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『新・養生訓 健康本のテイスティング』出版記念・露払い(その二)

こんにちは。

いち編集部のリアルです。

前回は、10月新刊『新・養生訓 健康本のテイスティング』刊行前のご案内として、対談者のお一人の岩田健太郎先生のお話でした。今回はもう一人の対談者、BuzzFeed Japan,News Editorの岩永直子さんについて少しお話をさせてください。

岩永さんのお名前を知ったのは、いつ頃でしょうか。知らぬ間に知っていたという印象でして、やはり『ヨミドクター』編集長時代の記事からでしょうか。昔から読売新聞の社会部は優秀な記者さんを多く輩出しており、第1回と第3回の菊池寛賞を受賞されたりと、「社会部たたき上げ」というだけで新聞報道の王道という感じがしますけれども、同新聞の医療部も日本に冠たる独特の存在でして、当方も編集の道に入りたての頃は、上司の助言を受け、読売医療ルネサンスの記事をハサミでノートに切り貼りし、自分の乏しい医療リテラシーに日々肥やしを与え続けていたのを覚えています(ああ、なつかし)。

ですので、読売新聞の社会部→医療部→ヨミドクター編集長という肩書だけで、もう私なんぞからすると、岩永さんは雲の上の方でして(お会いすると、本当に気さくで、自然体のお方)、今回イワケン先生から健康本のソムリエ企画のお話をいただいたときも、瞬間的に対談者は岩永直子さん、と脳のどこかでスパークしたのでした。でも、ここだけの話、最初は別の方を対談相手に推そうか迷ったのです。テレビでも露出の多い脳科学者の方や精神科医の方、あるいは、ちょっと違った切り口だと病理医の方(あれ、もしかして…ですね)。でも対談のお相手は、男性の識者よりも女性の識者のほうがいいのではなかろうか、なんとなくですけれど、あのイワケン先生のマシンガントークを全弾命中でまともに受けて撃沈してしまうようなファイトを展開するより、聞くことを生業としており、どんな悲惨な現場やシリアスな情報にも客観的な目線(そんなの無理か…)で観察でき、第三者に対して偏りのない情報発信ができるスキルをもち、かつ場数を踏んでいる人。ほんとに自分の勝手な思い込みですけれど、そういう方でないと本企画は成立しないのでは…と考えた節があり、そこで自分の中の引き出しから岩永さんのお名前が「ぱぁっ」と出てきたのだと思います。まさに、

医療つながりで、報道のスペシャリスト、といえば
日本には、岩永直子さんが、いらっしゃるじゃないか。

となったのです。もちろんあまたある対談候補の中から最終的にお相手を決められたのはイワケン先生です.もう1つ種明かししますと、イワケン先生が以前、村上春樹さんと川上未映子さんの対談本『みみずくは黄昏に飛びたつ』をSNS上でレビューされていまして、いち編集部のリアルも村上春樹のいち愛読者として、この本を面白く読んだ経緯があり、いちよ対談なのだけれども、川上さんが村上さんに根ほり葉ほり「訊き」、その勢いにおされて村上さんが「語ってしまう」(「訊く」「語る」の表紙)という対談のあり方がユニークでし、こうした打ち出し方も「あり」かな…とも思ったわけです。

村上対談

実際、『新・養生訓 健康本のテイスティング』の中でどのような展開になっているかについては、本書をご覧いただくとして、岩永さんにはイワケン先生の聞き手としても、十二分のお相手をしていただきましたし、岩永さんもイワケン先生相手に首肯できない議論は断固『NO』とされていましたし(結構多い!)、そのやりとりが本書のもう1つの醍醐味かなと思います。

そうそう、じつは、ですね。この本、イワケン先生から提案されたとき、こうこうこれこれの本みたいにしたい。とまさに名指しでモデルとなる本を1冊提示されたのです。さすがに…、その書名は申し上げますまい。本書をご覧になられた読者の中に奇特な方がいらして、「もしかしてこの本を参考にされたのでは…」と当てることができたとしたら、その方は名探偵コナンレベルの洞察力の持ち主です。

と、またまた話が脱線してしまいましたが、岩永さんについていつも感心してしまうのが、そのニュース記事のセンスと報道姿勢です(こんな言い方おこがましいのですが、以下駄弁お許しください)。

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医療ジャーナリストとして、岩永さんほど、そのときどきの医療問題(時宜を得た切実なテーマ)を逃さず、専門家や厚労省役人へのアプローチはもちろんのこと、医療上の被害を受けられた方や難病で苦しむ患者さん等の声を丁寧にお聴きし、ひとえに医療リテラシーの普及や現場の声をお届けすることに問題意識をもって取り組まれる方もいないのではないかと思います。しかも、例えば、SNSとかで、こんな話あり得ないよね、みたいなひどい話が取り上げられたりすると、その数日後にはニュース記事としてアップされていたりします。事象にアクセスする嗅覚のよさ(テーマの選択性)、記事発信のタイミング(即応性)、そしてその記事には常に困っている方々に寄り添う姿勢(ヒューマニズム)を感じるのです。HPVワクチン問題や医療過誤、働き方の問題、先日は夏休み明けの児童の登校拒否や自殺の問題なども、彼女でなければあのタイミングで、あのテーマで、ああした問題を深堀りできなかったと思うのです(個人の感想です)。と、思いきや、

『机まわりがカオスな人は仕事できる仮説』を検証 きっとあなたも今日から散らかしたくなる......(以下写真,同記事より)

カオスデスク

の記事では、本書の第2回目の対談の際、イワケン先生の教授室で撮影したデスクまわりのカオス(?)写真を紹介するなど、ときどき羽目を外したおちゃめな原稿もお書きになるのです。本当に多様性のおありのある記事ばかり。いつも「すごいなぁ」と感心しきりなのです。

メールで何度かその旨を岩永さんに申し上げたことがありますが、新聞報道出身のキャリアとしては、おそらくそれは「当たり前の姿勢」なのでしょう。たたき上げと申しますか、それをするのが自分たちの仕事、まだまだ足りない、もっと何とかしなければ…みたいな焦燥感と意気込みをいつも岩永さんの記事から感じるのは、いち編集部のリアルだけでしょうか…。

で、今回もお忙しい中、2度の対談前に11冊の課題図書すべてを読み込んでくださり、当日は膨大な数の付箋がついたそれらの本を持参し、対談に臨んでくれたのです。対談の模様は紙面に反映しておりますので、本書に譲るとして、1回目の対談は東京開催。2回目の対談は神戸開催で、なんとイワケン先生の教授室で行わせていただきました。岩永さんと編集部のホームタウンが東京、イワケン先生は神戸だから、両都市での開催と思うでしょう。…じゃないのですよ。じつは本書の企画説明の際、最初にBuzzFeedのオフィスに伺ったとき、岩永さんが

神戸王子動物公園の「旦旦(タンタン)」に会いに行きたい

と申されたのです。ですから、2回目は神戸開催なのでした(笑)。岩永さんのパンダ好きと酒好きは筋金入りのようですが、さすが百戦錬磨のジャーナリスト、出張時間や移動時間はあだやおろそかには無駄にされません(!)。神戸に赴くなら(=タンタンに会う)のご発想は、いち編集部のリアルも(1本!)取られたのでした。もっとも本書の「あとがき」(岩永さんの筆による)では、やっぱり本書の企画をお受けされたのは高名な感染症医の岩田先生にお会いしたく…というのが動機のようです。タンタンはきっと…ご愛敬なのでしょう。


と、ここで語りを終了する予定だったのですが、前回のイワケン先生の時も好評だった。「岩永さんにはある特徴があります」をやっちゃいます(岩永さん,ごめんなさい!)。

まず、①何といっても人当たりが穏やか(と申しますか、実力のおありの人というのはイワケン先生も含め、ほぼ皆さん「居丈高な感じ」の反対側にいらっしゃるのですね)。最初の打合せでBuzzFeedのオフィス(いかにも外資系という感じ、めちゃきれい、応接室からの景色も抜群)に伺ったとき、「あの岩永さんにお会いできる(!)」と年甲斐もなく、内心わくわくしていたのですが、(それが不思議なのです)お会いした瞬間に「以前、お会いましたっけ…?」ぐらいの空気感なのです。その場に一緒にいるのが苦にならない、ま、取材のプロですからこの方に取材されたら2時間ぐらい平気でしゃべっちゃう(かも)みたいな感じなんですね。それがまずすごい。

それと②原稿やゲラチェックの〆切は…いつも「ぎりぎり」なんですねぇ(笑)、でもお忙しいのに必ず期日は守ってくださいます。そして③①の印象とは対照的に納得がいかないものには「絶対納得がいかない!」を貫きとおす(一貫性、と申しますが、うまく言えないのですが、感性で「No」なものは「No」と岩をも貫きとおす)芯の強さがおありなのです。その感性というのは動物的な感覚というのではなくて、これまで取材者として場数を踏んできた、あるいは多くの取材先の方に肉迫されてきた知への共感(規準のようなもの)、世の中の不文律への憤り、さらには宗教学を学んでこられたご自身の世界観のようなもので積みあがったジャーナリストとしての感性でして、「これはあかんやろ」と思った事象に対しては、途端にジャンヌダルクのような闘争心をお示しになる。そんな瞬間が本対談でも幾度かほのみえたのでした。もう、いち編集部のリアルなんぞには、そのような覚悟はございませんから、今回の対談、「岩」と「岩」とのぶつかりあい、激しく火花が散る瞬間に立ち会うことができて(とても幸せ)、もとい、とてもスリリングな瞬間に身震いを覚えたのでした。

最後に④取材姿勢や記事のすごさ、については上述済みですので割愛しますね。と、いろいろと失礼も顧みず申し上げてしまいましたが、岩永さんの記事もお人柄もいつも「いいなぁ」と心底思いますし、今回、この本のおかげで、お仕事をご一緒できて果報者と思っております。これからも記事楽しみしてますし,応援させてください。

今回はこの辺で。次回(第三回目・最終)は、いよいよ刊行直前になりますから、著者からのメッセージを紹介させていただきましょう。

ご清聴(読)ありがとうございました。

2019.10.03

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