論を呼んでいます。

 この資本主義の破局的な状況は、2008年のリーマン・ショック以降、欧米ではリアリティのある議論としてとらえられています。しかしまた、近々クラッシュが来るというふうにはいわれていますが、取り繕いながらここまでずるずると引き伸ばしてきました。この資本主義の末期的な状況は、小さな破局を積み重ねながら、次の展望が見いだせないまま延々と続いていくでしょう。この状況に着地点を見いだすのは、非常に時間がかかります。だから私たちは、このような状況に振り回されないよう注意を払わなければなりません。

気候変動と地震期重なった危うい日本

 たとえば、マクロンのようなリベラルは「環境か経済か」という偽物の二者択一を迫ってきますが、このような問いに私たちは乗ってはいけません。

 「アイデンティティか経済か」という二者択一もその系です。実際、レイシズムの問題やナショナリズムの問題、搾取の問題、階級の問題、ジェンダーの問題、そして気候変動の問題は、それぞれ切り離して考えることはできません。資本主義システムは、これらが複雑に絡まり合って形成されているからです。

 19世紀の初めまでは、今の第三世界とヨーロッパの中核諸国にはあまり大きな貧富の格差はありませんでした。ところが19世紀の後半、その時にエルニーニョ現象による気候変動が起きて、それに当時の帝国主義の暴力が重なるかたちで、今の第三世界を生み出したのです。現在起きていることも、基本的にそれと似た状況なのです。

 私も大阪に来て15年くらいになりますが、2018年は地震や台風が相次いでやって来て驚きました。日本は、気候変動と地震期に入ったサイクルが重なっているのです。日本はますます環境的に危うい状況になっていくでしょう。
地震や噴火も重なる日本にタワーマンションが乱立

 原口…日本は、資本主義の破局的な状況を論じるうえで、重大な場所のひとつです。

 欧米社会は大部分が安定陸塊にあるので大地は比較的安定していますが、日本列島は複数のプレートが沈み込む変動帯の上にあります。気候変動にくわえ、地震や噴火までもが折り重なる土地にあるわけですが、そのぜい弱な地盤の上に巨大なタワーマンションを作リ続けるのです。

 しかも上層階であるほど値段が高く珍重されるというのは、なんとも皮肉です。さらに、大阪の夢洲を埋め立てようとするなど、都市開発はますます暴走しようとしています。

 また、これまでも危機的状況はたびたび訪れましたが、破局を好機として、それを建て直すんだといっては独裁的権力が力をたくわえてきました。大阪では、橋下市政がまさにそうでしたよね。そのような悪循環を許してしまったのも、階級の問題が決定的にないがしろにされてきたからでしょう。

 新自由主義については、地理学者のデヴィッド・ハーヴェイが、その本質とは「略奪による蓄積」であると論じています。つまり現代の資本主義は、もはや労働市場をつうじた搾取だけではなく、土地の強奪や詐欺まがいの資産横領によってかろうじて生きのびている、ということです。

 この議論は、2020年オリンピックや2025年大阪万博を考えるうえで、きわめて重要な分析視点だと思います。これらメガイベントに関してまず問題としなければならないのは、「オリンピックを、万博を、より良くしよう」という考え方です。

五輪や万博の根本にある略奪・横領・階級暴力

 具体的には、「カジノとセットの万博は良くない」という意見ですね。それではカジノと切り離しさえすればいいのかというと、そうではありません。私たちは、万博そのものを問題としなければなりません。

 カジノだろうが万博だろうが、それは土地から利潤をむしり取ろうとする階級戦略であり、広い意味でのジェントリフィケーション(注)戦略です。

 (注)ジェントリフィケーションとは~都市の階級的浄化。デベロッパーによる再開発などにより、貧困層の住む地域が立ち退きを迫られ、最終的に中産階級だけが住まう街として作り変えられていくような、一連の過程などをさす。

 他方では、酒井さんが「環境か経済か」の二者択一を迫られる話をされましたが、「労働者にとって万博工事の雇用が増えるのはいいことではないか」という意見も出てきつつあります。しかし、実際にそこで起こるのは労働の強化であり、資本へのさらなる従属でしょう。 だからこの問題を、賃金や雇用の枠組みだけで論じるわけにはいきません。また、貧困の問題を議会の枠内だけで解決する「第三の道」路線が目指したような、雇用による自立支援だけでは、権力に組み込まれるだけでしょう。そうではなく、オリンピックや五輪の根本にある略奪や横領、そして階級暴力を問題にしていくところまでつき抜けていかねばなりません。

 私は、「黄色いベスト」運動のひとつの発端が、ガソリン税の値上げだったことを重視したいと思います。ブラジルのリオデジャネイロの反五輪運動は、これは私が一番拍手した瞬間ですけれども、聖火を消してしまうほどの激しい運動となりました。その発端も、やはり交通問題、バス料金の値上げでした。日常生活と階級を出発点として組み立てて、突破口を見つけていくということが必要だと考えます。 

 蜂起的な状況は、それを可能にするような状況をどれぐらい作ることができるかにもかかっていますが、起こる時には急激に起こります。
「蜂起」は多様な民衆運動の連続軸の中で起きる

 酒井…蜂起が起きるときには、その背景には蜂起が可能な空間、可能な状況、空気などの条件が前提とされ、それが幾重にも折り重なった上で起こると思います。

 「黄色いベスト」運動も、「立ち上がる夜」運動との連続性の中で起きました。その前にはニューヨークのオキュパイ運動があり、インディグナドス運動(スペインの反緊縮運動)があり、アラブの春があり、アルゼンチンの民衆蜂起があり、その他さまざまな民衆闘争の記憶を前提としています。

 必ずしも全ての「黄色いベスト」運動がそうではないのですが、いくつかのところでは水平の人間関係を組織化することを目指しています。かつ、代表を作ろうとしないという勢力が強く、当局側との話し合いをしようというグループもいれば、それを阻止しようというグループや潮流もあります。それが具体的にどのようなビジョンにつながるのかはまだ不明ですが、基本的にはそのような作風が広がっているということが重要です。

 「黄色いベスト」運動は真の蜂起的状況をつくったという人もいます。フランスでは、「蜂起」という言葉は独特のニュアンスを持っています。フランス大革命以来の民衆運動には、ある時点まで必ず「蜂起権」を記した1793年憲法の記憶がつながっていました。ですからフランスで蜂起派というと独特のニュアンスが込められます。今回はパリに50年ぶりにバリケードが現れたそうですが、こうしたことも蜂起を可能にした条件の一つです。

根本から問いを投げかける必要性

 そこで今私たちが日本でやれることの一つは、何か根本から問いを投げかけることのできるような空間を作る準備をしていくことではないかと思います。そして、私たち研究者・ジャーナリストの担うべき役割の一つは、語彙やアイデアを広めていくことだと思うのです。

 「環境か経済か」といった偽物の二者択一を突きつけられるような局面では、とりわけそれが重要となります。「経済成長がなければ再分配はない」などと、後退してはいけません。危機感に駆られて、少しでも既存の道具立てでポジティブなことを言いたくなるのでしょうが、かつて民衆の運動や市民運動が対峙してきたもの、少なくとも疑義をつきつけてきたものにここで頼ってしまっては、破局を促進させるだけでしょう。 こういう状況には、忍耐が必要だと思うのです。私は、多くの研究者がこういう流れに乗っかっていることに危険を感じています。「良心派」のポジションをジャーナリズムで示しながら、成長や開発をことほぐというタイプの人もあらわれました。

 ほとんどの場合、そこには戦後にかかわる「歴史修正主義」がともなっています。強調しておきたいのですが、「歴史修正主義」は、「ネトウヨ」だけのものではありません。

 たとえば、労働運動がめざしていたものを想起しましょう。その闘いの目標は、「成長」とはさしあたり無関係であり、むしろ成長は、そのはげしい闘いの結果でした。

 しかも、戦後のケインズ主義(政府が投資して経済成長を促す)や、フォーディズム(拡大再生産と賃金上昇に依拠する経済システム)のメカニズムによって、ごくわずかな期間にだけ再分配つきの成長がありえたというだけです。

 労働運動が目指してきたのは、基本的には、労働条件の向上と、そして労働の解放、あるいは労働からの解放です。

利潤の源泉メガイベント民衆の生活を暴力的に破壊

 危惧するのは、こうした成長や開発への疑義を棄却する「リベラル左派」の流れが、気候変動を念頭においていないだけではなく、具体的には、オリンピックや万博、より一般的にはジェントリフィケーションのような、破壊的な資本の動向に合流してしまうことです。すでに釜ヶ崎を語りながら開発を称揚する言説が、露骨なネオリベラルではなく、「良心派」のうちにあらわれています。世界的にこのようなメガイベントは、民衆の生活と正面衝突を起こしていて、ほとんど不可能な状況に陥っています。リオデジャネイロの反五輪運動は巨大な大衆運動となりましたが、他方で、スラムの絶滅政策と呼んでよいほどの暴力的な開発とそれに対する抵抗への弾圧がありました。ブラジル労働者党のルラ政権の下で、ある意味では絶滅的なジェントリフィケーション、スラムの浄化、暴力的な排除が行われたのです。いまの極右の台頭は、その一つの帰結です。

 メガイベントのスペクタクルに資本が依存せざるをえないのは、資本の一つの時代の終わりを意味しています。もはや利潤の源泉を生産に見出すことができないのです。

 メガイベントを次々と打ち出すことで、金融資本、予算、金融不動産、保険などの分野を中心とした経済が作動して、利潤の機会を形成しようとするのですが、それがますます民衆の利害や生活と乖離していることはあきらかです。

 日本ではすでに東京オリンピックの矛盾が噴出して批判されていますが、それが終わったとしてもまだ万博が待っていて、今後5年、6年の間に何が起きるのかを考えると、かなり憂鬱になります。
金融不動産の象徴タワーマンション巨大化で破局寸前の東京

 原口…金融化が進めば進むほど不動産が巨大化して、それが民衆の必要とどんどんかけ離れていくという状況は、東京の街を歩いてみるとよく分かります。

 たとえば、小泉政権以降、「都市再生緊急特別地域」という特区が作られました。そこでは規制が取り払われて、高さの制限に縛られることなく建て放題となります。大阪では梅田駅周辺や臨海の人工島が指定されていますが、この特区がもっとも集中しているのが東京です。とくに衝撃的なのは臨海副都心で、そこでは競技場や選手村が作られようとしています。そこにいま、大量のタワーマンションが作られているのです。都心に比べると人の目がありませんから、やりたい放題の開発をやっている状況です。築地市場を移転させて、移転させた先で有害物質が出ている状況を見ても、すでにたいへん深刻な状況をもたらしているのは明らかです。

 いま東京の海上に作られているタワーマンション群は、これまでにない規模の、完全に人間の地図感覚を狂わせるような巨大さを持っています。これこそ巨大開発の金融化をわかりやすく示した景観と言えるでしょう。一目見ただけで「あ、これは破局するな」と感じさせるほどです。

 【※都心臨海部を中心とした五輪開発の模様については、「反五輪フィールドワーク2018決行!」「反五輪の会」のウェブサイトを参照】

 歴史的には資本主義が危機的な状況に陥ると、不動産投資に走るものでした。そのあとにはかならず金融と不動産の破局がおとずれ、破産のあとに残されたインフラが新しい資本の蓄積の舞台となっていく。  このサイクルを繰り返しながら資本主義は生きのびてきたわけですが、重要なことは、それがただの「振り出しに戻る」のではないことです。
住むためではなく売買するために作られた虚構の産物

 時代を経てサイクルを繰り返すごとに、資本の量もインフラも累進的に巨大化してきました。そのたびに積み重ねられたコンクリートやガラスは、いまや途方もない量となっています。とうに極限を超えているといっていい。そうした巨大化をよく示すのが、先ほどのタワーマンションだといえるでしょう。

 そもそも、ここに誰か住んでいる姿を想像することさえ難しい。おそらく、住むために作っているのではなく、売買するために作っていると考えるべきでしょう。株の売買と同じで、暴落する前に売り抜けるかということだけしかありません。その後どうなるかを考えれば、すぐそこに作ったタワーマンションがスラム化する未来の姿が、二重写しになって見えてきます。

 酒井…タワーマンションは、住民が支えきれないくらい修復費が莫大になっていくと言われています。耐震性は満たしているとは言われていますが、エレベーターは止まります。エレベーターが止まれば、生活ができなくなるのです。階段の上り下りだけで移動するなら、私なら5階建てが限界でしょうか。生活に即して言えば、タワーマンションは、災害には非常に弱いのです。

 バベルの塔を建てて高さを追求する人間は、昔から滅びるものとされています。タワーマンションは日本の資本主義の破局の象徴のようです。(次号に続く)

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