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岡崎琢磨さん『下北沢インディーズ』刊行記念イベントの舞台裏@本屋B&B

岡崎琢磨さんの新刊『下北沢インディーズ』(実業之日本社刊)の出版記念イベントが、7月30日に下北沢の本屋B&Bで開催されました。ゲストは誉田哲也さん、島本理生さん、佐藤青南さんという豪華な顔ぶれ! 興奮冷めやらぬ編集担当・藤森がイベント当日までの舞台裏を振り返ります!
※トークの詳しい内容も、別途アップする予定です。

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『下北沢インディーズ』は、バンドマンたちの青春ミステリーだ。2017年にwebジェイ・ノベルで連載がはじまり、私は3代目の編集担当として単行本化から携わることになった。謎を解くのは音楽雑誌編集者の音無多摩子。安楽椅子探偵役は下北沢のライブハウス「LEGEND」のマスター、五味淵龍仁(慧眼の持ち主だが、自身の奏でる音楽はクソダサい)。

ゲラを読むたびにグッときたのは、バンドマンたちのひりつくような感情だ。才能への嫉妬、デビューが遠い焦燥感、もつれる人間関係と恋愛模様……。心理描写がリアルな上に、その感情が謎解きにも深く関わってきて、読み応え満点だった。
岡崎さんは、中学時代から作詞作曲を始め、高校時代に初めてバンドを組んだそうだ。京都大学卒業後も就職せず、実家のお寺を手伝いながらプロデビューを目指したが、結局音楽の道はあきらめたという。『下北沢インディーズ』にはその経験が十二分に生きている。


岡崎さんはその後2012年に『このミステリーがすごい!』大賞隠し玉に選出された『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』(宝島社文庫)で華々しくデビューすることになる。ご存じの通り、〈タレーラン〉シリーズは累計200万部を超える大人気シリーズに成長し、昨年秋に刊行された『夏を取り戻す』(東京創元社)は、本格ミステリ大賞最終候補作に選ばれるなど、活躍を続けている。
 
刊行記念のトークイベントについて打ち合わせたとき、岡崎さんからまず名前が挙がったのは誉田哲也さんだった。誉田さんといえば『ストロベリーナイト』だが、『レイジ』『あの夏、二人のルカ』『疾風ガール』など魅力的なバンド小説を書かれているし、ご自身がバンド活動をしていることでも有名だ。

「もしも誉田さんに来ていただけることになったら、欲張りだけれど、島本理生さん佐藤青南さんにも参加してもらえたら嬉しいですね」という話にもなった。説明するまでもないけれど、島本さんは『ナラタージュ』『Red』など恋愛小説を多く発表し、昨年『ファーストラヴ』で直木賞を受賞されている(私は『あなたの愛人の名前は』をもう何回読んだかわからない)。
佐藤青南さんはドラマ化された「サイレント・ヴォイス」〈楯岡絵麻〉シリーズをはじめとしたミステリーを多く手がけている。私はデビュー前からご縁があって、小社文庫の〈白バイガール〉シリーズを担当している。

なぜこの名前が挙がったかというと、全員、2019年1月に開催された「SAKKA SONIC」(サカソニ)に出演しているのだ。サカソニはその名の通り、作家によるロックフェスティバルで、中心となったのは、誉田さんのバンド「ザ・ストロベリーナイト」。そこに岡崎さんのバンド「譫言」(うわごと、と読む)、青南さんのバンド「佐藤青南」、それから島本さん&星野概念さんのユニットが参加した。

『下北沢インディーズ』販促担当の加藤は観に行った翌日、「サカソニ、すごく盛り上がりましたよ! 皆さんガチで、僕も学生時代にやってたベースを再開したくなっちゃいました!」と興奮していた。
ちなみに「譫言」は、岡崎さんがギター&ボーカルで、ベースは作家の明利英司さん。ドラムスの吉住浩太郎さんは、岡崎さんの高校時代の同級生で、岡崎さんとは10年以上歩みをともにしている音楽仲間だ。
皆さんご多忙だろうから難しいだろうと、ダメ元でオファーしたところ、幸いなことに快く引き受けてくださった。本当に嬉しい! ひとえにSAKKA SONICのおかげだ。

会場は「本屋B&B」と決めていた。下北沢だし、ビールも飲める。何よりもお店に流れる自由な空気が『下北沢インディーズ』にはぴったりだ
B&Bに打ち合わせに伺うと、イベント担当の中川さんは「それなら、トークだけじゃなくて1曲やったらどうですか? 下の階もライブハウスだから、大音量出しても大丈夫ですよ!」と提案してくださった。そしてノートPCを開き「男性3人、女性1人? それならこの曲が面白いんじゃないかな……」と前のめりに検索し始める。どうやら相当の音楽好きらしい。
もちろんセッションが出来ればお客さんにも喜んでもらえるけど、ゲストにそこまでお願いしていいものか。思い切って皆さんに相談すると、有難いことにご快諾くださった!(これもひとえにSAKKA SONICのおかげ……!!)。

7 月30日のイベント当日。開演の2時間前に全員集合して、打ちあわせもそこそこに、リハーサルが始まった。演奏する曲はサカソニでセッションした「デイドリーム・ビリーバー」だ。メインボーカルは岡崎さん。島本さんはサブボーカル。誉田さんはタンバリンのような打楽器、パンデイロ。ギターは岡崎さんのアコースティックギターと、青南さんのエレキギターだ。

B&Bは毎日イベントを開催していて、マイクやスピーカーは揃っている。中川さんが私物のアンプやマイクスタンドを用意してくれて、即席のステージが整った。
リハが終わっても、誉田さんと青南さんはファミリーマートの入店音をハードロック調に弾いたりして、遊んでいる(テレレレ、テレレ、テレレレレ~♪というあれです)。なんだか無邪気なバンド小僧そのものだ。島本さんは、会場の端で楽譜を手にメロディを確認している。開場前のライブハウスのような雰囲気のなか、だんだん開演時間が近づいてきた。

 20時、満員のお客さんを前に、イベントが始まった。MCは青南さん。飾らないお人柄を良く知っていたので、きっとリラックスした場になると思ってお願いした。誉田さんの発声で、ビール片手に乾杯する。

トークは『下北沢インディーズ』の話からはじまって、これまでどんな音楽を聞いてきたかなど、気のおけない音楽仲間が集まったような、笑いの絶えない時間だった。終盤になると誉田さんのツッコミが冴えわたり本当に楽しい。

あっという間に1時間近くが経過した。トークは佳境に入り盛り上がっているが、終了時間が迫ってきた。断腸の思いで脇から「そろそろセッション!」と書いた紙を掲げるが、まるで気にせず話を振り続けるMCセーナン。こちらも紙を振り続けていたら、ようやく「なんか圧がすごいんで、セッションに行きます」と切り上げてくれた。本当は私ももっと話を聞いていたかったよ……。

会場のライトが落ちると、誉田さんのパンデイロが軽やかにリズムを刻みだす。青南さんのエレキギターが加わり、岡崎さんが歌い始める。少しだけ鼻にかかった、どこか甘さがある歌声が心地良い。
歌声を聞きながら、岡崎さんが「『下北沢インディーズ』は僕の私怨がこもった本なんですよ」と言っていたことを思いだした。確かに、この小説は、プロのバンドマンを目指していた頃の想いがミステリーとして昇華されている。
アコースティックギターを抱え客席に向けて歌う背中を見ていたら、諦めた夢を胸に抱き続けることも、岡崎さんが作家として歩んでいくための大切なエンジンなのかもしれない、と思った。

サビで島本さんの透明感のある歌声が、重なる。
「ずっと夢を見て 安心してた 僕は 
Daydream beliver そんで 彼女はクイーン…」
次第に、客席からもリズムに合わせた手拍子が聞こえてきて、会場の熱気が増していく。
小説家として、煌めくような才能を持っている4人が、いま息を合わせて音楽を奏でている。青南さんのギターソロ。島本さんが客席に呼びかける。誉田さんが叩くパンデイロがさらに熱を帯びる。

ああ、バンドっていいな。『下北沢インディーズ』をかたち作っている芯のようなものを肌で感じて、胸が熱くなった。

最後まで読んでくださりどうもありがとうございました!

当日の詳しいトークの内容は別途アップする予定です。       

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