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Society5.0の行き着く先は『ユートロニカ』なのかも

小川哲著『ユートロニカのこちら側』。

「#読書の秋2020」課題図書であったことがきっかけで手にしたが、面白かった。SFには苦手意識があるのだが、違和感なくひきこまれた。

SFといっても異星人が出てきたり異空間に迷い込むわけではない。数年後にはこういう社会になっているんじゃないの?とうすら寒く感じるくらいの、現実味のある設定なのだ。ソフトSFと呼びたいくらいだ。


既に現在でも、ネット通販をすると、いや購入していなくてもサイトを見ただけで、その後のWeb広告に類似商品が並ぶようになった。便利に感じる人もいるのだろうが、興味・関心をコントロールされているようであまり良い気持ちはしない。そんな違和感を感じる人が、この本の主人公達でもある。

本書では、このような状況を

自分の過去に縛られて生きていく不自由さ

と表現している。


「Society5.0」という言葉をご存じだろうか。農業革命、産業革命、情報革命と発展した、その次の社会のあり方として、仮想空間と現実空間を融合したシステムが提言されている。詳しくは内閣府のサイトを参照してもらいたい。

「Society5.0」の行き先として、本書のような世界を言い出す人が出てくるんじゃないかと、そんな気さえする。

だから、リアルなのだ。それどころか、本書で書かれていることは、現代社会の人間の心の中に起こってきているかもしれないとも思えた。すでに。


著者の名は、昨年の直木賞の際に初めて知った。たまたま先に読んでいた『熱源』と一緒に候補になっていて、気になっていた。本書で初めて著作を読んだが、情報量がすごくて、筋が通っていて、しかも哲学的で、なんて知的レベルの高い人の文章だろうと思った。もっとこの人の本を読みたくなった。


さて、本書の特記すべき事項として、唐突にゴリラが登場する。しかも複数の章で。暗喩なのか、なぜゴリラかというところは気になって仕方がない。

ゴリラ本といえば、

山極壽一『ゴリラ』(ゴリラである)

ハロルド作石『ゴリラーマン』(ゴリラではない)

田中泰延『読みたいことを、書けばいい。』(あなたはゴリラですか?)

などがすぐ浮かんだ。

『ユートロニカ~』は、日本四大ゴリラ本として、私の記憶に刻まれたところである。